第117話 トーナメント開幕


「おめでとうシュタル!」

「おめでとうございます。シュタルさん」


 俺が控室に戻ると、アストリアとリュミエールがいた。

 そして、ねぎらってくれる。


「ああ、後4回勝つだけで優勝か。割と早いな」

「4回って……皆強い人なんじゃないの?」

「どうせ俺が勝つことは決まっている。だから回数が少ない方がいいに決まっているだろう?」

「そ、そこまで自信満々に言うのは……やっぱりすごいね……」


 アストリアは苦笑いだ。


「それがシュタルさんですからね。それで、他の人の試合を観に行きますか? 今の試合の勝者が次のシュタルさんの相手ですよ?」

「いや、俺はいかない」

「え? いかないの?」

「ああ、俺は初見で正面から叩き潰す。だから見ない。お前達は好きにしろ」

「う、うん……」

「俺は適当に街を見て回ってくる」


 俺はそう言って2人と別れて街中をぶらつく。


 そして、俺の後からつけてくる相手を確認して、人気のない場所に向かう。

 人気が無くなると、俺は足を止めて声をかける。


「俺をつけてくる理由を聞いてもいいか?」

「……良く気付いたな」


 俺がそう言うと、俺を囲むように1黒ずくめの者達が10人囲んできた。


「俺は最強だからな。それで、理由は?」

「次の試合は棄権きけんしろ」

「単純だな。だが、なぜ俺が棄権しなければならん? お前達の主か……雇い主が俺に勝てばいいだけだろう?」

「お前の実力が未知数だ。それに、お前を倒した後も、その後も油断できる相手ではない。だから少しでも力を温存しておきたいのだ」

「なるほどな。だが残念だ。俺は誰にも屈しない」

「屈しろと言っているのではない。取引を求めている」

「対価は?」

「何が欲しい? 金、女、出来る限りは用意してやる」

「その程度か?」

「なに?」

「お前達に用意出来るのはその程度か……と聞いている」

「決裂か」


 そう言うと周囲の連中は一斉に俺に短剣を投げてくる。

 しかも、それぞれには毒が塗られているのが分かった。


 だが、親衛隊の隊長の一撃とは比べ物にならない。

 密度で勝負しているようだけれど、これでは話にならないからだ。


 俺は短剣を全てかわし、話していた相手以外全員に拳を打ち込んで意識を奪っていく。


「がぅ!?」

「げはっ!?」


 9人全員の意識を奪い、刺客に向き直る。


「な、なんだ……と」

「さて、お前達の主に伝えておけ。好きな手を使ってくるといい。全力で俺を殺しにこい。そこまでして初めて、俺がお前達を敵として認めてやるだろう」

「……後悔するなよ」


 奴はそう言ってどこかに走りさっていく。


「よし、これで……次の敵は本気になるだろう。本気の敵と戦わなければ意味がないからな」


 別にこんなことしなくてもいいかと思ったけれど、これくらいの強さを見せつけておいた方が、敵もより一層真剣に俺を殺しに来てくれるだろう。

 なら、それくらいのことはする。


「よし。帰るか」


 そして、俺は適当に魔物を狩りにいく。


******


『さぁ! 本日より武闘大会決勝トーナメントの開催かいさいです! 選ばれし16人による完全実力バトル! 目が離せないでしょう!』

「わああああああああああ!!!」


 実況の声援に、会場がく。

 観客席も満員になっていて、みな興奮した表情をしていた。


『さて! それではこれから決勝トーナメントのルール説明をさせて頂きます! 本日は1回戦を行い、明日は準々決勝! 準決勝! そして、決勝を行います! さて、それでは早速選手を紹介していきましょう!』


 実況が選手紹介をする度に歓声がこれでもかと湧き上がる。

 こういう姿を見ていると、人も魔族も対して変わらないと感じる。


 それから俺は自身の出番まで控室に行く。


 因みに、決勝トーナメントまで進んだ者は安全などの為に個室が与えられている。

 中に入ることが出来るのも、事前に決められた者だけだ。


 なので、俺の控室にはアストリアとリュミエールがいる。


「シュタルさん! 頑張って下さいね!」

「シュタルなら余裕だよね! きっと、一歩も動かずに勝てたりするんじゃない!?」

「流石にそれは……難しい気がするな」


 武闘大会。

 先ほど選手紹介をしていた時に、沼地で出会った奴がいた。

 奴も当然という様にその場に居て、俺の微かな視線にすら気付いてみせた。


 そして、トーナメント表を見ると、そいつとは決勝で当たる。

 だから、これからが楽しみ過ぎて興奮が収まらない。


「そんなに強いの?」

「ああ、楽しみ過ぎて動かないという選択肢は取れないな」

「ああ……そういう……。何番目だっけ?」

「6番目だな。だからお前達も試合を見にいってきてもいいぞ?」

「そうだね……」


 コンコン


「入れ」


 俺がノックした相手に許可を出すと、係員が部屋の扉を開けたところで口を開く。


「シュタル様。準備をお願いします」

「かなり早いな……分かった。では行って来る」

「うん。頑張って」

「応援しています」

「ああ」


 俺はそう言って部屋から出て次の所まで行くと、係員が首を傾げる。


「あれ? シュタル様? もう来られたのですか? 観戦ですか?」

「何?」

「シュタル様の番までまだあります。現に、今は第2試合。出番はまだ先かと思いますが……」

「ほう……なるほど。そういう事をするつもりか」


 俺は、次の相手が何を仕掛けて来たのか理解出来た。

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