第116話 予選
俺は今、大きなコロッセウムの中央の舞台の上にいた。
大きさとしては50m四方くらいか。
石で出来た少し盛り上がった舞台だ。
周囲には力自慢と思わせるような、自信に満ちた表情の魔族がこれでもかといる。
そして、若い女の実況が声を大きくするマイクという魔道具で会場全体に声を届けた。
『さぁああああああ!!! 始まりました! 魔王四天王選抜武闘大会! 今回開かれる内容は予選になります! ただの予選なのにこんなにも多くの人がみてくださっています!』
実況が言う方を見ると、観客席には多くの人が座って戦いを今か今かと待っていた。
予選であるのに、7,8割は埋まっているだろう。
ちなみに、アストリアとリュミエールもその中にいる。
アストリアは元気に手を振っていて、リュミエールはどうせ勝つを分かっているのか、何か編み物をしていた。
『さて、それでは一応武闘大会の説明をさせて頂きます! といってもルールは簡単! まずは中央にいる50人! その人達には戦っていただきます! そして、最後まで立っていた人が決勝トーナメントに参加する権利を得られるのです!』
「なるほどな」
ようはこの周囲にいる敵を全員ぶっ飛ばせばいい。
分かりやすくて楽でいいな。
『さて! それでは観客の皆さまもお待ちでしょう! すぐに始めて頂きます! 準備が出来ていない人はいませんね!? それでは、レディ……ファイト!』
なぜか実況が開始の合図を送った。
そして、周囲の者達が近くの者に切りかかる。
「おらぁ! ぶっ飛べ!」
「軽いんだよぉ!」
俺は自分に向かってくる相手を楽しみに待つが、誰一人俺に向かってこない。
「なぜだ……」
俺は迎え撃つ気満々なのだが、こない。
のんびりとしている間に、数は半数にまでなってしまった。
「何でだ……」
俺はどうしようか悩み、でも、それで減ってくれるのなら簡単でいい。
ただ待つことにした。
それから俺を含めて5人になると、俺以外の4人は顔を見合わせて俺を囲む。
「ほう? これはどういうことだ?」
「お前だろ? 少し前にありえない強さを誇っていたやつっていうのは」
4人の中で大きな戦斧を持った男がそう言って来る。
俺はそいつに答えた。
「少し前の話は俺かどうかは知らないが、俺は最強だぞ? ありえないどころか果てしない強さを誇っているのは当然だろう」
「だと思ったよ……。だから誰もお前を狙わなかったんだ」
「ではなぜ今になって?」
「決まっているだろう。流石に最後の1人になってからでは絶対に勝てん。だが、これだけ……ある程度の意思疎通が出来れば……4人でかかれば勝てるかもしれない」
「なるほどな。戦った後で怪我もしているのに、それから俺に向かってくるとはな」
「それでも! それでも、俺達には勝たなければならない理由がある! どこの馬の骨ともわからない貴様を四天王に入れるつもりはない!」
「……まぁいい。好きにしろ。貴様らの想いは……行動で示して見せろ。かかってこい」
俺はそう言って奴らに先手を譲る。
「く! どれだけ余裕なんだ! お前達! 行くぞ!」
「おお!」
「ぶっ殺す!」
「余裕を奪ってやるわ!」
4人がそれぞれの方向から俺に攻撃を仕掛けてくる。
戦斧で、剣で、槍で、魔法で。
4人が4人とも俺を倒すために向かってくる。
「いいじゃないか……」
そうやって、勝てないと思うような相手にも向かっていく。
心意気は買わせてもらう。
だが、負けてやるつもりは決してない。
「想いはいいが……弱いな」
俺は足を動かさずにその場で対処をする。
まずは槍、リーチが長いので先端を掴んで彼から奪い取った。
「は?」
俺はそのまま槍を舞台、場外に投げ捨てる。
次は戦斧、振り下ろされる軌道をそっと変えて俺に当たらない位置に振り下ろさせる。
当然、威力も無くなるように、彼にひざに一撃を入れておいた。
「ぐぁ!?」
その次は剣だ。
彼は問題ない、右手で剣を掴みとる。
「え?」
最後は魔法、俺は拳で風圧を作り、彼女の魔法を打ち消した。
「そんな……」
俺は同時に攻められた攻撃を全ていなす。
「さて、次はどうする? まだやるか?」
「ま、負けるかぁ!」
「その心意気はいいが……強さが足りん」
俺はそう言って飛びかかってくる槍使いを場外に投げ飛ばす。
そして、近くにいた剣士も丁度いい。
剣をそのまま引き寄せ、同様に投げ飛ばした。
「あ……あぁ……」
魔法使いの彼女は腰を抜かしていて、もう戦意はなさそうだ。
ということは、あと一人。
「後はお前だけだな?」
「お前は……なぜ……そんなにも……強い?」
「俺は最強だからな。最強が弱いなんていうことはないに決まっているだろう?」
「魔王軍に入って何をするつもりだ」
「お前に言う必要はない。力の無い者に、知る権利すら与えられないと知れ」
俺がそう言うと、彼は俺から距離を取って答える。
「……なら。俺の……命を懸けてやらせてもらおう。【
「ほう」
彼は次の一撃に全てを賭けると言ったのは本当のようで、スキルから察しても分かる。
だから、俺はそれを正面から受けようと思った。
「こい。俺は最強だ」
「ふっ。後悔するなよ。があああああああ!!!!!!」
奴は全身が倍になったように
その速度は3倍、いや、4倍までは跳ね上がっているかもしれない。
だが、
「俺には届かない」
俺は彼の戦斧を掴み、彼の一撃を止める。
「そ、そんな……」
「諦めろ。俺達の間には……それほどに決定的な違いがある」
「く……そ……」
俺はそいつの腹に拳を入れて、場外に吹き飛ばした。
「……」
「……」
「……」
しばらく沈黙が会場を支配し、実況がそれを打ち破る。
『決まったぁああああああ!!! 魔王軍親衛隊隊長! ネビルを打ち破ったのはまさかの辺境の村、ダルツから来たシュタルだあああああああ!!!! 優勝候補筆頭とも言われていたネビルを破るとは! 信じられません! 大番狂わせもすごい!』
「なんだ。そんなにも強い奴だったのか」
俺は、特にそれ以上思う事もなく、舞台を後にした。
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