第111話 温泉と道
「温泉?」
俺は思わず2人に問い返した。
「そうですよ。心の内を話す時は裸の付き合いって言っていたそうですね?」
「言ったが……それは男同士であって……」
「別にいいでしょ! もう一回やったんだから! ほら! 早く作って!」
そんな強引な2人に押されて、俺は温泉を作る。
「『
野営地からちょっとだけ離れた箇所に作り、2人の方を向く。
「これでいいか? 俺は疲れたから寝る……」
「さ! 一緒に入りましょう!」
「そうそう! レディー2人に誘われて、断るとかないよね!」
「レディー……?」
俺がそう言うと、2人は目をきっと吊り上げて迫る。
「いいから入る! 早く!」
「何か文句があるのですか!?」
「わ、分かった」
ここまで言われては……仕方ない。
一緒に軽く入ってすぐに出よう。
それなら納得もしてくれるはずだ。
俺は脱衣所も作り、そこで着替えて温泉に入る。
「ふぅ……やはりこうやって入るのはいいな……」
空に
それから少しして、タオルを体に巻いた2人が入ってきた。
「……来たか」
「そ、そんな面倒そうに言わなくてもいいだろう!?」
「そうですよ!? 勇者と光の巫女なんですからね!? めっちゃレアなんですよ!?」
「そうか。月が綺麗だな」
「月よりも見るところあると思うんだけどね!?」
そう言ってテンションが上がっている2人を俺は見ないようにしておく。
流石にタオルを巻いていても、見るのよろしくないだろう。
「それで、2人はどうしてこんなことをするつもりになったんだ?」
「決まっているじゃないですか」
「そうだよ。ずっと頑張っているシュタルにサービスをしようと思ってね」
「サービス……。するほどのモノを持っていないだろうが」
「……」
「……」
「てい!」
「せりゃ!」
「お前ら!?」
2人は揃って俺の左右に抱きついてくる。
ただのまな板だと思っていた2人の箇所は、確かに何か柔らかいモノは存在した。
「私だって……成長しているんですよ?」
「ボク……だって、女の子なんだからね?」
「分かった。悪かった。だから離れろ」
別にドキドキする訳ではないけれど、流石にこれは犯罪臭がする。
そんなことを考えていると、2人が更に言ってきた。
「それじゃあ……条件があります」
「条件?」
「はい。シュタルさんは……魔王城に行って、何をするつもりなんですか?」
「……」
「ボク達はシュタルの事を信じている。でも、何をしようとしているのか、シュタルがボク達に話してくれた事はないよね? だから……それを教えてくれるまで離れないよ」
「……」
そういうことかと、俺は思った。
俺は……確かに2人に……いや、誰にも何をしようとしているのか。
話したことはなかった。
リュミエールはなんとなく気付いていたみたいだけれど、正確に話したことはない。
最強は孤高の道。
誰にも頼らず、誰の力も借りず、俺は俺のみで為す予定だったから。
最強であると誓い、そうやって生きていく。
そう決めた時からずっとそうやっていた。
だが、2人の目を見ると、言うまで決して離さない。
そういった決意を感じる。
「……分かった。俺がやってきたことは覚えているか?」
「やってきたこと?」
「そうだ。俺は……俺が最強であると広めてきた。実力を隠すことなく、多くの者達を打倒し、俺が最強であると印象つけてきたな?」
「うん」
「はい」
「それをして、俺がやろうとしていることは………………」
俺は2人にこうしたいということを話した。
それは短く、簡単なことだけれど、とても……難しいこと。
2人は黙って聞いてくれた。
そして、その時には空気を読んでくれたのか、俺から離れる。
「それが……シュタルさんの……やりたいこと……」
「出来る……の……?」
「出来るかどうかじゃない。やるんだ」
俺は短くそう言い放つ。
その言葉には俺の決意が存在し、決して揺るがない想いを込める。
アストリアはそれを聞き、口をパクパクさせた。
「さぁ、俺が思っていること。やるべきことは話したぞ。お前達はどう思うんだ?」
俺がそう聞くと、アストリアが少し考えた後に口を開く。
「ボクは……ボクは……それでいいと思う。ボクも……ね。やりたいことができたんだ。人間に酷い事を去れていてる魔族を見て……それで、ボクが何をしなければならないのかな……て」
「ああ」
「それでね。ボクは……ボクは決めたよ。弱者を救う。人間も……魔族も関係ない。今までの勇者は人間しか救ってこなかった。それは本当の勇者じゃない。ボクは……ボクは全ての人を救う勇者になるって」
「いいと思うぞ」
俺はそういって彼女の頭を撫でる。
「もう! 子供扱いはやめてよ!」
「……そうだな。お前は……アストリア。お前は自分で自分の進むべき道を決めた。なら、それを子ども扱いするのは違うか」
俺はアストリアに向かって手を差し出した。
「これ……は?」
「対等であるならば握手だ」
「……! うん! うん! 分かった! ボク……ボクもシュタルの隣に立てる様になるから!」
「ああ」
俺がそう言うと、リュミエールが口を開く。
「2人は……そのような道を選んだのですね」
「ああ」
「うん!」
「分かりました。私の選ぶ道は、2人の後ろにします」
「どういうことだ?」
「2人の進む道は……厳しいでしょう。ずっと……ずっと真っすぐに進んでいくと決めても、それでも、途中で止まりたくなってしまうかもしれない。その時は、私が2人を後ろで支えます。そんな……道があってもいいと思うのです」
「リュミエール……お前が決めた道だ。いいと思うぞ」
「はい!」
俺達はそれからのんびりと風呂に入り何気ない事を話す。
俺達の周囲は……何もない、道もどこにもない荒野が拡がっているだけだった。
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