第110話 魔王城に向かって


 それから数日。

 俺達はのんびりと過ごした。


 自分たちの村に帰りたいと言う連中はその場所まで送り、行く当てがない連中はダルツの村で面倒をみてもらうことになった。


 ただ、俺達には目的がある。

 なので、彼らと別れることにした。


「それでは村長。俺達はここで」

「そうですか……ずっと居て頂いてもいいのですが……」

「もう俺達は必要あるまい? ここらを荒していた国境第4警備部隊は潰した。食料も……ある程度体力が回復出来るまではあるだろう? 捕まっていた者達もそれぞれ帰っていった。何も心配ないではないか」

「それはそうなのですが……。これ以降も何かあると思うと……」


 そう言っている村長は不安な表情を浮かべている。


「お前は……与えられるだけの存在か? 自分たちで何とかする事も必要なのではないか?」

「……そうですね。申し訳ありません。ずっと奪われて……奪われ続けることに慣れていました。それでは……いけないんですよね」

「そうだ。だからこれからはお前達で何か起きても解決しろ。出来るな?」

「はい。ありがとうございました。シュタル様、アストリア様も、リュミエール様も、本当に……この村の為に……」

「気にしなくてもいいよ。むしろ、これから大変かもしれないから、頑張ってね」

「そうですよ。私たちが出来るのはここまでですから……」


 2人はそう言って、村長を励ます。


「そう……ですね。ありがとうございます。その……因みに皆さんはこれからどこい行かれるのでしょうか?」

「俺達か? 魔王城に行こうと思っている。士官でもしようかと思ってな」


 これは3人で事前に打ち合わせをしておいたことだ。


「そうですか……では、これを是非ともお持ちください」


 村長はそう言って、1枚のくたびれたチケットを差し出してきた。


「これは?」

「それは、少し先に開催される武闘大会のチケットです。そのチケットがあれば、魔王城に入ることも簡単に出来ましょう」

「そんなものをもらってもいいのか?」

「はい。我々にはそこに行く余力はありません。ですので、シュタル様に行っていただければ、この村の代表として戦って下されば……この村の価値があがるかもしれません。それを狙っての事です」

「なるほど。俺が戦って……勝てばお前達にも利益があるのだな?」

「はい。強い……優秀な戦士を中央に送り込んだ。そのことによって村の評価が上がりますれば」

「いいだろう。この村の代表として戦ってやる。ではな」

「はい。何から何まで……本当にありがとうございます」

「気にするな」


 俺はそう言って村長と別れ、ミュセルとも挨拶をする。


「……」

「ミュセル。体を大事にしろよ」

「……そう思うのであれば……残って下さい」

「それはできん」

「……あたしは……ネガティブな理由からあんな事をした訳では……ないですからね」

「ん?」


 彼女はそう言って、俺の耳元に口を近付けてささやく。


「あたしは……いつでもシュタル様のこと……お待ちしていますから」


 彼女はそれだけ言うと、俺に笑いかけて村の中に戻っていった。


「ふむ……」


 俺達はそんな事を話して別れて、魔王城へと向かう。


 その道中、アストリアがリュミエールに話しかけていた。


「ねぇ、リュミエール。シュタルって……いつもあんな感じで女の子を落として旅してるの?」

「え……ええ。そうですね。奴隷商を倒した時も女性に好かれていましたし、王都でもドワーフのギルドマスターに言い寄られていましたね」

「流石にそれは……大変だね……」

「ええ……でもまぁ……分かってはいたことですから。それに、誰かに手を出している様子はありませんからね」

「そうなの? それだけ言い寄られているならもう……バラまきまくっていたのかと思ったけど……」

「バラ……そんな事はしていませんよ」

「そっか……じゃあさ。一緒に……手を組まない?」

「手を組む?」

「うん。なんか……このまま普通に一緒にいるだけだとどうにも変わりそうにないから、ちょっと……協力したいな……って」

「なるほど……では」


 2人はそれ以降は声を小さくして、俺には聞こえなくなる。


 俺も別に盗み聞きをするつもりはないので、他のことに意識を逸らした。


 魔王城へ続く街道はかなり荒廃こうはいしていて、荒地と言ってもいいくらいだ。

 人間の世界では草原等緑が多かったけれど、魔族の方ではそういった場所はほとんどない。


 やはり、戦う事が大事な魔族たちにとって、畑を耕すことはほとんどないからだろうか。

 それとも純粋に土地が干からびているせいか……。

 そんな事を考えながら歩いていると、あっという間に夜になり、野営の時間となる。


 俺達は食事を済ませ、後は寝るだけ。

 俺は1人用のテントに入ろうとすると、2人に止められる。


「あ、シュタルさん。ちょっとよろしいですか?」

「どうした?」

「その……ちょっとお願いがあるんだけど……」

「なんだ?」

「あの……」

「その……」

「?」


 2人は少し顔を赤らめて、せーので揃えて言う。


「「温泉を出してくれませんか!?」」

「温泉?」


 2人の声に、俺は少し驚きの視線を向けた。

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