第109話 最強でもできないこと


「それで、何があったのかお話してもらえますか?」


 今、俺とリュミエール、アストリアは宿の一室にいた。


 俺はベッドに座り、2人は立って問い詰めるように見ている。

 俺はそんな2人にしっかりと答えた。


「国境第4警備部隊部隊を潰してきた。もちろん、全員だ」

「っ……」

「そんな……」


 2人は息を飲み、その目は明確に理由を訪ねていた。


「さっき助けた女達……。魔族の女達がいたな?」

「はい」

「うん」

「彼らは全て、国境第4警備部隊の砦に捕らえられていた者達だ」

「女性……ばかり……ですか?」

「そうだ。何が起こっていたのか。わざわざ言う必要はないな?」

「……」

「……」


 俺はそれきり口を閉じる。

 やってきたことは間違っていない。

 はっきりとそう言える。

 だけれど、人間の勇者として戦ってきたアストリアが、それを受け入れられるかは別だと思ったからだ。


「ちょっと……考える」

「ああ、俺もこれ以上言うことはない。休め」


 アストリアはそれだけ言って部屋から出て行く。


「お前は何か聞きたい事があるのか?」

「いえ……」


 部屋に残ったリュミエールは、俯いて何かを考えているようだ。


「お前は……今更だと思ったがな?」

「今更……ですか?」

「そうだ。最初にあった時に、盗賊を全員殺しただろう? だからそこまで落ちこむ理由ないと思ってな」


 俺は茶化すように話すと、彼女はキッとにらんできた。


「どうした。そんな目をして」

「シュタルさんは……平気なんですか?」

「平気? 何がだ?」

「こんなことを繰り返しているということです!」

「こんなこと……って。俺は最強であると示しているにすぎん。問題などない」


 俺はそう言うけれど、リュミエールは今にも泣きそうになりながら俺を見つめていた。


「ないはず……ないですよ……。シュタルさんは……魔族とも……仲良くしたいんですよね?」

「……」

「見ていれば分かります。シュタルさんは……人間だけではない。魔族も……全て救いたいんですよね?」

「……だとしたらなんだ」

「そんな……そんなことは出来ません! それは……世界を征服するよりもなお無理です!」

「リュミエール。ありがとうな」

「シュタルさん……」


 俺はこう言って俺を気遣ってくれるリュミエールの頭を撫でる。


「最強は孤高の道。誰に支えられる事もなく、俺は俺だけの道を進む」

「そんな……」

「リュミエール。俺の進む道は変わらない。最初から難しいことは分かっていた。むしろ、そうであるからこそ、俺は最強を望むのだ」

「……」

「お前の気持ちは受け取った。だから、今日は休め。明日もまた料理をたくさん作ってもらう必要があるからな」

「……分かりました。でも、いつでも頼ってください。私に出来ることは多くはありませんが……それでも、出来る事は何でもしますから!」

「そうか。楽しみにしている」

「お休みなさい」


 リュミエールはそう言って部屋から出て行く。


「ふぅ……」


 俺はベッドに寝転がり、精神的な疲れを感じる。


 やることは間違っていない。

 でも、それでも……何度も思う。


 最強の強さを俺は持っている。

 だが、それだけでは解決できない事が多すぎる。


「だが……俺が諦める訳にはいかない。だよな……リーサ」


 俺は記憶の中のとても……とても大事な人に語りかけるように呟き、眠りについた。


******


 ギィ……ギィ……。


「ん?」


 俺は床のきしむ音に目が覚め、音の正体を探る。


 キィ。


 俺の部屋が開く音がして、何者かが入ってきた。


「誰だ?」

「……私です」

「ミュセルか」


 助けた魔族の少女が、何故か俺の部屋にきていた。

 彼女は母と家で寝ていると思ったのだけれど、なぜこんな所にいるのだろうか。


「シュタル様。あたしに出来る事はこれくらいしかありません。初めてで……上手くはないと思います。でも……受け取って頂けませんか」

「ミュセル……」


 暗闇の部屋の中。

 彼女はかなりの薄着でいることは気配で分かった。

 衣擦れ音もほとんどしてないからだ。


「あたしは……モリクラゲを取ってこれるだけで……満足でした。でも、貴方が居てくれたから命を助けられた。だから、あたしの全ては貴方のものです」


 パサ。


 彼女はそう言って服を脱ぐ。


「待て」

「……あたしのような……大きな体では……ダメですか?」


 ミュセルの絞り出すような声に、俺は不意を突かれた。


「何を言っている!?」

「え? だって……あなたの側にいる2人……。とても小さいから……」

「……あの2人とはそういう仲じゃない」

「では……男を連れて来た方が? しかし、父は既におらず……」

「そんなことではない! しかし……どうしてそんな体を差し出す。という話になる」

「……我々の村は……弱いのです。でも、あなたが居てくれれば、襲われるようなことはなくなる。その為であれば、あたしの体くらい……安いものです」

「全く……。そんなことをされても、俺はこの村にいつくことはない。そう言えば……満足か?」

「いえ……では子種を下さい! そうしたら……時々帰って来て下さるかもしれないでしょう!?」


 ミュセルは本当に切羽詰まっているのか、俺に迫ってくる。


「ミュセル。俺が変えてやる」

「へ……」

「お前がこんな事をしなくてもいいように……お前が本当に好きな相手とこういう事が出来るように、俺が変えてやる。だから……無理をするな」

「そんな……そんなのって……あ……」


 俺は赤子に触れるように優しく彼女を抱き締め、そして頭に手を持っていく。


「『睡眠魔法スリープ』」

「あぅ……すぅすぅ」


 ミュセルは簡単に魔法にかかり、眠りに落ちる。


 彼女をベッドに寝かせ、俺はイスで睡眠を取るのだった。

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