第108話 救出

「奴には……死ぬまで……いや、死ぬほどの思いをしても苦しみ続ける呪いをかけた」

「どういうことですか!?」


 彼女は俺に詰め寄らんばかりの勢いで近寄ってくる。


 俺は彼女に安心させるように説明した。


「さっきグンドラに会ってきてな。呪いの首輪をつけておいた」

「呪いの首輪?」

「ああ、奴自身の部下を全て殺すまで首を締めつけられる首輪だ。首輪がついている間は他の者を傷つけることは決して出来ない。そうなる命令も付け加えている」

「でも……それだと……全ての部下を殺したら解き放たれるんじゃ……」

「問題ない」

「?」

「全ての部下。それを奴が殺さなければならない。つまり、俺が殺した奴の部下も、もう一度殺さなければ奴が解放されることはないんだよ」

「そんな……こと……」

「という訳だ。いいから他の者達も助けて一度魔族領に戻るぞ」

「あ、は、はい!」


 それから俺達はこの砦にいる魔族の者達を全員助け出し、先ほどまでいた村に戻る。

 戻る時はかなり多かったので、『結界魔法シールド』で囲んで戻った。


 時間にして夜の10時くらいにはなっているだろうか。

 しかし、宴を開いているからか村はまだ明るかった。


「あ! シュタル! どこ行ってたの!?」

「シュタルさん!? やっと帰って来ましたか!?」


 俺が村に戻ると、アストリアとリュミエールが気付いて駆け寄ってきた。


「少し野暮用が出来てな。彼女たちを助けてきた」


 俺は『収納』に入っていた服を着せてあるので寒くはないはずだ。


「助けてきたって……そんなにたくさん……?」

「しかも……女性ばかりですが……」

「後で説明する。今は……外の方がいいな」

「あ!」

「ちょっと!?」


 俺は村の外に行く。

 そして『結界魔法シールド』を降ろし、女性たちを解放する。


「とりあえずこの村で一泊するぞ。部屋が無ければ適当に魔法で……今からやるか」


 俺はいちいち許可を取るのが面倒だったので、村の外。

 畑のない所で魔法を使った。


「『土創造魔法クリエイトアース


 そこまでは大きくないけれど、多くの者が寝られる建物を作った。


「お前達。今日はここに泊まれ」

「え……こんな……私の家よりもいいんですが……」

「とりあえずは今日はここに泊まるといい。食料はおいておく」


 俺は『収納』から出して、そこら辺においておく。


「よし。これくらいやっておけばいいか?」

「あ、あの……一体何があったのでしょうか……?」

「ん?」


 俺は振り向いて相手を確認すると、この村の村長だった。


「ああ、ちょっと国境第4警備部隊を潰してきてな。そこに囚われていた者達を救ってきた。だから今夜はここに泊まらせてくれ」

「そ、それは……もちろん問題ありませんが……本当に……そんな事が出来るのですか?」

「たった今やってきたところだ。砦にはもう誰もいない」

「そんな事が……」

「ああ、だからもう襲われる事はないだろう。安心しろ」

「嘘……でしょう……?」

「本当ですよ」

「貴方は?」


 俺の後ろから答えてくれたのは、砦で助けた女性だった。


「私はペルナー。森の調査をしていたら人間に捕まって……そこで捕らえられていたの。この他の者達も同様よ。だからそれは本当。必要があれば砦の場所に行ってもいいわ」

「それでは……」

「ああ、だから安心するといい」

「救世主様……」

「ん? いや、俺は最強の魔剣士シュタル。救世主ではないぞ」

「そう……なのですね。最強……」

「ああ、だからその行いを広めろ。俺はそれ以上は求めないからな」

「そんな……ことは……」


 村長達がそんな事を言っていると、アストリアとリュミエールがおいついてきた。


「何でおいて行くの!?」

「他の人に変わってもらったんですからね!?」

「ああ、2人には……後で説明すると言っただろう?」

「今説明して!」

「そうですよ! 一緒についていく。そう言ったばっかりじゃありませんか!」

「ああ、では宿に戻っておいてくれ。俺は彼らの為にやるべきことがある」

「なにをするのですか?」

「食事だ。それを用意しなければな」

「……それでしたら私がやりますよ」


 リュミエールが仕方ない。

 そんな表情を浮かべながらも言ってくる。


「しかし、もう……今日は朝からずっとやっているだろう? 疲れていないのか?」


 俺がリュミエールに聞くと、彼女は答えてくれる。


「任せて下さい! シュタルさんがやっているのであれば、とっても大事な事なんですよね? それを行うくらいの体力はありますよ!」

「ぼ、ボクも手伝う! だから、何かあったら言って!」

「お前達……」


 2人は助けた魔族の力になってくれると言う。

 素晴らしい2人だ。


 それからリュミエールの協力や、村の人々の協力もあり、助け出した女性達に食事を配っていく。


「美味しい……」

「あたたかい……」

「こんな……こんなにホッと出来るなんて……」

「生きてて良かった……」


 助け出された女性たちは口々に言い、ゆっくりと眠りに落ちていった。


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