第104話 コカトリスのシチュー
「モリクラゲのスープ……美味かった。俺達なりの礼だ。飯をごちそうしよう」
「え? で、ですが、これは娘を助けて下さった事へのお礼で……」
「それは既に村までの食事でもらった。だから……俺達の食事を食ってくれ」
俺はそう言って、立ち上がって家から出る。
俺の後ろにはアストリアとリュミエール。
2人も俺が何をやるのか分かっているらしい。
そこに、ミュセルが追いかけてくる。
「あ、あの!」
「ああ、そうだそうだ。この村で一番広い場所はどこだ?」
「中央広場ですが……でも……」
「ミュセル。今は母親の所に居てやれ。食事が出来たら呼んでやる」
「……分かりました。ありがとうございます」
「おう」
ミュセルはそう言って心配そうに見ていた母の元へと戻っていった。
俺はそんな彼女を見送った後、アストリアとリュミエールに向き直る。
「アストリア。コカトリスの食材は使ってもいいか?」
「もちろん! ボクは気にしないよ」
「リュミエールもいいか?」
「はい。私も腕によりをかけて作りますよ!」
「助かる」
俺達は中央平場らしき場所に移動して、魔法を発動する。
「『
こうやってお手軽キッチンを作ると、『収納』にある解体したコカトリスの肉を取り出す。
お手軽キッチンの上に食材をこれでもかとおき、リュミエールには調理器具を渡した。
「リュミエール。必要な物があったら言え、何でも取ってきてやる」
「はい! ではまずは野菜と……」
俺はリュミエールの指示を聞いて、必要な物を取ってくる。
彼女の護衛はアストリアに任せた。
「取ってきたぞ」
「え? もう……ですか? 速すぎませんか?」
「俺にかかればこれくらい何でもない」
軽く光の速さと同じくらいになって走った程度。
目的の物を収穫する方に時間がかかってしまったくらいだ。
「他には?」
「え? あ……では沢山の器を作っておいて下さい。ここで作るという事は……そういう事ですよね?」
「……ああ。その通りだ」
俺は少し彼女から離れて、魔法で頑丈な器を何個も作り出して行く。
そうしていると、暇なのかアストリアが話しかけてきた。
「それにしても、意外だったよ」
「何がだ?」
「シュタルは……魔族が嫌いなんだと思っていた」
「どうした急に」
「だって……ラビリスの街で……あいつらにも
「やらなければやられる。だからやったまで。それを言ったらお前こそ意外だったぞ?」
「ボクが?」
「ああ、お前は勇者だろう? それが……魔族を助けて人間を殺すのを見過ごすとはな」
俺がそう言うと、彼女は少し
それから、口を開いた。
「だって……ボクは勇者だから」
「? なら人を助けるのが普通なのではないか?」
「ううん。違う。勇者は弱気を救い、悪を討ち滅ぼす。今は人間の味方だからそうなっているだけで、本来は人間を助けるなんて決まっている訳じゃないんだ」
「そうなのか?」
「そうだよ。だから……あの時、シュタルがミュセルを助けに行った時、よくやってくれた。そう思ったんだ。ボクも……やっぱりどこか人間側っていう気持ちがあるから。だからすぐには動けなかった」
「そんなものだろう。誰だって……最初は初めてだ。次同じような事があった時には、助けてやればいい」
「うん……そうだね。シュタルもそんな事があったの?」
「……遠い昔にな」
俺は彼女に聞かれて、昔をなんとなく思い出す。
『シュタル!』
俺の名を呼んでくれる。
幼馴染の名を。
そんな事をしていると、俺達を遠巻きに見てくる者達が現れた。
1人、また1人と増えて行き、こんなにいたのかと思う程に人が集まってくる。
彼らの中の代表らしき魔族の老人が声をかけてきた。
「あ、あのう……一体ここで何をされていらっしゃるのでしょうか?」
「ああ、ここの村の者に世話になったからな。その礼に食事を作っているんだ」
「その……者に……ですか?」
「ん? ああ、その者もだが、折角だ。この村人全員に食事を出そうと思ってない。問題ないか?」
「
「必要ない。全員分ある」
「全員分……」
「そうだ。だから少し待っておけ」
俺はそう言って、老人を追い返す。
それから数時間後、リュミエールが完成したことを知らせる。
「シュタルさん! 出来ました!」
「よし。ではこの器の山に入れていけ」
「はい!」
俺はスープが入る様な器を大量に作っておいた。
そして、リュミエールはその中にコカトリスの肉がゴロゴロ入ったシチューを野菜などと一緒にこれでもかとぶち込んでいく。
「ボクは先に届けてくるね!」
アストリアはそう言って、ミュセル達にいち早く渡すために離れていた。
「おお……これは美味そうだ」
「はい! 自信作ですよ! たくさんあるので、一杯食べて下さいね!」
「お前達! こっちにこい!」
俺はずっと様子を伺っていた連中を呼び、食事を渡していく。
「う、美味い! なんだこれは!」
「信じられない……おっかぁに……おっかぁに渡したいのでもう一つ頂いてもいいでしょうか?」
「ほら。たくさん持っていけ。必要があればまた取りに来い」
「ありがとうございます!」
「ママ! こんなに美味しいもの初めて食べた!」
「そうね。ちゃんとお礼を言いなさい」
「うん! お兄ちゃん! おねぇちゃん! ありがとう!」
ガリガリの少年は口にシチューをこれでもかとつけ、笑顔でお礼を言って来る。
俺はそんな少年に笑顔で返した。
「ああ、一杯食って、母さんを……大事な人をしっかりと守れよ」
「うん! 分かった!」
******
「おいおい、仲間を殺した奴を追いかけてきたら……なんかいい匂いすんじゃねぇか?」
「たく……魔族風情が……こりゃ5,6人殺しておくか?」
「あんまり殺しすぎんなよ。おもちゃが減ったら困るだろ?」
「違いない」
ダルツの村の直ぐ傍では、数十人が村を囲み始めていた。
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