第103話 ダルツの村


 俺達は数日かけて歩き、森を抜ける。

 それからしばらくすると、小さな村が見えてきた。


 そこで働く人たちは遠くから見ても分かるほどに粗末そまつな服を着ていて、畑をたがやす動きもどこか力が入っていない。

 畑も全然大きくないし、耕されているのか? と疑問に思うほど荒れている。

 さくでは一応覆われているけれど、村の中はボロボロの家しか存在せず、開拓村ですらもうちょっとマシな生活がおくれていることだろう。


 そんな事を考えていると、ミュセルが口を開く。


「あれがダルツの村です」

「……」


 俺はその言葉に、何も言えなかった。


 そんなミュセルはちょっと嬉しそうに話す。


「すごいでしょう?」

「ん?」


 俺はミュセルが何を言ったのか理解できなかった。


「ダルツの村には柵があるんですよ? あれのお陰で森からの被害も結構少ないんです」

「そうか……何個か聞いてもいいか?」

「はい? なんでしょう?」

「なぜ畑はこんなにも小さいんだ?」

「ああ……それは……時折人間が攻めて来るからです。シュタルさんのところには攻めてこないんですか?」

「そう……だな……」

「それは羨ましい! 一体どこなのですか?」

「……ここから遠いところだ」

「そうですか……あたしと母さんもそこに行けるのであれば行きたいんですけど……」

「人間が攻めて来る……。その理由は知っているか?」

「知りません。時折来ては畑を荒したり、家々を壊して行くんです。外に出ている人も……殺されたり、さらわれたり……。魔王様の兵士様が来て下さるので大きな被害にはなっていませんが、それでも、待っている間に……。あ、もしかして兵士様だったりしますか?」

「俺は兵士ではない。ただの旅人だ」


 俺がそう言うと、ミュセルは分かりやすく悲しそうな表情を浮かべる。


「そうですか……あ、ここがあたしの家です!」


 ミュセルは落ち込んだ気持ちを払うように声を明るくして言う。

 そして、村の中にある、一軒のあばら家に入っていった。


「ただいま! 母さん! こんなにもモリクラゲが取れたよ!」

「おお! ミュセル! 心配させて……一体どこまで行っていたの!」

「ごめんなさい……。ちょっと森の奥まで……」

「全く……あんたって子は……」


 ミュセルに母さんと呼ばれたのはミュセルにそっくりな女性だった。

 体調が悪いのか顔色は悪く、ほほもげっそりとしている。


 彼女は俺達を見て、ミュセルに問う。


「そちらは……?」

「彼らはシュタルさんと、アストリアさんとリュミエールさん。あたしが森で襲われている時に助けてくださったの!」

「本当ですか? 娘を助けて頂いてなんと言っていいのか……。さ、狭い所ですが、是非とも中へ」

「……失礼する」

「失礼します」

「お邪魔します」


 俺に続いてアストリアとリュミエールも入ってきた。


 そして、狭い家の中で並んで座る。


「さ、ちょっと今から食事を作って来ますからね。ミュセル。それをもらって行くよ」

「うん。ここに来る途中でちょっと食べちゃったけど、それなりの量はあるはずだから」

「ええ、ありがとう。少し待ってて下さいね」


 ミュセルの母はそう言って奥に引っ込んでいった。


 その後を引き継ぐのはミュセルだ。


「道中も食べたものですけど、すいません。うちで食べられるものはこれくらいしかなくって……」

「気にしなくていい。ん?」


 俺がそう言うと、後ろからアストリアが俺のそでを引く。


「どうした?」


 アストリアが小声で話したそうにしていたので、俺も小声で話しかける。


「何でもらうの? 折角のミュセル達の食料なんじゃないの?」

「いいじゃないか。これくらいは」

「でも……」

「いいから、一度……しっかりと味わえ」

「うん……」


 道中の食事は、何としてもモリクラゲを食べて欲しい。

 俺達の食料を使う訳にはいかないとミュセルに言われてずっとモリクラゲを食べてきた。


 一応、調理はリュミエールがして、味付け等をしていたのだけれど、俺達の舌には美味しいとは感じなかった。

 ミュセルはこんな美味しいのは初めて、そう言ってすごく食べてしまったと言っていた。

 ただし、その量はどう考えても常人の半分程度だった。


 しばらくして、ミュセルの母が3人分の器を欠けたおぼんに乗せて現れる。


「さ、とっても美味しくできましたよ! 召し上がれ!」

「ああ、感謝する」

「ありがとうございます」

「あり……がとう……」


 器には小さく切ったモリクラゲが浮かんでいるスープだった。

 色は少し白色ににごっていて、変な臭いもする。


 俺達はそれを受け取り、一口すする。


 まずい。


 俺は口にこそ出さなかったけれど、アストリアは思いっきり顔に出ていたし、リュミエールも引きつっていた。


 でも、俺はそれを全て飲み切った。


「美味かった。ごちそうさま」

「まぁ……まだまだありますよ? おかわりをもって来ましょうか?」

「その必要はない。アストリア。リュミエール。食ったか?」

「うん。食べきったよ。(なんとか)……」

「私も食べ終わりました」


 ちょっと辛そうな表情だけれど、残すという様な事はしていない。


「そうか。では……食事の礼をしなければならないとは思わないか?」

「! うん! そう思う!」

「! はい! 私も……できる限りの事をします!」

「え? え? どういうことですか?」


 頭に? を浮かべているミュセルとその母は少し可愛らしかった。

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