第102話 ミュセル

 俺達の前には、魔族の少女を襲う5人の人間の兵士がいた。


「おい。お前達。何をしている」

「あぁ? そういうてめぇこそ誰だ。魔族が……人の様にしゃべるんじゃねぇ。おっと、でも後ろにいる奴らはいい面じゃねぇか。いい声で鳴くことは許してやるよ。男はいらないがな」


 隊長らしき男はそう言って腰の剣を抜き、残りの4人も同じことをする。


 そんな彼らを見て、アストリアとリュミエールは絶句していた。


「そんな……そんなことって……あるの?」

「私が……私が守りたかった人達は……こんな人達なんでしょうか……」

「お前達。下がっていろ。ここは俺が始末する」

「ああん!? 俺達の事を知らねぇのか?」

「知らん」


 彼らはそこそこ強そうな甲冑かっちゅうをつけているけれど、名のある人物には見えない。

 油断はしないが、不必要に警戒することもないのだ。


 しかし、そんな俺の態度に奴らは怒りに顔を真っ赤にする。


「知らねぇってんなら教えてやるよ! 俺達は国境第4警備部隊! どうだ? 恐ろしいか?」

「は? 知らん。おい。知っているか?」


 俺はアストリアに顔を向ける。


 彼女は記憶を確かめるように話す。


「確か……魔族の侵攻を抑えているすっごく強くて優秀な部隊……って聞いていた気がするけど……。でも……こんな奴らだったなんて……」


 アストリアは幻滅げんめつしたという表情を隠しもしない。


「ひぃ! 第4警備部隊……」


 近くにいた魔族の少女はガタガタと歯を鳴らしているし、魔族にとっては恐ろしい相手なのかもしれない。

 だが……。


「そんなことは関係ない。ここは下がれ」

「はぁ? てめぇら魔族に命はない。俺達に殺されるか。遊ばれて殺されるかの2択だ」

「……お前達。後悔はしないな?」

「は? てめぇこそ。命の心配をくぺ」

「え? 隊長?」


 俺はそれから残りの者も首を切り落とす。


「は……え……嘘……」


 魔族の少女は驚きで目を見開き、アストリアも同様に俺をみていた。


「アストリア。お前はどうしたい? こんな奴らでも、助けたいと望むか?」

「ボク……は……ボクは……」


 彼女はそう言ってうなだれる。


 俺はその様子を見て、魔族の少女を助けることを優先した。


「大丈夫か?」

「あ、は、はい。ありがとうございます。でも、これでは……」

「何か問題が?」

「はい。助けて頂いて言ってはいけないのですが。彼らを殺してしまったとなれば……復讐にこの近辺の村々を襲って回ります。なので、あたしはここに残ります。助けて頂いたのに。申し訳ありません」


 そういう少女の申し出に、俺は驚く。


「どういう事だ?」

「こいつらは……さっき名乗ったように人間の国境第4警備部隊。こいつらは仲間が殺されると、その異様なまでの復讐心を持って攻めて来るんです。そして、子供や老人関係なく遊び半分で殺して行き……」

「今は魔族が攻めていると聞いたが、違うのか?」

「その話はここよりも離れている場所です。むしろ、そこに攻めているせいで、こちら側の兵が足りず……」

「被害にあっているという訳か」

「はい……助けて頂いてありがとうございます。最後に、お願いをしてもいいでしょうか?」

「なんだ?」

「これを……あたしの村に、ダルツの村に届けていただけませんか? これだけ取れたのは中々無くって……」


 そう言って少女が差し出してきたかごの中には、モリクラゲが一杯に入っていた。


「食料……か?」

「はい。村は今……食料難なのです。不作と……人族の襲撃で村は今大変で……。なので、助けて頂いて勝手かと思います。モリクラゲを食べて頂いても問題ありません。少しでも……少しでもそれを村に届けて下さい。お願いします」


 彼女はそう言って深々と俺に頭を下げる。

 彼女は色々と……覚悟しているのだろう。

 ここに残り、警備部隊に捕らえられ、どんな事をされるか想像もつかない酷いことをされるだろう。

 でも、大切な村を守るために、その身を犠牲ぎせいにしようとしている。


 これは……今一度考えを改める必要があるかもしれない。


「お前、名前は?」

「え? あ、あたし……ですか?」

「そうだ」

「あたしは……ミュセルと言います」

「そうか。ミュセル、ダルツの村に案内しろ」

「え? 話を聞いていなかったんですか? それをしたら村が……」

「守ってやる」

「な、何を……」

「俺がお前の村を守ってやる」

「そんな……でも……彼らは……強くって……」

「さっきの俺の強さを見ただろう? 俺は最強だ。だからあの程度の奴らには決して負けない。だから信じろ……」

「あの……本当に……本当に信じてもいいんですか? あたし……あたし……死にたくないです」


 今にも泣き出しそうなミュセルはそう言って見つめてくる。


「ああ、任せろ。俺が……何とかしてやる」

「はい!」


 俺はそう言って頷くミュセルを見て、後ろを振り向く。


「アストリア。リュミエール。お前達はどうする」

「どうする……って?」

「俺はダルツの村に行く。そして、そこにこいつらが来るようなら……分かるだろう?」

「!?」

「それは……」

「お前達は好きにしろ。こういう事をしたくないのなら、事が終わるまで『結界魔法シールド』で守ってやっても……」

「行きます」

「行くよ」


 2人して同時に言い、俺の言葉がさえぎられた。


「ボクは……ボクは……しっかりと見ないといけない。理想論を掲げることも大切だけど、守ろうとした人達が何をしようとしたのか。それを……知る必要があると思う」

「私も……逃げません。どんなに辛い事があっても、シュタルさんの側にいる。そう決めたのですから」

「そうか……お前達の覚悟。分かった。ミュセル。案内してくれ」

「はい。こちらです」


 俺は2人の覚悟を聞き、ダルツの村を目指す。

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