5章

第101話 魔族領へ

「さて、ここらへんで一度休憩を取るぞ」

「はい。それにしても……木々がすごく大きいですね」

「うん。ここまで大きいのはボクも見たことないや」

「この森があるお陰で、魔族もこの国には侵略しにくいという事があるからな。魔物も強く、食料もそれなりにある」


 俺達……俺ことシュタルと、リュミエール、アストリアは魔王城に行くために魔族の国に向けてきていた。

 今はその道中にある国境沿いの森で休憩を取っている所だ。


 そんな中、リュミエールが分からないというように聞いてきた。


「食料もあるのですか? それならこの森を支配しようとはしなかったのですか?」

「それはほとんどないな。さっきも言ったが魔物が強い。それに、支配しようと動き出せば魔族側が黙っていないからな」

「なるほど」

「だがそれでも、お互いに自分たちの場所にしようと、そして敵にはそうされないようにかなりの兵士や冒険者が入り込んでいる。急に戦闘になるかもしれないから気をつけろよ」

「はい!」

「分かった」


 それから俺達は気をつけながら進み、ついでにアストリアの訓練をする。


「アストリア。もっと敵の動きを見ろ!」

「はい!」

「遅い! そんなんじゃ百回は殺されるぞ!」

「はい!」


 俺は指導をしつつも、しっかりと成長して強くなっていくアストリアを見る。


 彼女は俺の言葉にしっかりと返事をしつつ、ニワトリのような魔物であるコカトリスを倒す。


「よくやった。解体は任せろ」

「うん。ありがとう。でもいいの?」

「ああ、このコカトリスは解体をうまくやらないと不味くなるからな。量も沢山取りたいのであれば、丁寧にやらなければならない」

「それがこの森で取れるっていう食料なの?」

「いや、それは違う。俺がさっき言ったのはあれだ」


 俺は目の前にある3mはあるコカトリスではなく、近くの木に生えているキノコを指さす。


「あれ?」

「そうだ。あれはモリクラゲと言ってな。かなりの量がとれるんだ。ただ、あまり美味くはないから、取らない者も多い」

「美味しくないのか……」

「非常時には取ることがあるがな。まぁ、俺達にはこれがある。出会った魔物はアストリア。修行の為に全部狩って行くぞ」

「わ、分かったよ」

「ほどほどにして下さいねー」


 俺達はそんな事を話しつつ、森の中を進む。

 そして、丁度半分ほど来たところで、俺はある提案をした。


「よし。お前達、これから魔族の変装をするぞ」

「魔族に……」

「変装……ですか?」

「そうだ。ここら辺が半分くらいだからな。これ以降は魔族と出会う可能性が高い。だからこそ、魔族と出会った時のことを考えていかないとな」

「分かりました。どうしたらいいんですか?」

「これをつけろ」


 俺は『収納』から変装用の指輪を取り出す。

 そして、それを2人に渡した。


「これをつければいいんですか?」

「そうだ。それをして、肌の色を魔族になるように想像しろ。魔力がある限りは続く。あ、リュミエールはしっかりと耳の長さも調整しろ」

「わかりました」


 それから俺は見本となるように肌の色を変えて、それでお手本を見せる。

 2人は俺のやり方を見て真似ると、指輪を起動して、魔族の姿に変えた。

 光の巫女と勇者だけれど、姿を変えることに抵抗感はないらしい。


「これで大丈夫でしょうか?」

「なんか……変な感じ」

「そのうちなれる。基本的には街にはあまり行かない予定だからな。バレることもないだろう。道順は聞いているからな」

「すごいね。いつの間に?」

「ラビリスで戦っただろう? その時には魔王に会いたいと思っていてな。道順を聞いておいた」

「なるほどね」

「だから問題はないだろう。後はこの姿で人に遭わないことに気を付けるくらいか」

「それは……確かに問題だね」


 勇者と戦う人間と言うのは創作でもないだろう。

 それほどおかしな存在だ。


「よし。では注意しながら行くぞ」

「分かった」

「勿論です」


 俺達はそうやって進み、魔物を倒しては解体して食料として『収納』に詰め込んでいく。

 そして、それは起きた。


「きゃああああああああ!!!」

「! 行くぞ!」

「はい!」

「勿論だよ!」


 少し遠くから少女の悲鳴が聞こえ、俺達は走ってそちらの方に向かう。

 そして、そこにいたのは……。


「や、やめて下さい!」

「ぐへへへ、こんな所に嬢ちゃん1人でくるとは……どうなるか……分かっているんだろうな?」

「そ、そんな……食べ物が欲しかっただけなんです……」


 そう言いながら涙を浮かべている15歳くらいの魔族の少女と、それを見てニヤニヤと笑っている人間の兵士5人だった。

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