第100話 英雄の門出?

「ちょっとちょっと! どうしてボクは蚊帳かやの外なんだよ! ボクも一緒に行く!」


 俺とリュミエールが話している所に、アストリアが割り込んできた。


「お前もか?」

「当然だよ! だって魔王城にいくんでしょう? だったら勇者であるボクが一番に行くのが当然じゃないか! 抜け駆けは許さないよ!」

「お前は……まあ、魔王四天王を倒したお前なんだ。いいだろう。それじゃあ……」


 俺はそう言いかけて、またしても割り込まれた。


「おいおい。いきなり過ぎるんじゃねーか?」

「レールトン……」


 俺たちの後ろには、【守護神】であるレールトンが立っていた。


「いつの間に……」

「俺はずっといたぞ。その嬢ちゃんを案内したのも俺だ」

「はい。レールトンさんがシュタルさんが何かしている様だから……と聞きまして。様子を見に来たんです」

「なるほどな……」


 道理で料理を頼んだはずのリュミエールがいたのか。


「それで、どうして止めるんだ? 旅立ちはさっぱりさせるべきだとは思わないのか?」

「たく……これだからお前は……1人で何でも抱え過ぎなんだよ。今回は任せすぎたってのはあるが……。それでも、英雄の祝いくらいさせてくれや」

「たく……仕方ないな。リュミエール。アストリア。しっかりと楽しんで来い。今日が終わったら……厳しい旅になるからな」

「分かりました! 料理も途中なので行きますね!」

「ボクも! 色々と勇者の名前が必要になるかもしれないから! いこう! リュミエール!」

「はい!」


 2人はそう言ってラビリスの街に駆け出して行く。


 俺とレールトンはそんな2人の背中を見ながら、ゆっくりと歩いて街に戻る。


 のんびりと戻っていると、レールトンが口を開く。


「今回は……悪かったな……。本来は俺がやるべきだったが……お前に任せきりにしちまった」

「聞いていないのか?」

「何をだ?」

「【剛腕】を倒したのは俺じゃない。アストリアだぞ」

「は……? いやいや、幾らなんでもそれは、まだまだ小娘のあいつが勝てるものではないぞ。お前が倒したのを、勇者の手柄として譲ってやったんだろう?」

「? 本当に違うぞ? 俺は【魔陣】とその他雑魚死か倒していない」

「嘘だろ……? 少し前まで……勇者と分からなかった程なんだぞ?」

「一度戦ってみるか? そうしたらあいつのすごさが分かる」

「それは……やめておこう。今は宴を楽しむ為の時間だからな」

「そうか。だが、どこに行っていたんだ? いきなり消えたから驚いたぞ」

「ああ、それはな……」


 それからレールトンと話しながら街中に戻ると、リュミエールとアストリアが手を振って待っていた。


 場所は中央広場で、この街でもっとも大きい場所だ。

 そこでは既に多くの者が酒を飲み、食事を楽しんでいた。


「さて……これからは大変だぞ」

「何がだ?」

「ここは冒険者の街、冒険者と言ったら……酒だ」

「ほう。俺に勝負を挑むとは、楽しみだ」


 俺がそう言うと、レールトンがそこにいるメンバーに向かって叫ぶ。


「おーい! ここに【魔陣】を倒した英雄がいるぞ! 感謝ついでに酒を注いで勝負してやれ!」

「お前は……全く。いい性格をしている!」


 そういうやいなや、多くの人が酒を持って押し寄せる。


「倒してくれたのか! 最高だな!」

「お前が居なかったらやばかったぜ! ちょっとだけだがな!」

「感謝しているわ! ありがとう!」


 俺はそれから酒を飲みに飲んで、皆と楽しい時間を過ごした。


******


 それから翌日。

 俺達は早朝からラビリスの門にいた。


 メンバーは俺とレールトン、リュミエールとアストリアだけだ。


「じゃあな。レールトン。次は気をつけろよ」

「そんなほいほい攻められたくないもんだがな」

「違いない」


 そんな軽口を叩き合っていると、リュミエールが口を開く。


「レールトンさんは……一緒には来ないのですか?」

「俺か? 俺はいかんよ。俺は……この街を守る事が使命だからな」

「ああ、お前がこの国を守っているというだけで俺は心配していない。だから……後ろは任せたぞ」

「【守護神】の名に恥じぬ働きをしてやろう」

「ああ、任せた」

「おう。何かあったら呼んでくれ。力になるからな」

「ではな」

「達者でな」


 俺達はそれ以上口を開くことなく、簡単に別れる。


 別れ等幾らでもある。

 だから、これくらいの別れでいいのだ。


 そして、歩き出して少ししたころ、リュミエールがじっと俺を見てくる。


「どうした?」

「そういえば……昨日……アストリア様の髪……れてませんでした?」

「よくそんな事を覚えているな……。だがまぁ、気のせいじゃないか?」


 そう言えば、昨夜はアストリアと一緒の風呂に入ってしまった。

 彼女にバレたらどうなってしまうか。


 そう思っていたら、まさかの方から俺は刺される。


「そうだよ! 昨日の夜はボク……シュタルと一緒の温泉に入ったんだ」

「アストリア!? お前何を!?」

「え? だって一緒に入ろうって誘ってくれたのはシュタルじゃないか!」

「それは……そうだが……!」


 あの時の俺を殴りたい。

 時間とかさかのぼれないかな。


 いや、今はそれよりも……。


「シュタルさん。ちょっと……詳しいお話……いいですか?」

「あ……ああ」


 それから彼女に説明するのに、魔族との国境の森に入るまで……3日間くらいかかってしまった。

 というか、最後らへんは彼女の要求を色々と飲まされてしまった気がする。


 でも、こんな関係も……悪くはないのかもしれない。

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