第99話 リュミエールとして


「どう……いう……こと?」


 アストリアは自身の体を隠すのも忘れて俺に詰め寄ってくる。


「……体を隠せ」

「ねぇ! どういうこと!? ボク達をおいて1人で魔王の所に? なんで!」


 彼女はそう叫びつつ俺の手を揺さぶる。

 その時に彼女の何もないと思っていた小さな物が視界に入ったりして色々と問題しかない。


「落ち着け」

「どういうことなの!? ボクは……ボクは勇者だよ!? 魔王を倒すのはボクのやることだよ!?」

「別に倒しに行くわけじゃない」

「じゃあどういうことなのさ!」

「魔王と話すだけだ」

「話すって……魔族と話が通じる訳なんて……」

「お前は魔族をどこまで知っている?」


 俺はアストリアの体を見ないように、彼女の顔だけに集中して聞く。


 彼女は、憎しみの籠った目で俺に答えた。


「そんなの人類の敵に決まっているじゃないか! いっつもこっちにちょっかいをかけてきて、今回だって、一体どれだけの被害が出たのか知っているでしょ!?」

「それは魔族の中でも攻めて来た連中の話だろう? 魔族の中の普通の者達は? 生活様式は? どんな価値観を持っている? そう言った事を……お前は知っているのか?」

「それは……知らないけど……」

「そうだろう? 俺達は魔族を何も知らなさすぎるのではないのか? だから……それを知りに行きたいんだ」

「そ、そういうこと……」


 彼女は俺の言葉に納得したのか、ゆっくりと温泉の中に沈んで行く。

 そして、口元をぶくぶくと気泡を出し、考え込んでいた。


 俺はそんな彼女の頭にタオルを投げつける。


「それにしても、お前が体を見せつけるとは思わなかったぞ」

「べ、別にそんなんじゃ……」

「安心しろ。お前の体に欲情する趣味はない」

「……サイテー」

「お前はまだ子供だろう? その内成長する。心配するな」

「ボクはもう15才なんだけど……」

「ドンマイ」

「ちょっとそれどういう意味!?」


 彼女は顔を真っ赤にしながら俺に詰め寄ってきた。


「そのままの意味だ」


 俺は彼女にそれだけ残すと、立ち上がる。


「え? ちょちょっと!? ボクの体には興味ないって!? でも……君がどうしてもっていうなら……」


 俺は1人で目を瞑っている彼女をおいて脱衣所に戻って着替えを済ませる。


「アストリア。俺は先に戻っている。『結界魔法シールド』は数回叩けば開く。終わったら戻ってこい」

「もおおおおおおお!!!」


 1人で何か怒っているけれど、一体なんなんだろうか。

 まぁ、別に……これはこれでいい。


 どちらにしろ、俺は1人で行く。

 リュミエールとの契約も本当は勇者と会うまでだったのだ。

 だから……これでいい。


 俺はラビリスの街を後にして、魔族領に向かって足を向ける。

 すると、後ろから誰かが近付いてくる気配を感じた。


 もしかしてアストリアか? ただ、出てくるにしては早い。


「どうしたん……」


 俺は振り返り、彼女を見ようとしたらそこには別人が立っていた。


「リュミ……エール……」

「シュタルさん。一体どこにいくつもりですか?」

「……別にどこでもいいだろう。お前との護衛契約は終了した。お前は勇者と共に進むべき道を進め。俺は俺の道を進む」

「シュタルさん。幾らなんでもかって過ぎます。私をおいてどこかに行こうとしていたんでしょう?」

「……そうだと言っている。悪いか?」

「悪いに決まっています! 今まで……今まで一緒に旅をして来たのは何だったんですか! 私と……貴方のきずなはその程度のものだったんですか!」


 リュミエールは真剣は目で俺を見つめていた。

 そして、ゆっくりと俺に詰め寄ってくる。


「シュタルさん。私は……私は貴方はそんな事をする人とは思っていませんでした。どうして私についてこいと。これからも一緒に行こうと言って下さらないのですか? 私では力不足ですか? 魔法陣を習っただけでは……足りませんか?」


 そう話す彼女はとても必死で……俺は彼女の真剣さに押されて話す。


「お前は勇者と共に行く光の巫女だろう? なぜ俺と来る?」

「それは……それは! 私がそうした方がいいと思っているからです!」

「では勇者は……アストリアはどうする? 仲間を殺され、光の巫女に逃げられたあいつはどうするんだ」

「一緒に行ったらいいじゃないですか!」

「は、は? 一緒に?」

「そうです! 私も……アストリア様もちゃんと強くなります! だから……だからシュタルさんについていかせて下さい!」

「そうだよ! ボクももっともっと強くなるから!」

「アストリア?」


 俺とリュミエールが話している所に、髪を湿らせたアストリアが来る。


「ボクもシュタルと一緒に行く! ずっと習うだけじゃない! ボクも……もっともっと、シュタルに並べるほど強くなってみせるから! 一緒に行かせて!」

「私からもお願いします! シュタルさんと一緒に行かせて下さい!」

「どうしてそこまで一緒にこだわる? 悪いが……俺は俺がやるべきだと思っている方に向かうぞ?」

「私がそうするべきだと思っているからです! シュタルさんはこれまでずっと……ずっと多くの人を助けて来ました! 私も、セントロの街でも、王都でも、サラスでもここラビリスでも! それ以外でも、立ち寄った場所ではずっと……ずっと人を助け続けて来ました!」

「当然だ。俺が最強だからな」

「そんな事は関係ありません! 最強だろうが、助けない人は助けないでしょう!? 自分には関係ない。そう言って無視していく人なんて幾らでもいます! それを……最強だからと強がり、助けるシュタルさんの力に私はなりたい!」

「……しかし、お前は光の巫女。勇者と共になければならない存在だろう」

「そんなことはどうでもいいんです!」

「なに!?」


 リュミエールが叫ぶようにまくし立てる。


「【光の巫女】なんてものはあくまでスキルです! 私は……私は光の巫女ではなく、リュミエールとしてこの判断をしたのです! 神に勝手に定められた【光の巫女】等ではなく、私として……リュミエールの判断を! 私は信じます!」

「……」


 リュミエールは真っすぐに俺の瞳を見つめる。

 その瞳に嘘偽りは全くない。

 彼女の本心から話していると理解出来るものだった。


「そうか……そうだな。スキルはあくまでスキル。それに左右される事ではない……か。ああ、本当に……お前は……」


 俺は彼女の覚悟を聞き、手を伸ばす。


「そこまで言うなら一緒に行くか」

「! はい! 置いて行っても、絶対に追いかけて見つけてみせますからね!」

「ああ、分かった。では……行くか。魔王城へ」

「はい! ……へ? 魔王城!?」


 そう言って驚く、リュミエールの顔はなんだからいつもより可愛らしかった。

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