第89話 ラビリスの冒険者②


 ラビリスの街中。

 その中で、突如とつじょとして大きな爆発が起きた。


「何が起きた!?」


 多くの者は何が起きたのかわからず、ただ呆然とその方角を見つめる。


 立ち上る土煙つちけむりは時間と共に消え去り、そこには人影が映る。


「誰だ……?」


 誰が口を開いたのか分からない。

 だが、それはその場にいた多くの者が感じたことだった。


 スパッ!


「は……?」


 土煙の側にいた者が真っ二つに切り裂かれる。

 その者は何が起きたか理解する前に絶命した。

 ただ、その方が幸運だったのかもしれない。


「ぐあああああああ!!!???」

「ぎゃああああああ!!!???」


 次の瞬間には多くの者の悲鳴が響き渡った。


 周囲にいた者達の体に黒いいばらが絡みつき、苦痛を与え続ける。


 そんな人々の苦しむ様子を気にした風もなく、土煙の中の者達は現れた。


「ほっほっほ。人の悲鳴は格別じゃのう」

「おで、潰す」

「これこれ、こいつらは人質じゃ。勝手な事はするな」

「わかった」

「お主たちはこの街の者達を殺して回れ。そこそこ手ごわいぞ」

「はっ!」

「畏まりました!」


 【魔陣】の言葉に、浅黒い肌をした魔族達は街に散っていく。


「後は……これも放っておこうかの」


 【魔陣】はそう言うと、彼の周囲には召喚陣が現れ、魔物が現れてくる。

 そしてそのまま魔物たちに指示を出す。


「街の者を殺して回れ」

「バウッ!」

「ボォウ!」


 魔物たちは返事をして、捕らえられていない街の人間達を襲いだす。


「さて、後は……」


 【魔陣】はこれから注意すべき敵の為に準備をする。


******


***星団の牙視点***


「何がおきてやがる!?」

「いいから! 魔物を殺して回れ!」

「スタンピードでもねぇのになんでこんな!」

「原因究明は後です! いいから倒して!」

「分かってるよ!」


 俺達はシュタルという奴にボコられてからずっと外で鍛えていた。

 この街は魔族との国境が近いので、魔物の数がかなり多い。

 それなのに、国として国境沿いにはあまり戦力を配置できないでいる。


 戦力を配置すれば、あちらを余計に刺激しかねないからだ。

 それでも攻めて来ることはあるので、いいから戦力を送れ、という事は言われているが、結局配備は済んでいない。


 そして、そのため国境沿いの魔物は討伐が遅れていて、しかも時々魔族との戦闘も起きていた。


 ただ、それは俺らにとってチャンスでもあった。

 殺しても問題ない相手。

 むしろ、国からしたら推奨すいしょうされている相手ですらあったからだ。


 そんな相手が、突如とつじょとして侵攻してきた。

 それも、誰彼構わずに殺して回り、魔物も街の住人を殺しまくる。


「やめろ! ぶっ殺すぞ!」

「バウッ!」

「くそ! 死ね!」


 俺は剣を犬型の魔物に振り下ろすが、魔物は俊敏しゅんびんな動きで避ける。


「めんどくせぇ!」


 それから多少の時間はかかりながらも、何とか無傷で倒す。

 死んだ魔物はそれきり動かなくなるけれど、他の魔物は街の人達を襲っている。


「たく! どうしてこんなに……」

「原因はいい! 今は対処を!」

「分かってるよ!」


 俺は仲間に返しながら魔物を切り伏せていく。


「はぁ……はぁ……しっかし……こいつらはやべぇだろ……。他の奴らで勝てんのか?」


 Sランク冒険者である俺達ですら少し苦戦する相手。

 そんな魔物がこんなにも沢山現れている。


 現に、近くにいたはずの冒険者達は地に伏せていた。


「くっそ……まじでどんだけ……」

「おやおや、Sランク冒険者と聞きましたが……その程度ですか?」

「てめぇは……」


 俺達の目の前に現れたのは魔族だった。

 そいつは首を傾げながら、俺をバカにするように言う。


「私の事はお気になさらず。どうせすぐに死ぬような者に名乗る名等ありません。それでは」


 奴はそう言って手を軽く振った。


 俺の第6感が働き、その場にいては危険だと判断して横に飛んだ。


 スパっ!


 俺が飛んですぐに、俺がいた地面が綺麗に切り裂かれる。

 もしもあのまま突っ立っていたら今頃俺は死んでいただろう。


「ほう……それを避けますか。ですが、これではどうですか?」


 魔族はそういいつつ、両手を俺に向かって10回ほど振った。

 その速度は信じられない程に早く、地面に伏せたままの俺はさとる。


 死んだ……と。


「あ……」


 俺は諦めて目を閉じる。


「……ん?」


 しかし、俺の体に異変は感じない。

 何が起きたのかと目を開けると、そこには……この街の英雄が立っていた。


「守護神……レールトンさん……」

「よう。無事か?」

「は、はい」


 俺と魔族の間にはレールトンさんが立ちふさがっていた。

 彼は全身金色の鎧をまとっていて、片手にはタワーシールド、もう片手にはショートソードを持っている。


「あ……あの……攻撃が……今あったかと……」

「ん? 攻撃? ああ、そよ風かと思ったよ」


 俺は彼のその言葉を聞いた時、この戦いの勝利を確信した。

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