第88話 束の間の休息

 俺達は今、ラビリスの宿に泊まっていた。


「うぅ……ん……」


 俺はベッドの上で眠っているアストリアを見る。


 リュミエールはアストリアの体を拭くための湯をもらいにいっていた。


「う……うん? ここは……」

「起きたか、アストリア」

「シュタル……ボク……どうしてここに?」

「お前がダンジョンの主を倒したら倒れたからな。抱えてここまで戻ってきた」

「ちょ、変なとこ触ってない!?」


 アストリアは少し顔を赤らめて俺を問い詰める。


「抱えただけで触ってないぞ。お前の体はリュミエールしか拭いていないからな。光の巫女に拭いてもらえるんだ。喜べよ?」

「なんとなく言いたいことがあるけど……。いいよ。それで、ボクは次は何をしたらいいの?」

「何とは?」

「強くなるための修行」


 アストリアはそう言って、寝起きのはずなのに物凄く真剣な目で俺を見つめる。


 俺はそんなアストリアから目をそらし、立ち上がる。


「え? どこ行くの?」

「食事を取ってくる。腹が減っているだろう?」

「え……あ」


 俺がそう言うと、彼はぐぅぅと腹を鳴らす。


 そのタイミングで、リュミエールが入って来た。


「お待たせしました……って。起きていたんですね。アストリア様」

「リュミエール」

「さて、シュタルさんは少し出ていて下さい。アストリア様の体を拭きますから」

「ああ、俺は食事を取ってくる」


 俺がそれだけ残して出て行こうとすると、アストリアが止めてくる。


「ま、まって、ボクは自分で食堂に行くから、ちょっと自分の部屋で待っててくれない?」

「そうか? それがいいなら……そうだな。体を拭いたら外で食事にするぞ」

「わかった」


 それから俺は少しの間自室で過ごす。


 考える内容は幾らでもある。

 これから……俺はどうするべきなのか……。

 ということについてだ。


 このままでいいのか。

 それとも、俺がやるべきこと……やらなければならない事をやって行くべきなのか……を。


 そんな事を考えていると、部屋がノックされる。


 コンコン


「空いている」

「シュタルさん。こちらは準備できました」

「よし。では行くか」

「はい」


 俺達は3人で外に食事をしに行く。

 外は昼を少し過ぎた程度で、空は晴れ渡っていた。

 ただ、道中で困った事が起きる。


「……っ……っ!?」


 アストリアが周囲の人を物凄く警戒するのだ。


 まるで、何でもない人に襲われる事を警戒しているようであった。

 しかし、その気持ちは分からなくもない。


「アストリア。気を抜け」

「でも……折角強くなったのに……」

「違う。強さを保つ為に、気を抜けと言っている」

「……どういうこと?」


 不思議そうな顔をするアストリアに、俺はしっかりと説明する。


「集中し、常に戦いに意識を向ける事はとてもいいことだ。だが、それをずっと続けていては意識が持たないんだ。だから、最低限、の距離感だけは保ち、気を抜く事をする」

「そんな……」

「これも訓練だと思って、気を抜け」

「ええ……」

「大丈夫。死にそうになったら俺がまた復活させてやる」

「あ、そうだ。記録しておかないと」

「それで、気を抜け。いいな?」

「うん……やってみる」


 少し難しそうな表情をしている彼に、俺はリュミエールを差し向ける。


「リュミエール。アストリアと遊ぶぞ」

「え? 遊ぶんですか?」

「そうだ。今日は1日気を抜くことも訓練として、楽しく遊ぶことをやっていくぞ」

「分かりました! シュタルさんもたまにはいいことを言ってくださるんですね!」

「たまにはは余計だ」

「ふふ。では一緒に行きましょう!」

「え? あ、ちょっと」


 リュミエールはそう言ってアストリアの手を引き、街中を走り回る。


「まずはご飯ですよね! シュタルさん。美味しいお店に案内して下さい!」

「む……そうだな。確か……この店が美味しいと聞いていたはずだ」


 俺は前のメンバーが好きだった店に行く。

 時間が時間だからか人は少ない。


「らっしゃい!」

「3人だ。入れるか?」

「もちろん! お好きな席へどうぞ!」


 俺達は一緒のテーブルに座り、のんびりと食事を始める。


 そんな中、こういう時には一番助かるリュミエールがアストリアに話しかける。


「それでアストリア様は……」


 という感じでずっと話し続けている。

 それでいて、アストリアも最初は緊張していたのだけれど、気付けばリュミエールに安心したのか、ゆっくりと笑えるようになっていた。


 こういう所は流石の人を安心させる光の巫女だ。


 俺はそんな楽しそうに話す2人を見て、これからのことに思いをせる。


(俺は勇者と会いに来た。そして、その目的も達成してしまった。ということであれば、これからの事を考えて行くと、何をするべきなのだろうか……)


 そんな事を考えていると、俺の感覚に敵が来た感覚が駆け抜ける。


「これは……」

「……」

「え? アストリア様? シュタルさん?」


 俺と同じように、アストリアも何かを感じ取っている。


「気付いたか、アストリア」

「うん……これ……やっぱり……」

「ああ、魔族の侵攻だ」


 ドオオオオオオオオオン!!!!!!


 俺がそう言った瞬間、どこかで爆発の音が聞こえた。

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