第87話 アストリアの成長
***アストリア視点***
ボク達はそれから、ダンジョンの下へ下へと向かって進んでいく。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「ブルルルルルルルルル!!!」
「ぐぁ!」
ボクは突っ込んできた見たこともない背中が岩になっているイノシシ型の魔物に弾き飛ばされる。
体重の軽いボクは木の葉の様に吹き飛び、勢いよく壁に叩きつけられた。
「ぐ……ぅ……」
「早く立ち上がれ! 敵は待ってくれないぞ!」
体中がガタガタと音を立てているようなボクに、シュタルは関係ないとばかりに叫ぶ。
「く……そう……」
「ブルルルルルルルルル!!!」
ドガッ!
ボクは魔物に吹き飛ばされて、意識を失う。
「!」
しかし、ボクはすぐに現実に意識が帰ってくる。
「ここは……」
「敵はまだいるぞ! 死んでいる暇などない!」
「この……やろう……」
「毒づく暇があったら剣を握れ! 強くなりたいんじゃないのか!」
「分かってるよ!」
「ブルルルルルルルルル!!!」
ボクは意識を魔物に集中させ、奴が突っ込んでくるギリギリのタイミングで躱そうと横に飛ぶ。
「ブルルルルルルルルル!!!」
「な!? うわぁ!」
しかし、魔物はそんなボクの動きを読んでいたのか、簡単に追撃して来た。
そして、ボクはまたしても壁に叩きつけられる。
「ぐぅ……」
「……今日はここまでか」
シュタルはそう言って、リュミエールと自身を囲っていた『
「ではな」
そう言って見えない速度で剣を
「アストリア。生きているか?」
「いち……おう……」
「そうか。では立ち上がれ」
「……うん」
ボクは何とか立ち上がり、少し広い部屋に戻っていくシュタルについていく。
そんな中、リュミエールがボクに話しかけてくれる。
「……」
「……」
「アストリア様。大丈夫ですか?」
「ありがとう。リュミエール。ボクは……大丈夫だよ。だって、勇者だからね」
「でも……」
「大丈夫。ボクは強くなるって言ったんだから。だから……ボクは死んだとしても、たとえ何度死んでも、強くなる事を諦めたりしないよ」
「……分かりました」
それからボク達は休憩しつつ食事を取り、睡眠を取る。
「……」
「……」
「……」
誰も何も言わない。
まぁ、誰かがボクに話しかけても、ほとんど答えられないから仕方ない。
ボクは強くなると決めた。
でも、オリハルコンゴーレムを倒してからあんまり前に進めている様な気がしない。
シュタルに教えを乞うているけれど、自分で考えろ。
そう言うだけで教えてくれる様な事は何もしない。
だから、ボクは自分で考える為に一生懸命今日は何をしたのかを思い出そうとする。
魔物が突っ込んできて、それをボクは避けようとする。
でも、敵はそんなボクの動きを読んでいて、それでどうすることもできない。
ボクはどうしたら良かったのか。
どうするべきだったのかをずっと考え続ける。
そんな日々がずっと続いた。
魔物に飛ばされ、魔物叩きつけらて、魔物に転がされる日々。
どうしたら勝てるのか。
どうしたら倒せるのか。
毎日毎日考え続けた。
そうしていると、ちょっとずつ、ちょっとずつだけれど、魔物の攻撃を躱せるようになってきた。
「あれ……? 動きが……見える?」
「ブルルルルルルルルル!!!」
ボクは突っ込んで来る魔物の動きをギリギリまで見極め、当たる直前で奴の下に潜り込む。
「ブルル!?」
「あ、ここ」
ボクはそのまま剣を振り抜き、薄そうな奴の腹を切り裂く。
「ブギィ……」
奴はボクに切り裂かれて、それ以来動かなくなった。
「……勝った?」
僕は魔石を残して消えていく魔物を見て、ただただ信じられずにそれを見つめる。
「よくやったな。アストリア」
「え……でも、ボク……今何があったのか……」
「人は死に直面すれば、生き残ろうと感覚を極限まで研ぎ澄ます。そして、戦うことに関しては最高峰と言われる勇者。それをこれだけ追い込んでやっていけば強くなるものだ。もちろん。まだまだ先は長いがな」
「そっか……戦いって……こういう物なんだ……」
「そうだ。命を懸ける。その想いを強く持ち、常に死と隣り合わせで戦う。それが出来て初めて人は成長出来る」
「うん……少しだけ……分かったかもしれない」
「よし。では今の相手にもっとしっかりと勝てるようになってからだ」
「はい!」
それからボクは何度も何度もそのイノシシ型の魔物を倒した。
最初の内は何度か失敗もしたけれど、死ぬという思いをしっかりと思い出し、集中し始めればもっと簡単に倒せるようになった。
「よし。次だ」
「はい!」
そして、何度も同じ敵を倒し、余裕を持って倒せるようになる。
それが終わったら、また新しい敵との戦いだ。
新しい敵との戦いも最初は何度も殺された。
だけれど、繰り返している内に、相手がこの様に動いて来るんじゃないのか?
そんな事が分かるようになってきた。
そして、楽に勝てるようになると、また次の魔物と戦いに行く。
ボクはそんな生活を続け、全く新しい敵でもすぐに死ぬことはほとんどなくなった。
「ゴアアアアアア!!!」
「ふっ!」
目の前にいるのは見たこともない綺麗なドラゴン。
初見ではあるけれど、初対面の敵にはあらゆる可能性を考えて無理には踏み込まない。
「もう……いいかな?」
ボクは数分間敵の動きを全て詳細に頭に入れて、少しずつ、少しずつ近付いて行く。
「ここだね」
「ゴアアアア!!??」
サクリ
ボクの一撃はそこまで強くない。
だから、敵の弱点をしっかりと見抜いて的確な一撃を与えていかなければならないのだ。
しかし、敵は強い。
「ゴアアアア!!!!!」
「よっと」
ボクは怒り狂って攻撃してくる奴の攻撃を大きく飛びのいて躱し、また振り出しに戻す。
だけれど、奴は着実にダメージが入っている。
ボクはこれを続けてゆっくりと削って行くだけでいい。
「慌てない。いつも死の危険を感じ、確実に全ての可能性を潰して戦う」
ボクはそのことを忘れず、奴が倒れるまでじっくりと戦い続けた。
******
俺とリュミエールは『
アストリアはどんな時でも油断せず、最適解を取り続けている。
相手はこのダンジョンの主だけれど、見ている俺にとっては安心して見ていられる程に安定した戦いを繰り広げていた。
「勝ったな」
「ほ、本当ですか? 勇者様……大丈夫でしょうか?」
「心配するな。あれだけの死を乗り越えて来たんだ。それを耐え抜いた勇者の精神力は流石という他ない」
「え……それって……普通の人だったら危険だったんですか?」
「? 当然だろう。あれほど死を経験して、問題ない人間なんていない。本当に危なくなったら止めるつもりだったが、問題なく成長出来たからな」
「シュタルさんって人は……」
「それだけ、短期間で強くなるのは難しい。というか、普通に強くなろうとして出来るものではないよ」
「それは……そうかもしれませんけど」
「よし。そろそろ終わるぞ」
「え? もうですか?」
リュミエールが俺からアストリアの方に視線を戻すと、主は倒れて消えて行く所だった。
「ゴアアアアアアァァァァァァ………………」
主は消え去り、部屋には俺の背丈ほどもある宝箱と、魔法陣が生まれていた。
アストリアは、倒したはずなのに周囲を未だに警戒している。
俺はそんなアストリアに近付き、肩を叩く。
「お疲れ」
「シュタル……」
「よく一人で倒したな。最初は俺が手助けをするつもりだったが、必要ないくらいには強くなれたな」
「うん……ありがとう……シュタル」
「おっと」
俺は緊張の糸が切れ、倒れてくるアストリアを受け止める。
そして、彼女を連れて、回収した宝物と一緒に地上への魔法陣に立った。
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