第79話 レールトン

 上から降りてきた男は俺の前に立ち、口を開く。


「良く来たな、シュタル」

「ああ、久しぶりだな。レールトン」


 俺は久しぶりに会い、少し老けた男と握手を交わす。


 彼は俺と手を握りながら豪快ごうかいに声をあげる。


「しっかし、よくやったなお前! いくら何でもあいつ等相手に動かないなんて芸当出来るとはな?」

「それくらいならお前も出来るだろう?」

「がっはっはっはっはっは。そいつはやってみないと分かんねぇな!」

「全く、たった1人で魔族の軍勢すら跳ね返す男がよく言う」

「昔の話だ。そんな事もある。お前こそ、他の仲間はどうした?」

「……色々とあってな。別れた」

「……そうか。そんなこともある。俺だって今はソロだからな」

「ああ、それでどうしたんだ? 【守護神】様と戦えるのか?」

「やめておこう。お前と戦うとギルドが……いや、この街がなくなるかもしれないだろう?」

「……そうかもしれんな」


 俺は彼と戦った時の事を考えると、そうなってもおかしくないと感じる。

 それほどに彼は強く、その実力は桁違いだ。


 彼であればミリアムですら瞬殺出来るだろう。


「さ、こんな所で話すのもあれだ。積もる話もある、上に行こう」

「いいのか?」

「当然。文句があるやつは力で……な?」

「なるほど」

「だがその前に、そいつらを開放してやってはくれないか?」

「ん? そいつら?」


 俺はレールトンの示す方を見ると、そこには『水牢魔法アクアジェイル』に入れらた2人がいた。


「あ、悪い悪い」


 俺はすぐに魔法を解き、2人を解き放つ。


「うぅ……」

「そんな……なんてでたらめな……解除出来なかった……」

「まだまだ精進が足りんな。Sランク冒険者パーティを名乗るのなら。あの程度は出て見せろ」


 俺はそれだけ残すと、レールトンに続いてギルドの中を歩いて行く。


 その途中で、ヒソヒソと話す声が聞こえた。


「あれは……誰だ?」

「この街の英雄、【守護神】のレールトンさんとタメ……?」

「それだけ……すごい男なのか?」

「ありえるのか? 彼がいるからこの街は保たれていると言ってもいいんだぞ……?」


 やはりレールトンの存在はそれほどに大きいらしい。


「人気者だな」

「なりたくてなった訳じゃないんだがな」


 そんな事を言いながら、上に登ろうとすると、リュミエールがいないことに気が付く。


「おっと、リュミエール! お前も来い!」

「え? い、いいんですか!?」

「ダメだと言った奴は俺がぶっ飛ばす。いいから来い」

「は、はい!」


 リュミエールは俺の方に走ってくるけれど、それを邪魔する者は誰もいない。

 まぁ、さっきあれだけの力を見せたのだから当然か。


「しかし、あの嬢ちゃんが次の仲間か?」

「いや、あいつは俺が護衛をする相手だ」

「そうか」


 そんな事があり、上に登るとそこはかなり違った世界になっていた。


 テーブルは広々としていて、イスも下にあるものよりも圧倒的に質がいい。


 受付も絶対に待たせる気がないのか、3人も常駐していた。

 俺達の他にメンバーは10人もいないのに……だ。


 流石力こそ全て、それを体現するかのような場所だ。


 俺とリュミエールは並んでレールトンの正面に座る。


「さて、それで要件を聞こうか? 一度は夜逃げする様にこの街を出て行ったんだ。それなのに何か理由があったんだろう?」

「理由……か。特にないぞ」

「……は?」

「いや、本当だ。あの時……俺がまだ『至高の剣』だったころ、他のメンバーがいいから早くこの街から出たい。そう言っていたからだな」

「……ああ、そう言えばあいつらの実力はそこそこだったか」

「一応な」

「と、話がそれた。それで、要件は?」

「勇者を探している。居場所を聞こうと思ってな。領主の館にでも行った方が良かったか?」

「いや、領主も詳しい情報は知らんだろう。この街では冒険者ギルドの方が強いからな」

「あの時から変わっていないか。それで、居場所は? レールトンなら知っているだろう?」

「……事情によるな」

「リュミエール。いいか?」


 俺は一応確認を取るために彼女に聞く。


「は、はい。問題ありません!」

「そうか。では言うとな。彼女は光の巫女だ」

「……光の巫女……とはあの、勇者と共にいると言われいてるあの……光の巫女か?」

「それ以外にいるなら知らないが、一応そうだぞ」


 俺がそう言うと、リュミエールは立ち上がって鞄から光の巫女の服を取り出す。


「これがその証拠です!」

「おお……そうか。悪かったな。嬢ちゃん。でもそういう事なら言っていいか。勇者は今ダンジョンに潜っている」

「まぁ……ここに来ているという事はそういうことだとは思っていたが……。今どこらへんにいるのか分かるか?」

「今はこの街のSランク冒険者を2人と……元々勇者についていた2人の系5人でダンジョンの最深部を目指している。上手くいっていれば35~38階層あたりにいるだろう。だがまぁ……そこからが鬼門だな」

「何を言っている。レールトンなら行けるのだろう?」

「……俺はいかんよ。俺が行くのはあの時のメンバーだけと決まっているからな」

「そうか……」


 レールトンは強い。

 その圧倒的な実力を持っているが故に、昔の俺と同じようにメンバーとの間に実力差が生まれてしまう。

 その結果として、彼らは……最深部の40階層を突破した際に、彼を残して死んでしまった。


 彼はそれ以降ダンジョンに潜る事はしなくなり、この街を守り続けている。

 彼はそんな思い出を振り払うように話しかけてきた。


「だがそれは俺の理由だ。別にお前は関係ない。ダンジョンの最深部を……いや、踏破してもいいんだぞ?」


 彼は冗談めかして言ってくるので、俺も彼に告げる。


「踏破なら前にしたぞ? 確か……3,4回はしたかな。他のメンバーが他の街に行きたいと言わなければ後5,6周はしたかったところだ」

「は……」

「え……」


 リュミエールとレールトンは、俺をじっと凝視していた。

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