第80話 ダンジョンへの準備

「踏破なら前にしたぞ? 確か……3,4回はしたかな。他のメンバーが他の街に行きたいと言わなければ後5,6周はしたかったところだ」

「は……」

「え……」

「どうした? 俺の顔に何かついているか?」


 俺は顔を触って、何かついていないか確認するが、特についている様には感じない。

 一体どうしたのだろうか。


「いや……シュタルさん……それ……本当……ですか?」

「嘘をついてどうする。というか、お前には散々見せてきただろう? ダンジョン産の道具の数々を」

「あれ……確かにダンジョン産とは言っていましたけど……。言っていましたけど! ここの物だったんですか!?」

「そうだぞ。言ってなかったか?」

「言っていません! それに……踏破したとは一言も……」

「ん? まぁ、俺が踏破していないダンジョンはこの国にない。だからわざわざ言う必要を感じなかったんだ」

「そんな……」


 リュミエールは開いた口が閉まらないのか、大きく開けて俺をじっと見つめている。


 そんな彼女とは対象的に、レールトンは驚いた顔からゆっくりと普通の顔に戻っていく。


「そうか……お前がやってくれたか」

「最後まで行くとどんな風だったのか教えようか?」

「……いや、いい。俺のダンジョンは……俺達のダンジョンはあそこで終わりだ」

「そうか。ならば言わないでおこう」

「そうしてくれ。それで、もう行くのか? それとも折角だ。一杯飲んで行くか?」

「飲むのは帰って来てからでも出来る。まずは勇者をボコりに行くとしよう」

「……待て。勇者と光の巫女を引き合わせに来たのではないのか?」

「そのつもりだが?」

「ならなぜボコるという言葉が出てくる?」

「折角なんだ。魔王を倒すという最高戦力と戦ってみたくてな」

「そ、そうか……。まぁほどほどにな?」

「ああ、心を数回折るくらい戦えれば満足だ」

「それは……満足なのか?」

「ああ」


 俺はそれだけ言うと、席から立ち上がった。


「リュミエール。早速行くぞ」

「え? も、もうですか?」

「当たり前だ。情報は集まった。勇者を狩りに行くぞ」

「狩るのは止めて下さい!」

「冗談だ。半分狩るくらいだ」

「半分でも全部でもそういう問題じゃないんですよ!?」

「それだけ元気があれば大丈夫だな。よし」


 俺とリュミエールが階段を降りて行こうとすると、レールトンが声をかけてきた。


「そうだ。シュタル」

「どうした?」

「もし……勇者を探す邪魔にならない程度であれば、困っている冒険者がいたら助けてやってくれ」

「……ああ。それくらいはやってやろう。ではな」


 俺はそう言って、冒険者ギルドを出た。




「あの……あれで良かったのですか?」

「何がだ?」

「レールトンさんです。もっと……話があったのでは?」

「いいんだよ。昔話になってしまうのは良くないからな」

「そういう物ですか」

「そうだ。よし。それではこっちだ」


 俺は歩いてダンジョンへと向かう。


 その途中には、魔道具屋だったり武器屋だったり、保存の効く食料品店だったりが所狭しと並んでいる。

 大通りに面しているからか、どの店も人で賑わっていた。


「……」


 リュミエールはそんな店が珍しいのか色々と目移りしていた。


「どうした? 少し見て回りたいか?」

「いえ……いえ、確かに……見て回りたいんですが、勇者様とあってからでもいいのかな……と」

「なるほどな。確かにそれはあるか」

「はい。なので、必要な物だけ買って行きましょう。ダンジョンに潜るという事は色々な道具が必要なんですよね。私ダンジョンに潜るのは初めてなんです」

「そうだったのか。だがまぁ、道具は必要ないぞ」

「え? そうなんですか?」

「ああ、俺が持っている。『収納』に全て入っているからな」

「そ、そうなんですか……。ま、まぁですが、食料については……」

「それは今から適当に買っていく。といってもそんな必要はないがな」

「え?」

「当然だ。そんな長期間潜る予定はない」

「あの……ダンジョンって……その……10階層潜るのも1週間……下手したら1か月かかったりすると聞いた事があるんですが……」

「そうだな。普通は」

「でも……シュタルさんは?」

「俺は最強だぞ? まぁ、観光気分でいい」

「えぇ……この国最高難易度と聞いていたんですけど……それを観光で行ってしまってもいいんですか?」

「別に問題ないだろう。それでは行くぞ」

「はい……感覚がおかしくなりそうです」


 俺達はこの調子で進み、ダンジョンに入る所まで進む。


「ここがダンジョンですか……」

「そうだな」


 この街のダンジョンは、今目の前にある石で出来たちょっと大きめの建物から入っていく。

 そして、このダンジョンを下と横に拡がっていて、下に行けば行くほど難易度も上がっていくのだ。


 階層は下に行くための階段があり、それを下っていく。

 そして10階層ごとにボス部屋があり、それを越えると次の階層に行くことが出来る。


 上層の階層はそれなりに人がいるが、30階層から下に行くとなると、めっきり人が少なくなるのだ。


 だがまぁ、俺達にとっては関係ない。


「とりあえず行くぞ」

「あ、はい」

「『結界魔法シールド』」

「え?」

「それに乗っていろ。その方が速い」

「わ、分かりました」


 俺は彼女を『結界魔法シールド』に乗せ、ダンジョンの中に入っていく。

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