第77話 ラビリスの冒険者①

 俺は冒険者ギルドから飛び出してきた者を捕まえて地面に降ろす。


「お前、大丈夫か?」

「あ、ああ……助かったぜ。これでもう一度戦える!」

「は?」

「うおおおおおおお!!! 待ってろお前ら!」


 助けた冒険者は、またしてもギルドの中に帰って行く。


「なんなのでしょう……」

「気にしない方がいい。ここはそういう場所だ」

「そういう場所って……」

「ついてこい」


 俺はリュミエールに先行する形でギルドの中に入っていく。


 ギルドの中は王都のギルド等とほとんど変わらない。

 一つ違う事があるとしたら、入ってすぐ右手に2階に繋がる階段があるくらいだ。

 この階段は高ランクの冒険者用で、Aランク以上でなければ登る事は出来ない。


 一時的に高ランクの冒険者に誘われれば、もしくは登ることは可能だ。


 まぁ少なくとも、Bランクである俺には関係ない代物だ。


 そして、ギルド内は何を争っているのか乱闘になっていた。


「てめぇ! よくもやったな!」

「お前こそ! ぶっ殺してやる!」

「俺の方が強ええ!」

「なにくそ俺が上だ!」

「なんで……彼らは争っているのでしょうか……」

「さぁな。大方今日の宿の飯が不味かったとかどうでもいい理由だと思うぞ」

「そんな理由で乱闘を……?」


 俺がそう言って、ギルドの受付に行こうとすると、端っこの方で乱闘には参加して居なかった奴が俺に近付いてくる。


 そして、そいつは俺に向かってニヤニヤした顔を浮かべて話しかけてきた。


「おいおい、そんな一般人がここに来るもんじゃねぇぜ」

「なぜだ?」

「ここは俺達この街のトップである冒険者ギルドだぜ? そんな所にお前みたいな奴が来ていい訳ないだろうが。しかも……エルフのかわいこちゃんを連れてよ」

「良かったな? められたぞ?」

「こんなのに褒められても……」

「ああ? おれの事を誰だか知らないのか!?」

「知らん」

「おれはかつてここでSランク冒険者をバッタバッタとなぎ倒したと言われるあのシュタル様だぞ? それを分かった口を聞いてんのか?」

「ほう。それは面白いな」

「え? シュタルさんそんなことしてたんですか?」


 懐かしいな。

 以前ここにいた時にちょっと……色々とやったことを思い出す。

 あの時の俺も若かったな。


「まぁ、昔の話だ。それに、今はもうそんな事はしない。だろう?」

「そう……でしょうか……」


 リュミエールは少し考えていると、そこに先ほどの男が食ってかかってくる。


「てめぇいい加減にしやがって。このおれをこけにすると許さねぞ」

「別に貴様に等興味はない。いいからあそこの物陰に隠れておけ。さっきからずっと隠れていただろう?」

「てめぇ!」


 俺がそう言うと、男は俺に勢いよく飛びかかってくる。


「面倒な……」


 俺は適当に奴の腕を掴むと、そのまま近くのテーブルの上に叩きつけた。


 バン!


 ちょっと力が入り過ぎて、大きな音が鳴ってしまう。


「だ、大丈夫ですか!?」


 リュミエールも俺の心配ではなく、投げ飛ばされた相手の心配をしている。

 まぁ、それはしょうがない。

 投げられた奴は意識を失っているのだから。


「おい……あいつ……」

「新顔か? なら挨拶しねぇとな」

「バカ! 止めとけ、あいつは……」


 近くに居て、こちらを見ていた者達の反応が2つに別れる。

 一つは俺に向かって戦いを求めてくる者達。

 もう一つは俺と目線を決して合わせないようにして、そそくさと端に寄る者達だ。


「おいお前、ここが初めてか?」

「いや、2回目くらいかな」

「そうか。だったらここの流儀は知っているな? 力こそ、全て、戦って勝つ奴が全て正しい」

「知っているよ」

「お前が倒したのは口だけで乗り切る雑魚だ。だが、俺達の舎弟みたいなもんだからな。その礼はさせてもらうぞ!」

「そうか。好きにしろ」

「なら食らえヤァ!」


 俺に近付いて来た他の冒険者が、拳を握って俺に殴りかかってくる。


 ふむ。

 速度は悪くない。

 だが動きが素直すぎる。

 それに、相手の事を装備だけで判断する甘さも少々問題だろう。


 後は、相手が俺であるのに喧嘩を売ってくるその愚かさを教えてやろう。


「それ」


 バン!


 俺は先ほどの奴と同じようにして目の前のこいつをテーブルに叩きつける。


「ぐっは!」

「お、流石にこの程度じゃ気を失わないか。いいぞ。もっと抵抗しろ」


 バン! バン! バン! バン!


 俺は何度も奴を床とテーブルに叩きつける。


「ま、待って! 待ってくれ! 降参する! 降参するから!」

「なんだ? もう降参か? ラビリスの冒険者が聞いたら泣くのではないのか?」

「無理! もう無理だから!」

「そうか。だらしないな」


 俺はそのままそいつを適当に放り投げると、床を転がって動かなくなる。

 流石に殺さないようには気を付けたので、問題はないだろう。


「よし。これで多少力は見せられただろう。行くぞ」

「は、はい……」


 リュミエールもちょっと引き気味になり、俺の後ろに隠れるようにしている。


「さて、受付よ。勇者は今どこにいるか知っているか?」


 俺は受付に行き、大人の魅力溢れる女性の所に行く。


「それは……国の情報としてお教えする事は出来ません」

「何? では誰なら知ることが出来るのだ?」

「Sランク冒険者か、国からの使者でなければお答えは出来ないんですよ」

「むぅ。それは考えて居なかったな」

「あ、あの。シュタルさん」

「ん? どうした?」


 俺は受付と話していると、背中の服をリュミエールが引っ張ってくる。

 俺が振り返ると、ギルドにいた半数位の者達が俺に対して怒りの視線を向けていた。


「どうしたお前達。いきなりクエストを受けたくなったのか?」

「そんな訳ないだろう。俺達ラビリスの冒険者は力が全てだ。さっきの貴様の言葉、取り消すまで帰す訳にはいかねぇ」

「さっきの言葉……?」


 俺が頭を抱えていると、リュミエールが教えてくれる。


「多分ですけど、『なんだ? もう降参か? ラビリスの冒険者が聞いたら泣くのではないのか?』と言ったことに対してではないでしょうか……?」

「ああ……そう言えばそんなこと言ったな」


 だがまぁ真実だ。

 俺にとってこいつら程度はそれくらいでしかない。

 でも、折角やるのであれば、上にいる連中も欲しい。


「そうだな。では俺とお前達でやろうか。それと折角だ。上にいて見ているだけの者も来てもいいぞ。俺に負けるのが怖くなければ……だがな?」


 ブチブチブチ


 目の前にいる連中がかなり切れているのが伝わってきた。

 そこそこいいあおりは出来たのではないだろうか。


 ダン!


 俺の言葉を聞き終わるや否や、数人の男女が床に降り立った。


「そこまで言うのなら相手をしてやるよ。俺達Sランク冒険者パーティ『星団の牙』がな」

「ほう。楽しみだ」

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