第76話 追え! 歓迎するぞ!

「ここが……ラビリスですか」

「そうだ。昼前につけて良かったな」


 俺達は今、勇者がいるというラビリスに来ていた。


 ラビリスは王都に勝るとも劣らない高く、堅牢けんろうな城壁を持っていて、何度も受けた侵攻の跡である傷が無数についていた。


「はい。早く勇者様にお会いしたいです」

「俺もだ。ボコってやると決めているからな。楽しみだ」

「そう言えばそうでしたね……」


 俺達はそんな事を言いながら街の中に入ると、即座に囲まれてしまった。


 俺達と囲んでいるのは普通の市民だったり、冒険者だったり、商人だったり。

 近くにいたありとあらゆる人がいた。


「なんだお前達」

「あの……もしやそちらにいるエルフの方は……光の巫女様でしょうか?」

「はい。私は光の巫女です」


 囲んでいた者の1人が代表で聞き、リュミエールがそれに優しく答える。

 次の瞬間には、その場が湧き上がっていた。


「これで勇者様のパーティは安泰あんたいだ!」

「今回の魔王も運がないな!」

「こんなに小さい内に勇者様と光の巫女様が揃うなんて!」


 そのような事を口々に言い、リュミエールに喜びの視線を向ける。


「え、ええと……」


 これまで多少歓迎されることはあったけれど、ここまで熱烈に歓迎を受けたことはない。

 その熱力に、リュミエールも少し引いていた。


 なので、俺がなんでこうなっているのか説明する。


「この街はな、ダンジョンを抱えていて、尚且つ魔族領にかなり近い。なので、いつの時代も魔族との戦争の最前線だったのだ」

「は、はぁ」

「そして、その度に勇者や光の巫女が現れてこの街を救った。だからこそ、王都や他の街よりも、この街は勇者や光の巫女に優しい。自分たちと共に戦ってくれて、守ってくれている存在だから。そういう理由で国王も勇者をこの街で力をつけさせようとしていたのだろう」

「なるほど……」


 俺が説明している間に、リュミエールは握手を求められたり、応援の言葉を言われたりしていてあわあわしていた。

 なので、俺は彼女を連れ出す。


「さて、それでは行くか」

「え? えええええええ!!!???」


 俺は彼女を抱っこして、一息で囲いから脱出する。


「逃げたぞ!」

「追え! 歓迎しろ!」

「絶対に美味いもんを最高にごちそうしてやれ!」


 後ろからはそんな声が聞こえていて、歓迎されているのか追われているのかちょっと分からない。


 でも、悪気はないんだろうけれど、少し迷惑なのでかせてもらった。

 リュミエールを抱えていたとしても、俺の足に追いつける者はいないのだから。


 俺達は人気のない路地裏に入り、周囲に誰もいない事を確認する。


「ここらへんでいいか?」

「……は、はい。もうちょっとそのままでも……」

「何か言ったか?」

「いえ……」


 俺はお姫様抱っこしたリュミエールを地面に立たせる。


「しかし、このままでは不味いな」

「なにがですか?」

「さっきのを見ただろう。光の巫女であることがバレたら、もみくちゃにされながら歓迎されるぞ」

「それって……歓迎されているのでしょうか……」

「ああ、ここの奴ら基本的にガサツだからな。だが悪い奴ではない。その事だけは覚えておくといい」

「分かりました」

「それじゃあ……まずは……服を脱げ」

「え! こ、ここでですか!? な、何で……」

「必要だからに決まっているだろう」


 なんでリュミエールは顔を真っ赤にしているのだろうか。

 このままでいいはずがないことは説明したのに。


「で、でも……その……。5年待てって……」

「こんなことに5年もかけられるか。今すぐだ」

「い、今すぐ!? 流石に心の準備と言うか……。もうちょっとムードがある所でやるのがいいというか……」

「何を言っている。いいからさっさとしろ。勇者に会いに行くんだろう」

「勇者様の前でするんですか!?」

「いや、今すぐしてから行くに決まっているだろう。なんでわざわざ勇者の前でやるんだ」

「あ……その……自分のものであることを教える為……とか?」

「はぁ? よくわからんが早く着替えろ。そのままでは光の巫女であることが丸わかりだ」

「………………」

「どうした?」


 俺がリュミエールの方を向くと、彼女はさっきまでの慌てた雰囲気はどこかに消え去ってしまっていた。

 それどころか、俺に責めるような視線を向けている。


「いえ、そうですよね。なんかおかしいと思っていました」

「? 何を考えていたんだ?」

「うるさいです! いいから後ろを見ていて下さい!」

「……仕方ない」

「あ、後、シュタルさんも着替えて下さいね。私と一緒にいたことがバレていると思いますから」

「……まぁ、それは仕方ないな」


 それから俺達はお互いに背を向けて着替える。


 後ろでリュミエールが着替える音がするけれど、それ以外の音はしない。

 ここは本当に人通りが少ないらしい。


「俺は終わったぞ」


 基本的に黒の服から、地味目の茶褐色の服に着替える。

 これであれば一般人らしい服になって、特に疑われることもないだろう。


「着替え終わったか?」

「はい。これで……どうでしょうか?」


 俺は振り向いて彼女を見ると、彼女は黄色いワンピースをまとっていて、年相応に可愛らしい服になっていた。


「ああ、可愛らしいぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、その年に相応しいと思う」

「……それ、私が子供っぽいっていう事ですか?」

「そうとも言うかもしれない」

「もう……シュタルさんもそっちはそっちでかっこいいって言おうと思っていたのに……」

「何か言ったか?」

「いえ、なんでもないです。それでは行きましょうか」

「ああ、そうしよう」


 俺達は一緒に裏路地を出て、目的地に進む。


 ちなみに、リュミエールはバレないかと思ったが、他にもエルフなどはそこそこいるらしくすごく目立っている訳ではない。

 すれ違う人が時々振りかえっているくらいだろうか。


「それで、どこに行くんですか?」

「最初の街に来たら行くところは一つ。ここだ」


 そう言って示した場所は冒険者ギルドがあった。


「情報を集めるならやっぱりここですか」

「そうだ。それでは行くぞ……!」


 バァン!


 俺は中に入ろうとして、中から吹き飛ばされて来た人を受け止めた。


「人が……飛んできた?」


 リュミエールはたった今起こった事をつぶやいた。

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