4章
第75話 アストリア
***勇者視点***
ボクは勇者アストリア。
世界から勇者と認められて、今は人間側の領土で力をつけているところだ。
その為に今はラビリスに来ていて、ダンジョンの出来るだけ深い所に潜ろうと戦っている。
ラビリスのダンジョンは踏破されたことはないとされていて、潜ることが出来た最高深度は40階層。
一応、踏破した事がある人はいる。
そう言われているけれど、確実な情報じゃない。
そんな中、ボクは今37階層まで来ていた。
「今日はここら辺にしておくか」
「うん。いつも助かってるよ」
「勇者様にそう言われたらやるしかねぇってもんですよ」
軽く笑いながら答えてくれるのはラビリスのSランク冒険者であるヴェーリ。
彼は剣士でボクに剣の
「お前はもっと働けばいいんだよ。脳筋なんだから」
「なんだとてめぇ、その貧弱な腕を折って欲しいのか?」
「ちょっと2人とも、辞めてってば」
喧嘩を売ったのはもう一人ボクのパーティにいるSランク冒険者で魔法使いのテンダー。
彼の魔法は
ただ、この2人はなにかと揉めることが多い。
「しかし勇者様。こんな奴と一緒に41階層を目指そうだなんて……」
「いやいや、こんな脳筋、絶対どこかで足を引っ張りますよ」
「もう……」
2人はこんな風にお互いを
ボクが尊敬し、いつか彼らの様になりたいと願う2人だ。
「……」
「……」
他の2人は静かに休憩の準備をしている。
敵が強く、
そんなボク達に近付て来る者がいた。
「ほっほっほ。やっと追いついたわい」
「おで、飽きた。早く、やりたい」
「そう急くな。もう少しの
そう言って近付いて来るのはどう見ても魔族。
それも、桁違いに強い力を持っているのが遠目からでもビリビリと伝わってくる程の2人。
1人は魔法使いの様なローブをまとっていて、腰が曲がっている。
しかし、そんな老人とは思えない程に、魔力が
彼はボクを観察するように見つめている。
もう一人は上半身裸の男で、その筋肉はゴーレムほど大きいのではないかと思う程だ。
高さは2mは余裕であり、3mに届いているかもしれない。
顔には鉄仮面をしており、表情を伺い知ることは出来なかった。
でも、そいつが発する圧力だけで、押しつぶされてしまいそうだ。
「警戒!」
「!?」
そんな2人を見たヴェーリが声を発すると、他の3人も瞬時に戦闘体勢を取る。
そんなボク達の様子を見て、老人が笑う。
「ほっほっほ。流石ここまで潜れる程はある。流石ですな。しかし……『魔陣構築:ゾーン』」
老人が何かを使った瞬間、ボク達の体は鉛になったかのように重たくなる。
「さて、勇者以外用はないので消しなさい。ゴライアス」
「おで、殺す」
「【剛腕】か!? 何でこんな所に!?」
ヴェーリが驚いている。
【剛腕】とは、魔王四天王の1人で、その肉体は鋼よりも固いらしく、攻撃したこちらの武器が壊されてしまうほど。
そんな異名を持った者がこのダンジョンに侵入出来るなんて……。
【剛腕】は自分の話がされているのに関係ないと言った具合で近付いて来て、拳をヴェーリに向かって振り下ろす。
「死ね」
「甘いわ! は……」
ヴェーリは相手の攻撃を見抜き、完璧に剣で受け流した様に見えた。
しかし、実際には受け流す事は出来ておらず、ヴェーリの心臓は【剛腕】の拳に貫かれていた。
「ヴェーリ!」
「ほっほっほ。どこを見ておる? 『魔陣構築:土の槍』」
「ぐほ……」
ドスドスドス
後ろの方で控えていたテンダーは地面から生えた土の槍で全身を貫かれていた。
「テンダー……」
「おで、殺す」
「ぐぁ!」
「がふっ!」
ボクがテンダーを見ている間に、他の2人も【剛腕】に殺されていた。
そんな……あんなに強い人達が……一瞬で……。
絶望しているボクの元に、老人が近付いてくる。
「ほっほ。子供なのに大変じゃのう。12歳くらいの子かの? しかしまぁ、これからの方がもっと大変じゃがな? 勇者というのはどうなっておるのか。これからじっくりと調べさせてもらうとするからのう」
「い……いや……」
ボクは後ずさるけれど、目の前の2人から逃げ切れる気がしない。
そんな時に、近くで声が聞こえた。
「『
「あ……」
ボクを貫いたのは、テンダーが死に間際に放ってくれた魔法だった。
「何!? まだ魔法が使えたとは! ゴライアス!」
「分かった」
【剛腕】は急いでテンダーに近付き、その肉体を
でも、ボクはこれで死んだ。
そう、一度死ぬのだ。
でも、これで終わりではない。
これだけで終わりではないのだ。
「ありがとう……テンダー……」
「……」
ボクは彼に感謝して、意識を手放した。
「全く……やっと勇者を追ってここまで来たのにのう……面倒な事をしてくれる」
「また、探す?」
「そうじゃな。だがその前にここら辺の装備はもらっておこう。流石Sランク冒険者や勇者パーティの者達じゃ。いいものを持っておる」
「分かった」
「それにしても……また上に登るのも面倒な……いや、そんな事は言っておれんか」
2人は冒険者達の遺品を漁った後に、ダンジョンの上を目指す。
******
「はっ!」
ボクは目を覚ます。
「ここは……」
周囲を見ると、そこはダンジョンの20階を出たところだ。
ここから1人で上まで戻らなければならない。
ボクがどうしてここにいるのか。
それは簡単だ。
勇者とは、記録しておいた場所で
そう。
だからこそ何度も魔王に挑み、勝つことが出来るのだ。
今はまだ力が足りない。
いずれ魔王を倒す為に、今は上に戻らなければならない。
魔族に見つからないように気をつけながら。
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