第74話 それぞれの成長


「それでは俺達はこれでお別れた」


 俺とリュミエールはサラスの街の出口にいた。


 時刻は朝早いが、メディ、シビラ、アントゥーラや冒険者、騎士など多くの者が見送りに来てくれている。


 最初に話しかけてくるのは、この街の代表と言えるほどになったメディだ。


「シュタル様……これを」


 彼女はそう言って、俺に金色のペンダントを差し出してくる。


「これは?」

「それはリート一族に伝わる永遠の親愛を示すものです。国王陛下の短剣を持っている貴方に意味があるかは分かりませんが。それでも、何かさせて下さい」

「そうか。ありがたくもらっておく」


 別に使うつもりはないけれど、そうでもしないと彼らの気が重たくなるだろう。

 その意味でも、もらっておく方がいいと思ったのだ。


 一応、国王の短剣も思わぬ所で使う機会があった。

 それを考えるとそんな事があってもいいんじゃないのかと思う。


「え? ああ、はい。大丈夫です」

「?」


 メディはいきなり誰かと話すようなことをいい、後ろに下がっていく。


 その代わりにシビラが前に出てきて口を開く。

 ちょっと前とは全く違っていて、大人びた顔つきになっている。


「シュタル様、リュミエール様。この度は本当にありがとうございました。貴方がたがおられたお陰でこの街は助かりました。本当に……なんとお礼を言っていいのか……」


 シビラがそう言うと、その後ろから他の者達の声も聞こえてくる。


「アンタらが来なかったらどうなっていたか!」

「この街を救えるのは貴方以外に居なかったでしょう!」

「末代まで感謝しますよ!」

「我が家の騎士として永久えいきゅうに勤めませんか!」

「流石シュタルさんですねぇ」


 多くの声援を聞いて、リュミエールがそうぼんやりとつぶやく。


「俺は最強だからな。そう思われても仕方ないことかもしれん」


 そんな事を言った後、シビラが苦笑しながら続ける。


「という訳で、我々に出来る事があれば何でも言ってください。そのペンダントもこの国の中や、友好関係のある街であれば、他国でも使えるかもしれません。好きに使ってください」

「ああ、感謝する」

「その何十倍……いえ、何百倍の感謝の気持ちを持っているので、普通に受け取って下さい」


 彼はそう笑ってアントゥーラと代わる。


「しかし……もう行ってしまうのか?」


 代わったアントゥーラはリュミエールを見ながら少し寂しそうに話す。


「ええ、本当はもっと学びたいと思っていたのですが、今はもっと優先するべきことがあるんです。あれだけお世話になったのに……申し訳ありません」

「いや……光の巫女としての使命があるのだろう。勇者はこの先のラビリスの街にいる。そこでしっかりと出会い、使命を果たしてくれ」

「……はい! お世話になりました! 師匠!」

「ああ、いつでも帰ってくるといい。ワシ等は……いつでも待っている」


 アントゥーラがそういうと、彼の後ろにいた冒険者ギルドの皆が頷いている。


「今度は俺達だけで水賊討伐をやってみせるからよ!」

「その時には最高に美味い魚をたらふく食わせてやる!」

「今度は指導もして下さいね。貴方の力は皆が必要としていますから」

「そんな事を言われてもな。分身は出来ない……やってみるか?」


 そうか。

 俺は分身したら……最強を半分にしても最強ではあったりするんじゃないのか?


 1人そんな考えをしていると、リュミエールに呼び戻される。


「シュタルさん。今はお別れの時ですから、その考えは後に」


 彼女の声に賛同するように、冒険者達も声を上げた。


「そ、そうだぜ! これは大事な別れなんだから、そっちに集中しねぇと!」

「全くだぜ! 綺麗に別れるっていうことも大事だったりするんじゃねぇのかな!」

「でも……半分だけでも居てくれるのなら……」


 最後に言っているのは、後ろに下がったと思っていたメディだった。


「ね、ねぇさん。そんなことしてシュタルさんが怪我したらどうするの。あのダンジョンに向かうんだよ!?」

「そ、そうよね……ごめんなさい。でも、守り神様も、シュタル様の為に祈りをささげておくと言っていたわ。守り神様が一族以外にそんなこと言うなんて初めてよ」

「そんなすぐに守り神の所に行って来たのか?」

「いえ、正式にこの力を継いでから、遠く離れていても話せるようになったの。守り神様も遠くから見ておられるわ」

「そうか……。今度は操られないように気をつけろ。そう言っておいてくれ」

「ええ、伝えておくわ」


 そして、俺達はもうほとんど挨拶を済ませたので、行こうとすると、最後に声をかけて来る者がいた。


「次はちゃんとベッドの上で語りましょうね?」

「……」

「あの人は……ヴェリザード娼館の女主!」

「確か……領主ですら手玉にとって金を絞り取るって噂の……」


 俺は後ろを見ると、そこにはウインクをしている『ヴェリザード娼館』の受付がいた。

 怖い話も聞こえてきた事だし、にごしておくに留める。


「ふ、考えておこう」


 俺はそう言って、リュミエールと一緒に次の街、ラビリスに向かって旅立った。




 暫くして。


「シュタルさん」

「どうした?」

「さっきの女性……どういうことですか?」

「なんの話だ?」

「娼館……の人。という事を言っておられましたよね」


 リュミエールの方をそっと見ると、彼女の満面の笑みが怖い。

 バカな、俺が恐怖を感じるなど……。


「シュタルさん」

「ん……なんだ」

「詳しく……話して下さいますよね?」

「……それはな」


 一応弁明の機会が与えられた俺は、彼女に丁寧に説明しつつ、次の街道を彼女と共に進んだ。

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