第66話 追いかけっこ

「死んで」


 受付はそう言いながら、俺に刃を突き刺した。


「嘘……」


 しかし、俺は当たる前に指でつまんで止める。

 別に体は問題ないだろうけれど、服が破れるのは止めたかったからだ。


「さて、お前が抵抗しても無駄だ。行くぞ、メディ」

「逃げて! アタシが時間を稼ぐから! 早く!」

「っ!」


 受付がそう言うや否や、メディらしき人物はダッシュで走り出す。


「おいおい、逃げるなよ。お前に用があってきたんだぞ?」

「ダメ! あの子は大切な子なの! たとえチケットがあっても!」

「そうか……なら仕方ないな」


 俺はそう言うと、受付をケガさせないように引きがしてメディを追う。


「ダメ!」


 飛びかかってくる彼女をかわし、俺はメディを追いかけた。


 メディが逃げた方は用務員の部屋らしく、掃除用具や何に使うのか分からない長い道具が置かれていた。


 俺は『広域探知サーチ』を使ってメディを探すと、彼女は下に向かって階段を降りて行っている。


「逃がさんぞ」


 俺はハッキリと言って彼女を追いかける。


「貴方こそ追わせないわ!」


 追いかけようとすると、またしても受付が飛びかかってくる。

 そして、俺の首を締めて来た。

 中々にいい力をしている。

 ただ、どうやら俺から離れたくないらしい。

 折角なので連れて行こう。


「ええ!? このまま行くの!?」

「引き剥がすのも気を遣うからな」

「ふざけないで!」


 彼女は怒って首を締める力を強めるけれど、背中に柔らかい感触が来ることくらいしか感じられない。


「しっかりと抱きついておけよ」

「は!? アンタ何言ってっきゃ!!!???」


 俺は加速して、メディを急いで追いかける。

 こんな所でのんびりとしている場合ではないのだ。


「見付けた」

「ひぃ! 来ないで!」

「そうは行かない。お前にはやってもらうことがある」


 俺はそう言って、メディの腕を掴む。


「いや! 離して! 誰か! 誰か!」

「うるさいのは良くないな。少し静かにしろ」


 俺はそう言って彼女の口を塞ぐ。


「ちょっと……! メディに手を出したら容赦ようしゃしないよ!」

「別にそんなつもりはない。面倒だな……一度上に行くか」


 なんだか勘違いされているような気がしたので、最上階に戻る。


「アンタ……本当に何者なんだ。アタシがこれだけ首を締めているっていうのに……」

「俺は最強の男シュタルだ。今回はシビラに頼まれてきた」

「ふふん!? ふふんふんふん!?」


 俺が抑えているのに、メディは何か言いたいらしい。


「叫ばないか?」

「ふんふん」


 うんうんだと仮定して手を取ると、彼女は凄い勢いで食いついてきた。


「ちょっと! シビラに何かしていないでしょうね!」

「……」


 俺は面倒なので口を抑えて先ほどの部屋に戻る。




 最上階の部屋に行き、2人を降ろしてこれまであったことを説明する。

 最初は何とかして逃げ出そうとしていたけれど、話が進むにつれて大人しくなった。


「という訳なんだ。だからミネスト湖まで一緒に来てくれ」

「……」

「……」

「どうした?」


 2人は大きなベッドに腰かけ、俺を見上げている。

 それから、タイミングを合わせたかのように叫んだ。


「「最初にそう言ってよ!」」

「話を聞かないから」

「だってあの時の貴方、完璧にさらいにきた人の感じだったわよ!? 最初から守り神様の為って言いなさいよ!」

「メディがここにいるのかは分からなかったからな。違った奴だったら簡単には言えないだろう」

「だからって……」

「それにしても、何で巫女の一族であるお前がこんな所で掃除をしているんだ? そっちの方が気になるんだが」


 俺がそう言うと、メディはゆっくりと口を開いた。


「私は……狙われていたから……。屋敷が襲われたっていう時も、私は外で遊んでて……。それで、その話を聞いて、どうしようかっていうので迷っていたら、助けられたの。ここならリート一族がいるって思われないでしょ? そういう場所の方が安全だからって」

「なるほどな。そういう理由だったのか」

「ええ、その……一つだけ聞いてもいいかしら」

「なんだ?」

「あの……その……。守り神様を倒したって……本当?」

「ああ、今は大人しくさせている。だが、急いで戻らないとまた暴れるかもしれない。だから早く向かいたい所だな」


 まぁ、氷でガチガチに固めてあるので大丈夫だとは思うが、急いだ方がいいと思う。


「それなら早く言って下さい!」

「だから早く行こうと言っただろう。すぐに行けるな?」

「はい! あ、とりあえず私は行ってきます!」

「ええ、気を付けるのよ。メディ」

「うん……ありがとう」


 彼女は受付に感謝すると、急いで店から出た。


 俺は彼女の後を追いかけて店の外に出る。


 受付の女はついて来なかった。


「それで、どうやって行くの? 馬? 走り?」

「いいや、空からだ」

「空……?」


 彼女は空を見上げて首を傾げている。


「行くぞ。『飛行魔法フライ』」


 俺は彼女を抱えて、空に飛び立った。


「いぃ!?」

「どうだ。気持ちいいだろう?」


 俺はかなりの速度を出し、ミネスト湖へと向かう。


「はやぃぃぃぃぃ!!!!」

「そうかそうか。早くて楽しいか」

「ちがぅぅぅぅぅ!!!」

「そうなのか? まぁ何でもいい。急いでいるから我慢しろ」

「おにぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「鬼じゃない。最強だ」


 そんな事を話しながら、俺達はミネスト湖に到着した。

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