第67話 メディとシビラ

「よし。着いたぞ」

「うぅ……気持ち悪い……」

「大丈夫だ。すぐに慣れる」

「あんなの何回もやりたくないです……」


 俺達はミネスト湖の、シビラやAランク冒険者がいる船に飛んできていた。

 来たことが伝わったのか、船からは多くの人がわらわらと出てくる。


「お姉ちゃん!」

「うぅ……し、シビラ? シビラ! ……あ、ちょっと待って」

「お姉ちゃん!?」


 シビラは慌ててメディにかけより彼女の事を心配している。


 メディはメディで未だに気持ち悪いのか口を抑えているし、顔色は悪い。

 ただ、少ししたら気分も良くなったのか、シビラを抱き締めていた。


「シビラ……ごめんね。私……何も出来なくて……」

「ううん。お姉ちゃんは悪くないよ。水賊達が悪いんだ」

「シビラ……」

「お姉ちゃん……」


 そうして2人キリの世界に入っているので、俺達はAランク冒険者と話す。


「こちらの様子はどうだ? 何か変わったことは?」

「特にありませんよ。船に乗っている者達もほとんど捕らえるか救出し、残っている船もこの船と後護衛の数隻を残すのみです」

「流石の手並みだな」

「シュタルさんがここまでやってくれたからですよ。後始末くらいしか俺達はやっていません」

「領主の奴らはどうだ?」

「特に何もして来ていませんよ? まぁ、今の彼らに力はほとんどないでしょうから」

「俺がいない間に何か接触して来るかと思ったが、そういうこともないのか」

「いない間って……今日の朝出て行ったばかりじゃないですか」

「それもそうか。では、もう氷も守り神以外解除していいな?」

「はい。問題ないと思っています」

「分かった」


 そんな事を話していると、メディとシビラが俺達の方に向かって来た。


「ね……ねぇ」

「どうした」

「あの……今から守り神様の所に連れて行ってくれないかしら。安全に……ゆっくりとこの船で」

「守り神を治せるのか?」


 俺がそう言うと、メディはじっとうつむいて考える。


「分からない」

「分からない?」

「ええ、私は……母さんの力を受け継いでまだそんなに日が経っていない。だから……出来るかは……正直分からないの」

「そうか。では行こう」

「……大きな失敗をするかもしれないのよ? いいの?」

「その時は俺がまた守り神をしばいてやる。だから大舟に乗ったつもりでいろ」

「……ありがとう」

「よし。行くぞ」


 それから俺達は1隻とその護衛数隻で凍らされている守り神の所まで行く。


 それ以外の氷はほとんど解除したので、既にない。


「守り神様……」


 凍り漬けにされている守り神を見て、メディは辛そうな表情をしている。


「何とか出来るか?」

「……やってみる」

「魔法をかけてやる。最初は戸惑うかもしれないが、慣れろ。『飛行魔法フライ』」


 俺は魔法を彼女にかける。


 彼女はぎこちないながらも、何とか空に上がっていき、守り神の体を調べ始めた。



 俺はそんな一生懸命に守り神を治そうとする彼女を見つつ、シビラに話しかける。


「お前は行かないのか?」

「僕……ですか? でも、僕は……何も……出来ないですし……」

「何もできないなんて誰が決めた?」

「え?」

「お前にとって姉は大事な人ではないのか? その大事な姉が一生懸命やっている。その手助けをするべきだとは思わないのか?」

「でも……僕に出来る事があるかなんて……」

「それは行って見なければ分からんと思わないか?」

「……でも……僕は」


 シビラはそう言いながらうつむいてもじもじとしているだけだ。


「でも、なんだ? 一度ハッキリと口にしろ。頭の中ではこうかもしれない。こんな不安がある。そんな事をずっと……ずっと溜め込んでいるだけでは前に進めない」

「……僕は不安なんです。水賊達の要求を拒めなかった。護衛の人達を人質に取られたとはいえ……僕は……多くの人達の命を奪う手伝いをしてしまった。僕は……僕はリート一族の恥さらしなんだ!」


 シビラは吠え、思っていた事をハッキリと口にした。


 俺は、そんな彼に向けて優しく話す。


「そうか。それを後悔しているのだな」

「うん」

「俺から言える事はこれだけだ。お前が弱かったのが悪い」

「!」

「いいか? この世は弱い者に厳しい。奪われ、蹂躙じゅうりんされることは幾らでもある」

「……」

「だからこそ人はより強くあろうとしなければならないんだ。大事な物を守るために戦うんだ」

「でも……僕は弱くって……」

「俺は弱いのが悪いと言った。しかし、その者の強さについて言及はしていないぞ」

「? どういうこと?」

「お前はリート一族としての力を持っている。その力を伸ばすことをしてもいいし、他にも、リート一族の力を盤石にする為に行動してもいい。力は多様だ。俺の様に強さが最強だという者もいれば、心が強いという者もいるだろう」

「心が……」

「そうだ。だから戦え、うつむいていても誰も助けてはくれない。お前を助けるのはいつだってお前自身だ」

「……分かった。ありがとうシュタル様。僕……やってみるよ」


 そういう彼は大きな守り神を見上げていて、その目は真っすぐメディを見ていた。


「そうか。『飛行魔法フライ』。最初はゆっくりでいい。失敗してもいい。だが、前を見ることだけは忘れるな」

「はい! 分かりました! 今行くよ、お姉ちゃん……いや、姉さん!」


 シビラはそう言ってメディの元にフラフラと飛んでいく。

 そして、姉弟で仲良く話し、守り神の事を相談し始める。


 俺はそんな2人の様子を見ていると、後ろからAランク冒険者がはなしかけてきた。


「お優しいのですね」

「持ち直してもらう必要があるのだろう? リート一族には」

「そうですが……全て、貴方に頼りきりになってしまった」

「次はないぞ。そうならんようにしっかりと立て直しておけ」

「……はい。ありがとうございます」


 それから数時間後、2人は俺の元に戻ってくる。


「原因を見つけた! でも、私たちには治せない……」

「なぜだ?」

「だって……守り神様には、見たこともない魔法陣が描かれているの」


 彼女の説明は、敵が本気で勇者を取りにきている事を理解させるものだった。

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