第65話 ヴェリザード娼館

 俺はメディらしき反応を追って街を探すと、『ヴェリザード娼館しょうかん』と書かれた建物に辿たどり着く。


「ここで……いいのか?」


 周囲はかなり身なりのいい人がいて、治安もそれなりにいいらしい。

 雰囲気からしてかなり高級そうな感じがしているので、いい値段がしそうだ。


 でもまぁ、金ならある。

 俺は護衛が守る、薄暗い店の中に入った。


「いらっしゃい。おや、貴方は初めてかしら?」


 何だか甘い香りのする店内に出迎えてくれたのは、妖艶ようえんな雰囲気を漂わせる女性だった。

 彼女はメリハリのついたボディラインがハッキリと分かるワンピースをまとっていて、甘い香りの元なのかパイプをくわえている。


 俺は彼女に目的を話す。


「この娼館の中に会いたい奴がいる。通らせてもらおう」


 俺はそれだけ告げて中に入って行こうとすると、彼女に止められてしまう。


「ちょっと、そんな簡単にハイそうですかという訳ないでしょう? ウチはそれなりに高級なことでやらせてもらっている。だから一見いちげんさんはお断りなんだよ。悪いね」

「別に遊びたい訳じゃない。探している女がいるだけだ」

「ここには訳アリの子は幾らでもいる。アンタみたいに強制的に連れ帰ろうとするやからもごまんといるんだ。させないよ」

「むぅ……。別に連れ去るつもりはないが……どうしたらいい」


 流石に力でごり押しをするつもりはない。

 確かに探していることは確かだけれど、それを力で奪い取ってしまえば、それはミリアム達と同じだ。

 俺個人としても、そんな事は出来ない。


 俺が止まったのを見て、彼女はホッとしたように話す。


「良かったよ。お兄さんみたいな強そうな人とは戦いたくないからね。でもどうだい? あんたなら特別にベッドで戦ってもいいけど?」


 彼女はそう言いながらロングのスカートをたくし上げる。


 けれど、俺はそれを止めた。


「その必要はない。俺はある部屋にいる女に会いに来た」

「つれないねぇ。でも、それなら他の誰か……ランクの高い誰かに紹介してもらうか、特別なチケットを誰かにもらってくれればいいよ」

「知り合い……アントゥーラならいけるか……?」

「アントゥーラって……冒険者ギルドのギルドマスター? 流石にここに来ているのは見たことないけど……」

「そうか……」


 どうしようか。

 今からでも誰かに相談しに行くのがいいのか?

 そう思ったけれど、彼女が言っていたことを思い出す。


「なぁ」

「なぁに?」

「これでいいのか?」


 俺は『収納』から、以前もらった物を取り出した。


「?」


 彼女は俺が差し出したチケットを見て、顔色を一瞬で変える。


「嘘!? これ……本物!? え……貴方……何者?」

「そんなに凄いのか?」

「だって……これ……普通王都で使うものよ? この街で使うなんて事はいくらなんでもしないわ」

「そうか。ではそれを使わせてもらおう。それを使えば、この娼館の好きな女と会えるのだろう?」


 それが出来るのであれば、何も文句はない。

 むしろ、別に使う気など無かったのだから問題ない。

 ないったらない。


「そう? ならいいけど……今相手をしている子は待って欲しいわね」

「ああ、それで構わない。それでは進ませてもらうぞ」

「え? 誰かを選ぶんじゃないの?」

「いや、俺の会いたい相手は隠れているかもしれん。だからこの目で直接会いに行く」

「……貴方。……理由によってはただではすまないわよ?」


 受付の女はそう言うと、口に咥えていたパイプを俺の喉元のどもとにつきつけいてる。

 そして、それは鋭い刃がのぞいていて、俺が不用意な事を言えば突き刺す気だろう。


「では入るぞ」


 俺はその刃を無視するように娼館の奥に入っていく。


「あ! ちょっと!」


 後ろから受付が追いかけてくる。

 どうせ彼女は俺に敵意を持っていなかった。

 だから無視したのだ。

 まぁ、刺されても無傷だとは思うが。


 俺は娼館の中をぐいぐい進み、目的の人物がいるであろう4階を目指して階段を登っていく。


「ちょっと! 勝手に入らないで!」

「さっきチケットを渡しただろう」

「だからってそれより上は!」

「俺が用があるのはこっちにいるんだ」


 俺は『広域探知サーチ』に映っていた相手目掛けて真っすぐに進む。


 その相手は最上階である4階にいて、何やら掃除をしている様な動きをしている。


 俺は受付に抱きつかれながらも最上階まで登り切った。

 何かが当たっていたから振り払えなかった訳ではない。

 そう、決してリュミエールにない物があったから受付をそのままにしていた訳ではないことはここに宣言しておく。


「ここだな」

「そこはダメ!」

「入るぞ」


 俺は受付が止めるのを押し通して扉を開ける。


 部屋の中は貴族の部屋の一室と言われても納得出来そうな程に大きく、豪華な装飾品がこれでもかと置かれていた。

 そして、その中を掃除しているの白髪を肩口で切った少女がいた。


 彼女は驚いた様子で俺と受付を見てから口を開く。


「え? すいません。ここは今清掃中で……」

「お前がメディか?」

「!?」

「!?」


 俺が彼女に名前を問うと、彼女と受付は驚愕して俺を見つめた。


「アタリか。これから来てもらうぞ」

「死んで」


 俺がそう言うと、受付は殺気をほとばしらせながら俺に先ほどの刃を突き刺した。

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