第61話 守り神

 俺達は水賊から拿捕だほ船に全員乗り換えて水賊達の本拠地に向かう。


 敵の合図等はちゃんと聞き出しているし、霧で隠れて敵を全て倒したので情報は伝わっていないはずだ。

 そして、向かう皆には楽しそうに騒がせている。

 これをすることによって敵を油断させる事が出来るはずだ。


 そんな事を考えていると、Aランク冒険者が話しかけてくる。


「敵の船団ですね……」


 少し離れた所には情報通りに100隻を越える船が集まっていた。

 遠くから見える感じなだけでも、かなり胸糞むなくそ悪いことをしてる。


「あいつらは……」

「気にするなとは言わん。だが、1人も逃がすな。これは決定事項だ」

「……はい! しかし、襲われないでしょうか」

「それは……入ってみるしかない」


 俺達は守り神の巣に入る。


「……問題なさそうだな」

「ですね。これでもう奴らの好き勝手にはさせません!」


 守り神の巣に入ったのに襲われない。

 やはり、これは聞き出した情報が正しかったのだろう。


「ああ、このまま普通に合流するフリをして突っ込むぞ。出来れば捕虜や人質は助けるが、無理はするな。お前達が死ぬ方がよりこちらのダメージがデカい」

「分かりました」


 俺達はかなりの速度を保ったまま奴らの船団に突撃した。


「何事だ!?」

「あの馬鹿どもが突っ込みやがった!」

「何を考えてやがる! ぶっ殺すぞ!」

「死ぬのはお前だよ」


 怒鳴っている水賊共の討伐に俺も参加して殺していく。


「敵が体勢を立て直す前に殺せ! 速度が重要だぞ!」

「おう!」


 船に乗り移っては水賊共をきり飛ばし、人質達を開放して行く。

 こんな端の方にもいるなら、中央の方ではどれだけ多くの人が捕まっているのだろうか。


 ボロボロにされた人質を救いながら暗い考えが頭に浮かぶ。


「シュタル様! この船の制圧終わりました!」

「よし! 次の船に行くぞ!」

「はい!」


 俺達が先頭になって敵の船に次々に乗り移って制圧を繰り返していく。

 敵がそれぞれの船で必死に抵抗ていこうをしてくるけれど、それは船ごとの抵抗で、軍としての抵抗をしてこない。


「おかしい……」

「何がですか!?」

「いや、流石に最初は機先きせんを制することが出来たとは思っている。だが、幾らなんでも敵の対応が遅くはないか? 既に3隻は俺達だけで落としているんだぞ? 囲ってくるように対応して来てもおかしくはないと思うが……」

「確かに……。一度下がりますか?」

「そうだな。少し様子がおかしい。俺だけで向かうとしよう」

「!? 危険ではありませんか!?」

「俺は最強だ。この程度の水賊など1000集まろうと数ではない」

「そんな……」

「お前達にここは任せる」

「分かりました!」


 俺は彼らを置いて急いで中央に向かう。

 何か嫌な予感がする。

 

 船から船に飛び移り、奴らの中央にいるやつらの元に向かう。


 そして、さっき別れた船から5つほどの所に来た時に、それは起きた。


「誰も……いない?」


 そう。

 俺が狙っていたこの船団の頭達は既に消え去っていた。

 そんな訳はないと思って周囲を探すと、奴らは既にかなり離れた所にいる。


「あいつ等……」


 仲間を置いて逃げるとは。

 奴らを許すことは出来ない。

 そんな事を思って奴らの方に向かって飛ぼうとした瞬間、俺のいた船が真っ二つに握りつぶされた。


「何だと!?」

「うわああああああ!!!」

「助けてくれええええ!!!」

「なんで! なんで! 味方じゃないのかよぉ!」


 叫ぶ水賊の声を聞いて、その正体が分かった。

 その正体はこの湖の守り神と呼ばれる亀だったのだ。


 俺は素早くと飛び去り、隣の船に降りたった。


 モシャ……モシャ……モシャ……モシャ……。


 守り神は口にくわえた木や人をすり潰して飲み込んでいく。


 その姿は桁違いの大きさを誇っていて、体長は50mもあろうかと言うほどに大きい。

 その頭だけでも10mはあるのではないかと感じられる程で、正直戦いがいがありそうだ。


「ガァ~メェ~!!!」


 守り神は叫び声を上げて、仲間の船ごと足で叩き潰してくる。


「くっ!」


 俺は空中に飛び、魔法を使う。


「『飛行魔法フライ』」


 空のかなり高い所に留まり、奴の行動を観察する。


 奴はじっと俺だけを見ていて、何か訴えかけているようだ。

 瞳はどこかにごっているのだけれど、その奥には何かがある。

 そして、その瞳は敵の船団に向かっていた。


「……」


 俺は不思議に思い、敵の船団を凝視ぎょうしする。

 すると、そこには上は真っ白な着物に下は真っ赤な着物。

 頭には黒い帽子の様な物を被って、こちらに向かって祈りを捧げている少年らしき子供がいた。


「なるほど、彼が奴らの手にある限りこいつは言うことを聞かされ続けるのか」


 そうであれば、この守り神を倒すよりも先にあっちの子供を助けるのが先か?

 ただ、そんな事をしても、彼が奴らに操られているのには何か違った理由があるのかもしれない。


 彼もまた誰か人質に取られていた場合、彼を助けても守り神を止めてくれるかどうか分からない。


 そうなったのなら、そんな事をしている間にこの守り神は敵の水賊のごと冒険者達に攻撃を開始するだろう。

 なら、やることは一つだ。


「守り神よ。少しくらい痛いのは我慢してもらうぞ?」

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