第52話 村の異変

 コンコン


「誰だ」

「シュタルさんそろそろ行きますか?」

「ああ、分かった。すぐに行く」


 俺達は案内された宿で一休みしていた。

 そして、夜遅くになってから村の異変いへんを探ろうということにしていたのだ。


 これは争いあった村に負担をかけない為だった。


 俺とリュミエールは月明かりが照らす村の中を静かに歩く。


「それで、どこが怪しいんでしょうか?」

「正直分からん。『広域探知サーチ』で一度探して見たが、特に怪しい所は見つからなかった」

「シュタルさんの『広域探知サーチ』で見つからない事があるんですか?」

「ああ、周囲と同化するように隠蔽いんぺいされているとよりわからない事が多いな」

「同化するようにですか?」

「そうだ。そういう効果のある物がダンジョンではあったことがあってな。そう言うのがある時は近くに行って違和感を感じ取る必要がある」

「それで村を調べようと言っていたんですね」

「そういう事だ」

「私にも出来る事はあるでしょうか?」

「正直それは分からん。だが、お前の勘にも何か引っかかる物があってくれるかもしれないからな」

「分かりました! 私も頑張って探します!」

「そうしてくれ」


 俺達はそれから村の中を探し回ったけれど、中心部には何もなかった。

 集会所、村長の家らしき大きな家、普通の民家。

 全てを探して見たけれど、どこにも違和感は感じなかった。


「お役に立てず申し訳ないです……」

「気にするな。しかし……ここにないとしたらどこにあるんだ?」


 俺にも中々思いつかず、首を傾げる。

 すると、リュミエールがこんな事を言い出した。


「もしかして、村の外れとか、さくの辺りとかギリギリの所にあるんじゃないですか?」

「何? でもそんな事をしたら効果が弱まってしまうんじゃないのか?」

「そうかもしれませんけれど、見つかるよりはいいと考えたのか、もしくは、弱くても効果が十分あると考えられたのか……ということがあるかもしれません」

「分かった。外周部がいしゅうぶも探してみよう」

「はい」


 それから俺達は外周部をぐるりと回ってみた。


 そんな時に、俺はある建物に違和感を感じる。


「ここは……なんとなく怪しくないか?」

「私も……なんとなくここが変だと思います」

「よし入るか」

「ええ!? でも民家だったら……」

「『広域探知サーチ』よし。問題ない」


 この建物を『広域探知サーチ』で人がいないことを確認する。


 しかし、建物には鍵がかかっていて開かない。


「普通使わない物でも鍵はかけますよね」

「ふむ……壊すか」

「ええ!? 流石にそれは不味いんじゃ……」

「後で治せばいい。むしろより頑丈がんじょうにして返してやる」


 俺はそう言いながら扉を壊す。


 バギン!


 俺が本気を出せばこんな物だ。


「さて、行くぞ」

「シュタルさん……でも、これで皆が助かるのなら……」


 俺達は中に踏み込むと、少しかび臭い臭いがした。


「ここは……食料庫か?」

「そう……みたいですね」


 建物は木で出来ていて、1部屋しかない。

 そのすみっこには食料らしきずた袋がおいてあり、この村の食料の少なさを感じさせる。


「何も……ないんですかね?」

「分からん。詳しく探してみよう」

「分かりました」


 俺達は手分けしてこの食料庫の中を探す。

 手分けと言ってもそれぞれでこのそこまで大きくない部屋を探すだけなのだけれど。


「シュタルさん!」

「何か見つかったか?」


 右奥の何もない場所を探していたリュミエールが俺を呼ぶ。


 俺は彼女の方に行くと、彼女はじっと床の一点を見つめていた。


「シュタルさん。ここ……何か変じゃないですか?」


 リュミエールがそういう部分を俺も見つめると、確かに何か違和感を感じる。


「確かに……」

「ここ、壊してくれませんか?」

「……さっきはやめようって言っていたのにな?」

「もう……シュタルさんがそういうい事するから私にも移ってしまったんです」

「いいさ。村を救うためだ。仕方ない。フン」


 俺はその違和感に向かって右足で強めに踏みつける。


 ミシィ


 しかし、音が鳴るだけで壊れるような事は無かった。


「あれ……何もない……という事でしょうか?」

「いや、逆だ」

「逆?」

「そうだ。今の俺の威力であれば、普通の床なら突き抜けている。しかし、そうはならなかったということは……」

「ここに何らかの強化がほどこされている?」

「そうだ。今度こそ、フン!」


 俺は先ほどよりも力を込めて踏みつける。


 バキィ!


 今度こそ床が突き抜け、その下にある空間が現れた。


「よくやったなリュミエール」


 俺は彼女の頭をめるようにでた。


「もう……いつまでも子供扱いして……」


 リュミエールはそう言ってほほふくらませるけれど、俺の手を振り払うようなことはしなかった。


 それから俺が先頭になって地下への階段を降りて行く。


 すると、そこにはぼんやりとオレンジ色に光る魔法陣があった。


「これは……何の効果があるんだ?」


 俺の言葉に答えてくれたのはまさかのリュミエールだった。


「これは……負の感情を増幅ぞうふくさせる魔法陣……ですかね?」

「知っているのか?」

「ええ、これでも一応光の巫女なので。その教育の一環で魔法陣についても学んだんです。まぁ……その時に学んだ魔法陣よりも凄く……高度な感じがしますけど」

「なるほど、であればこれは壊していいのか?」

「そうですね。その方が……」


 リュミエールが話している最中に、部屋に隠れていたのか、何かが彼女に向かって突っ込んできた。


「危ない!」


 俺は彼女の代わりにそれの前に出た。

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