第51話 ハイになっていた

 俺が走ること10分。


 リュミエールは俺に抱えられることに慣れているのかボーっとしている。


 その一方で、少女は俺に抱えられているのが怖いのかかなりの強さで抱き締めて来た。


「村が見えて来たぞ」


 俺は2人に到着を伝えて、起きるように言う。

 しかし、特に反応を待つこともなく、さくを乗り越えて村の中に入っていった。


「ふざけんな死ねぇ!」

「お前が死ぬんだよ!」

「勝手に決めてんじゃねぇ!」

「お前らは豚のエサだ!」


 村の中では既に乱戦になっていて、かなりの人達が怪我を負っていたり、地面に倒れている。


「ああ、皆……」


 それを見た少女は絶望の声を上げる。


 俺はそれに反応するでもなく、止めに入った。


「氷のいしずえとなれ『氷の彫像アイスドール』」


 パキン!


 俺が唱えた魔法によって、周囲一帯は氷つく。

 争っている者も、地面に力なく横たわっている者も関係ない。


「え……何を……」


 少女が聞いてくるけれど、俺はこう答えるしかない。


「凍らせただけだ」

「えぇ……いやそんな簡単に……いえ、でも……賢者様ですか?」

「いや? 俺は魔剣士だ」

「そんな……こんなレベルで……Sランク冒険者の方ですか?」

「Bランクだ」

「そんな……幾らなんでもここまで強いのですか?」

「俺は最強だからな。まずは……リュミエール」

「はい。なんでしょう?」

「ひとまず転がっている人達を治療して行くぞ」

「暴れませんかね?」

「そうなったら刈り取っていく」


 俺がそう言うと、少女が大声で叫ぶ。


「命だけはどうか取らないでください!」

「……なんの話だ?」

「皆普段はとっても優しい人達なんです! だから……だからどうか命だけは! ゴブリンの様にしないでください!」

「……別に俺が刈り取ると言ったのは意識の事で、命を刈り取る気はないぞ」

「……本当……ですか?」

「リュミエール。俺はそんな人を殺すように見えるか?」

「見えはしませんけど……。先ほどのゴブリンを躊躇ためらいなく殺したのを見てそう思われたのでは?」

「ゴブリンと人は違うと思ったんだがなぁ」

「まぁ……村からあんまり出ない人には分からないんじゃないですか?」

「そういうもんか」

「かも知れません」

「という訳で少女よ。安心しろ。この村の問題も片付けてやる」

「本当……ですか?」

「ああ」


 俺がそう言っても少女は疑いの目を向けてくる。


 そこでリュミエールが言葉を引き継いでくれた。


「あの、貴方は光の巫女って知っていますか?」

「ええ、あの勇者様を支えるという……」

「私がそれです」

「そんな!?」

「本当ですよ。【光の幕よライトベール】」


 リュミエールがスキルを使ってくれて、少女の目が驚きに見開かれる。


「これは……」

「これが光の巫女のスキルです」


 リュミエールがドヤっという顔で少女を見ている。


「そんな……では、貴方が勇者様ですか?」

「いや、俺は最強の魔剣士シュタル。勇者と戦いに行く者だ」

「え……それは……どういう……」

「シュタルさん! 話がややこしくなるのでまずは回復させましょう!」

「む。まぁ仕方ない。リュミエール。お前が傷ついた者を回復させていけ。俺は死んでいる者を蘇生そせいさせる」

「分かりました!」


 それから先ほど言った通りの行動に移して行く。

 素人同士だったからか、死者は数人だった。


 それよりも、怪我人が多くて大変だ。

 ただ、リュミエールは王都の時の治療でかなりの人を治療したため、回復の練度はかなり上がっている。


「ドンドン行きますよー! あ! シュタルさん! 魔力もうちょっと下さい! さっさと全員回復させたいので!」

「お、おう」


 俺がかなりやらせた時はあんなにぐったりとしていたのに、今では治療するのが楽しいのかかなりハイになっている。

 ちょっとやらせ過ぎたのだろうか。


 それから彼女が治療し終えると、空はすっかり夜になっていた。


 治療を終えて休んでいる俺達の元に、先ほど助けた少女と老人が来る。


「あの……貴方達がワシ等を助けて下さったのでしょうか?」

「助けたと言っていいのかは分からんが……一応止めて回復したのは俺達だな」

「おお、ありがとうございます。貴方がたのお陰で村が助かりました」

「気にするな。ついでにやっただけだ。それに、感謝するというのなら、この俺シュタルが最強であると広めろ」

「シュタル様……というのですか?」

「そうだ」

「ありがとうございます。シュタル様。あまり物はありませんが、この街でゆるりとお休み下さい」

「助かる。だが、一つ聞きたいことがある。なぜあんな殺し合いにまで発展した?」

「それは……ワシにも分からんのです。確かに村に食料は少ないですが、元々あんな激しくぶつかり合う者達では無かったはずなのです……」

「この村で何かおかしい事はあったか?」

「おかしいこと……数週間前に怪しい軍勢が来た……という事くらいでしょうか。その時に村の食料庫から強制的に持っていかれましたので……それ以外では何も……」

「ふむ……」

「何か思うんですか? シュタルさん」


 俺が考えていると、リュミエールがこそっと聞いて来る。


「ああ、お前が治療している間に、暴れていた者達を『看破かんぱ』で見ていたんだ」

「はい」

「しかし、ミリアムの時の様に、操られている様な情報は出てこなかった。これは、ここで暴れていた者達は特に何もなく暴れていた。ということになる」

「そんな……ことあるんでしょうか?」

「分からん。だが、この村には何か違和感が俺にはある」

「シュタルさんに?」

「ああ、何かがこの村にあるはずだ」

「そんな……」


 リュミエールはショックを受けた様な顔をしていたが、ここでも魔族の何かが渦巻いているのかもしれない。

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