3章

第50話 次の目的地は

 王都を出発して数日。

 俺とリュミエールは勇者のいるダンジョンを目指して進んでいた。


 日は登っていてかなり暖かい。


「そう言えばシュタルさん」

「どうした?」

「勇者様のいるダンジョンまでどれくらいかかるんですか?」

「なんだ、知らなかったのか?」

「はい。とりあえず歩いていれば着くだろうと思っていたので」

「それで大丈夫なのか……?」

「里では皆大体こんな感じでしたよ?」

「……」


 エルフは皆こんないい加減な考えなのだろうか。

 もしくは、エルフの様に長い寿命を持っているからこそ、そうなるのかもしれない。


「心配しないで下さい! 今も何とかなっていますから」

「まぁ……お前がいいと言うのならいいが……。それで勇者のいる場所までだったな」

「はい」

「そこまでは徒歩で王都から10日程度だな。その途中に中々凄い街があるから見ものだぞ」

「凄い街ですか?」

「ああ、サラスという街なんだがな。その街はアルガル川という大河の中州なかすに作られた街なんだ」

「中州って……川の中の盛り上がっている砂地に作られた、という事ですか?」

「そうだ。サラスは最初はただの船着き場だったんだが、勇者がいるダンジョンが大きく成長すると、そこと王都をつなぐ中間地点として栄え始めたんだ」

「へぇ……」

「それがドンドン大きくなり、今では立派な街になっている」

「それは楽しみですね!」

「ああ、上流では大きな湖があって、そこで取れる魚もかなり美味いからな。寄っていこう」

「はい! とっても楽しみになりました!」


 そう言っているリュミエールは楽しそうだ。

 俺としても彼女にはただの護衛というよりも、楽しんで欲しいと思う自分がいた。


「まぁ、そこに行くまでには1つ小さな村を通るんだがな。そこには今日中に到着するだろう」

「そこも何か美味しい物があったりするんですかね?」

「そこは……どうだろう。そこまであるかと言われると怪しいな。ただ、サラスには近いから、何かあるのかもしれない」

「では先を急ぎましょう!」

「おいおい。そんなに走ってもな……たく。仕方ない」


 リュミエールは早く村に到着したいのか、走って進む。

 そんな速度で走っていたらすぐにばててしまうだろうに……。


 そう思っても、止める気にはならなかった。


「きゃー!!!」

「!?」

「シュタルさん。今……」

「行くぞ」

「え? ひゃわい!?」


 俺はリュミエールを抱き抱えて小さな声がした方に急いで走る。


「速い! 速いですよシュタルさん!」

「黙っていろ! 舌をむぞ!」

「むぅぅぅ!!!」


 リュミエールは批難ひなんの声を上げるけれど、今は声がする方へ向かうのが先だ。

 彼女もそれは分かっているのか、少ししてからは大人しくなる。


「助けてー!」

「あれは……」


 俺が遠目に見たのは、1人で逃げる少女だった。


 彼女は村人の様で必死に走ってこちらに逃げて来る。

 その後ろには、ゴブリンが20体ほど追いかけていた。


「掴まれ、リュミエール」

「!?」


 俺はそう言って一気に加速して、少女の後ろにいるゴブリン達の首を即座そくざね飛ばした。


「ふぇ?」

「大丈夫か?」


 俺がそう言うと同時に、彼女の後ろにいたゴブリン達はバタバタと一斉に倒れる。

 ちなみにこいつらは蘇生そせいさせない。

 ゴブリンにそれほどの価値はないからだ。


 助けた彼女はほほにそばかすの残る赤毛の少女だった。

 彼女は戸惑いながらも礼を言って来る。


「え……ええ……。あ、あの。ありがとう……ございました」

「気にするな。それで、どうしてこんな所に?」


俺は少女に聞く。

 もしかしたら他に襲われている人がいるかもしれないからだ。


「あ……あの……」


 彼女は俺とゴブリンを交互に見て、中々口が開けていない。

 そこまでゴブリンが怖かったのだろうか。


 そう思っていると、リュミエールが彼女に話しかける。


「シュタルさん。そんな強い口調では怖がりますよ」

「むぅ。そうか?」

「はい。それで、どうしてこんな場所にいらっしゃるんですか?」


 リュミエールが俺の代わりに聞くと、少女はぽつぽつと話始めた。

 

「あ、その……。食料を探しに……少し……村から離れたら……。ゴブリンがいて……」

「村からわざわざ出たんですか? どうしてです?」

「その……少し前にサラスの街から怪しい軍勢が来まして……」


 きっとミリアムに操られた軍隊だろう。

 こっちにも来ていたとは……。


「それで食料が……かなり……奪われてしまいま……した」

「なるほど」

「それで……サラスに食料を送って……もらおうとしたんですが、サラスも……そんな余裕はないと……断られてしまったらしく……」


 彼女がそこまで言った所で、リュミエールの代わりに俺が聞く。


「サラスで? あそこは魚を大量に取っているのでは無かったのか? それがなくなるなんて事があるのか?」

「……分かりません。サラスもそこまで詳しい事を話してはくれないらしく……。それで、このままではまずいという時に、村が2分されてしまって……」

「待て、話が見えないぞ。どういうことだ?」

「あ……。村の食料がなくなって、それどうやって解決するのか。という事で争いになって……お互い武器を持って戦いに発展しそうだったので、何か……食料が見つかればいいと思って探しに外に出たんですが……」

「なるほど。村の事を考えるのはすごい。とりあえず俺も一緒に行こう」

「そんな、危険です!」

「安心しろ。俺は最強だ。その程度の奴らを無傷で沈黙させてやる」

「……ほ、本当に大丈夫ですか?」


 少女は俺の後ろに転がるゴブリンに目をやってそう言って来る。


「安心しろ」

「わ、分かりました……」

「よし。では行くぞ! 案内しろ!」

「わわ! そっちです!」


 俺はリュミエールと反対の方に彼女を持つと、彼女の言われた方に向かった。

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