第49話 出立
王都でミリアムが起こした事件が終わってから3日が過ぎた。
街の修復は進みつつあり、街の人々の顔色は明るい。
「それじゃあ……行くか。リュミエール」
「はい! やっと……勇者様にお会い出来るんですね」
「ああ、今は魔族との国境近くのダンジョンにいるらしい」
「はい……あの……。お手柔らかにして下さいね?」
「勇者相手に全力で戦ってみたいものだがな」
「シュタルさん……」
そんな事を言いながら、俺達は門へと向かう。
そこでは、この街ではかなりの有名人が待っていた。
「お前達……」
「勝手に居なくなるのは寂しいだろう?」
「礼くらい言わせてくれよ」
「全く、役職についたのに、すぐに行くとはな」
「師よ……。おいて行かないでください」
門の前には、アルマ、ステークス、ラジェル公爵と国王が見送りに来てくれていた。
国王という事は隠しているのか、フードを被っているが、かなり厳重な警戒がされているので、道行く人は少し戸惑っている。
少し迷ったけれど、まずはラジェル公爵に話しかけた。
「公爵。後の事は任せたぞ」
「ああ、この国の為にワシが全力を注いでみせよう」
「期待している。俺がいなくなった途端にまた魔族に侵入されるなんてことないようにな」
俺がこの街に居て、復興を手伝う間にかなりの魔族も同様に狩っていた。
「分かっている。これからの事をしっかりと考えて行動する。もしも……変な方向に進みそうになったのなら、止めてくれ。最強のその力を振るってな」
「任せておけ。その時は遠慮なく首を
「その前に止めてくれると助かるがな」
「ふっ。考えておこう」
公爵との話が終わり、次は国王だ。
「それでは俺は勇者に会いに行って来る。俺がいないからとサボるなよ」
「分かっています。しかし……もう少し導いてはくれないのですか」
「お前はしっかりとラジェル公爵の言葉に耳を貸し、今度こそ自分の力でこの国をより良い方向へ導いて見せろ。この国の者達は強く、素晴らしい。その力をどう使うかも、全ては頭のお前にかかっているのだからな」
「それが出来たら……認めて下さいますか?」
「そんな簡単に認めると思うな。国を動かすという事は難しく、厳しいものだ。すぐに成果が出る訳ではない」
「……」
「だが……また俺が来た時に、お前がより良くしているのであれば、認めてやろう」
「! ありがとうございます! 絶対に……絶対に認められる様になってみせます!」
「……期待しているぞ」
「あ、その前にこれを受け取ってください」
国王はそう言ってかなり細かい意匠が施された短剣を差し出してくる。
「これは?」
「それは師匠の証ですので、それを見せれば融通してくれるでしょう」
「そうか。受け取っておこう」
俺は国王にそれだけ言うと、ステークスの方に向かう。
「元気そうだな」
「お陰様で」
「もう操られるんじゃないぞ?」
「ああ、そうならないように、スキル以外も鍛えるさ。今まで……いかにスキル頼りだったかが分かった」
「まぁ……ミリアムの様なことが出来る者は少ない。そこまで考える必要はないと思うがな。それに……それだけスキルを磨いたという事は賞賛に値する」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、まだまだと言われているのだろう?」
「当然だ。俺だって最強ではあるが……終わりはない。常に上を目指し、満足などしない。限界を越えたらまた次の限界を目指す。それを……続ける事が最強を目指すということだからな」
「はは、お前さんには勝てそうもないな」
「分からんぞ? 一万回やれば一度くらいは傷をつけられるかもしれん」
「残りの9999回で殺されたいのか? と聞かれると断るしかないと思うが?」
「違いない」
ステークスも軽く笑い、それから更に続ける。
「しかし、おれももう少しは強くなってみせる。だから……下からの突き上げに怯えるといいさ」
「楽しみにもしているよ。その方がやりがいがある」
そう言って、俺は最後の1人、アルマに話しかけた。
「アルマ、俺にはやることがあるからな。この街の事は任せたぞ」
「シュタル……もうちょっといることは出来ないの? その……折角……来たんだからさ」
「それは出来ん。最強の俺はやることがあるからな」
「そう……。でもまたすぐに帰って来てくれるんだよね?」
「わからん。まずは勇者の問題を解決しなければならないからな。それが終わったら……どうなるか」
「……そう。じゃあ……」
アルマがそう言って、俺に迫ってくる。
俺は最強。
引くことなどしない。
アルマは俺を力強く抱き締めた。
俺はこんな所でそんな事をされるとは思わず、目を点にしてしまった。
「アルマ……?」
「
「……そう言うのはもっと大事な奴にくれてやれ」
「……バカ」
彼女はそう言って彼女は俺から離れ、舌を出した。
「気を付けて行ってきなさい。貴方が行こうとしている勇者がいるダンジョンはかなり危険よ。ま、アンタなら……無事だと思うけど」
「ああ、お前も十分に気を付けろ。そして、何かあったら俺を呼べ。助けにきてやる」
「……嘘だったら許さないからね?」
「最強の俺に嘘はない」
「……それじゃ。気を付けて」
こうして俺達は別れて、勇者がいるという場所まで向かうことになった。
国王の命令で特に身元を調べられる事もなく外に出ることも出来た。
楽でいい。
そうして俺達が2人で外に出ると、リュミエールが抱きついて来る。
「どうしたリュミエール」
「別に……なんでもないです。私がただやりたかっただけですから。マーキングと一緒です」
「マーキング……?」
「そうですよ。あんなに……デレデレしちゃって……私と体型は似たような感じなのに……」
「なんの話だ?」
リュミエールが何を言っているのかよくわからない。
けれど、ちょっと怒っているのはなんとなく分かった。
「いいんです! 後5年後を楽しみにしていてくださいね!」
「5年後……。その前には勇者を見つけたい所だがな」
「もう! シュタルさんなんて知りません!」
そう言っているが、リュミエールが俺から離れる事は無かった。
彼女も声も、どこか……楽しげだったのは俺の気のせいだろうか?
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