第48話 師匠

 俺の目の前にはひざをつく国王。

 そして、彼は俺に国王と同等の地位を与えると言う。

 正直要らない。


「頼む! ワシを導いてくれ! 最強なのだろう?」

「そうだが……俺は俺でやることがある」

「なんだ!? この国の力があれば大体は出来るだろう?」

「俺自身の力でやるから意味があるんだ」

「そんなことを言わずに、ワシの話を受けてくれ!」


 相変わらずすがりついてくる国王。

 面倒になってきた。

 振り払ってやることやって逃げるか。


 そう思っていると、後ろから声をかけられた。


「シュタルさん。問題は解決しましたか?」

「うん!?」


 俺は思わぬ声に振り返ると、そこには姿隠しの魔道具を起動させたリュミエールがいた。


「リュミエール」

「はい。ずっと帰って来ないので心配になって来てしまいました」

「俺は最強だ。心配しなくても問題ない」

「ですけど、やっぱり……姿が見えないのは怖いじゃないですか」

「リュミエール……最強の俺に心配の文字はないぞ。二言はない。約束する」

「ええ、知っていますけど……。私がそう思ってしまうだけなので」

「それなら仕方ないが……」


 そう言って笑ってくるリュミエール。

 俺の事が心配で出てきてしまったらしい。

 彼女が居てもいいことになるのか。

 と問われると怪しいが、そうやって心配される事は不思議と悪いようには思わなかった。


「あの……後ろ……は大丈夫ですか?」

「後ろ?」


 リュミエールに言われて、俺は後ろを振り返る。


 そこにはとてもいい笑顔になった国王がいた。


「どうした」

「何、シュタル様がワシの願いを聞き届けてくれただろう? これが嬉しくならずにいられまい」

「何の話だ?」

「先ほどワシの話に『うん』と言ってくれたではないか」

「……」


 俺は少し考えて思い出そうとする。


『そんなことを言わずに、ワシの話を受けてくれ!』

『うん!?』


 確かに言ったような……。


「いや、それは無しだろう」

「最強のシュタル様に二言はないのでは?」

「……」


 嘘だろう?

 まさかこんな事でそんな……そんな地位になってしまうなんて……。

 信じられない。


「ではシュタル様。ご納得頂けましたかな?」

「く……しかし、それは後でだ。今は他の者を救う事。それと、勇者の居所を教えてもらうぞ」

「もちろんです! シュタル様の願いなら出来るだけ叶えさせて頂きます!」

「……ならいい」


 俺はそう言って、玉座の付近に倒れている近衛兵達を蘇生そせいさせていく。


 その行動に近衛兵達は目を丸くしていた。


「え?」

「そんなことが……?」

「俺を誰だと思っている。最強の魔剣士シュタル。邪魔をするなよ」


 俺は近衛兵達にそれだけ言うと、次々と蘇生させていく。


 後ろの方では国王とリュミエールが話していた。


「シュタル様は口答えしてきた近衛兵達も蘇生させて下さるのか」

「そうですよ。シュタルさんはとっても優しいんです。そしてその優しさを……分け隔てなく、誰にでも向けて下さるんです」

「そうか……。それでこそ我が師だ」


 勝手に師匠にするな。

 そう思ったが、口は挟まないでおく。


 そうしていると、外からどたどたと走ってくる音が聞こえた。


「陛下! 無事ですか!?」

「シュタル! 生きてる!?」


 現れたのはラジェル公爵とアルマだった。

 彼らの後ろには多くの兵士と冒険者を引き連れている。


 国王は入ってきた彼らに向かって答えた。


「おお……よく来てくれた。ラジェル公爵」

「陛下……ご無事で何よりです。しかし、これは……」

「あそこにいるシュタル様が助けて下さったのだ。それとラジェル。彼にワシと同等の権力を与えたいのだがどうするのがいいかな?」

「は!? 陛下と……同等ですか!?」

「そうだ。ワシには……師が必要なのだ」

「それで……シュタルを?」

「そうだ。その事で助言が聞きたい」


 そんな話をしている途中に、アルマは俺の方に来る。


「シュタル! 無事だった!?」

「アルマか。俺は無事だ。最強だからな」

「そう……良かった。城の中も結構魔族が居て……倒すのに時間がかかって遅れてしまったの。ごめんなさい」

「気にしなくてもいい。ここでの被害はほとんどない。むしろ、俺が見れなかった下の方を助けてくれて感謝するぞ」

「シュタル……」


 彼女は手にかなりごついハンマーを持っているけれど、それを感じさせないような笑顔を浮かべている。


「兎に角、後は外の問題を解決するだけだな。城は問題ない。行くぞ」

「ええ!」


 そう言って俺達は外に向かおうとすると、国王が止めてきた。


「シュタル様! お待ちください! ワシの事はどうされるのですか!?」

「国王よ。今は貴様の安全は確保した。次にやることは危機への対応だ。外に兵士が操られて攻めて来ているのは知っているだろう?」

「それは……」

「だから先にそちらを片付けてくる。勇者の居所を調べておくといい」


 俺はそう言ってアルマと外に向かうと、国王が俺の横に並ぶ。


「お前……どうして……」

「そのことについてはラジェルに任せます。今は……ワシも貴方と共に外に向かいます」

「……いいだろう。この国で何が起きているのか……一度しっかりと知るといい」


 こうして、俺達は城を出て外に向かう。





 外でやることは簡単だ。

 ベルセルの町でやった様に、拘束して、操られている元を断つだけ。

 それを終わらせるのに、丸3日かかるとは思わなかったけど。


 倒すのは正直問題ない。

 回復させるのが大変だっただけだからな。


 それでも、助ける事が出来たし、国王も……現状を知って、決意を新たにした姿は少し嬉しかった。

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