第45話 最強

「【技能無効スキルキャンセラー】」


 ミリアムの口からスキルが唱えられた。


「それは!?」


 俺は驚愕に目を見開く。


 どこかで聞いた事がある。

 スキルを無効にするスキルがあると。

 そうなってしまえばスキルに頼っている者は敗北するしかなく、より数が多い方や純粋に力の強い者が勝つ。


 俺は体中に衝撃が駆け抜けるのが分かった。


「ぐっは!」


 俺の全身から力が抜け、体内にもダメージが入ったのか俺は思わず血を吐いてしまった。

 そんな事は久しぶり過ぎて床に手をついてしまう。


「ぐ……」

「あっはははははははははははは!!!」


 俺の耳に奴の高笑いが聞こえてきた。


「無様ですねぇ! 面白いですねぇ! 人族はいつもそうやってスキルに頼る。門番をしていたあのSランク冒険者もスキルに頼りきり。そんな奴らを罠にかけて殺す時は毎回最高に笑いが止まりません!」


 何とか顔を上げて見ると、奴はこれ以上無いほどに笑っていた。


「いいですねぇいいですねぇ! 【最強】? その姿がこれですか!? 最強が聞いてあきれますよぉ!」

「ふ……ふ。お前……面白いな」


 俺は思わず、そんな事で笑うミリアムに対して笑い返してしまった。


 奴は俺が笑うのがどうしてか理解出来ず、にやけた顔で首を傾げている。


「強がりですか? ですがいいでしょう。最強だった男なのです。死ぬ前にそれくらいの余裕を見せてもらわねば。さて、お前達来なさい」


 奴がそう言うと、奴の側から3人の男が現れる。

 誰も彼も筋骨隆々きんこつりゅうりゅうで、ウリルと同じような見た目をしていた。


「さて、ここで私が行ってもいいのですが、彼らが行くのもそれはそれで一興いっきょう。やってしまいなさい」

「は!」


 3人の魔族が飛びかかってくる。

 剣を構える者、斧を構える者、拳を構える者。

 様々な者達だ。


「ぐぅ!」


 俺は痛みを抑えて横に飛ぶ。


 ズバァ!


 俺がいた場所が切り裂かれてえぐれる。

 もしも直撃したらどうなるかな。

 そんな事を考えながらも、反撃の手を考えた。


「『火球魔法ファイヤーボール』!」


 俺の手からはそれは出ず、魔力だけが消費されたようだ。


 ミリアムは笑って話す。


「あはははははは!!! 魔法も無駄ですよ! それは使えない事は既に検証済み! 故に、近衛兵達もほとんど何も出来ずにいるのですよ!」


 近衛兵の方に目を向けると1人、また1人と数を減らしている。


 そんな事は関係ないとばかりにミリアムは口を開く。


「彼らは全員ウリル並みの戦闘力です! それに加えてあれと違って頭もある! さぁ! このまま死になさい!」

「せやぁ!」


 ミリアムの言葉に合わせて、そのうちの1人が飛びかかってくる。


 でも、これだけのんびりしてくれていたのなら、もう大丈夫だ。


 俺は剣を抜き放ち、突進してくる奴に自分から向かっていき、首をねた。

 

「は……」

「え……」

「何……」

「ふぅ……いやぁ、久しぶりで驚いてしまった。まさかスキルを消せるなんてな」

「そんな……ありえません! お前の【最強】スキルは消えているはず!」


 ミリアムがさっきまでの高笑いはどこに行ったのか、険しい表情を浮かべて俺を見ていた。


 俺は奴に教えてやる。


「そうだ。今はお前のスキルで、俺の【最強】のスキルは消えている」

「ならなぜ! なぜそんなに強い! 彼を一撃などありえない!」

「決まっている。俺が最強だからだ」

「は……? さい……きょう……? スキルは消した。そう言っているのが分からないのですか?」

「いいや? 分かっているさ。分かっている」

「ではなぜ……」


 理解できないという表情を浮かべる奴に向かって、俺は優しく説明してやる。


「最強……と俺は言ったな。その最強とは、スキルの【最強】が奪われた程度で最強ではなくなるものなのか?」

「そん……な……こと……」


 奴はなんとなく理解したらしい。

 その通りだ。


「最強とは、スキルがあるから最強なのではない。魔法が使えるから最強なのではない。俺が俺であるからこそ、最強なのだ。毎日を最強になるために費やし、どんな相手からも強くなれるように戦い続ける姿勢を維持する。最強だとおごらず、誰が相手でも決して油断しない。それが最強である俺なのだ」


 俺はそう言い切った。

 確かに、俺は【最強】スキルで最強になったのかもしれない。

 だが、そのままでよしとせず、俺は戦い続けた。

 幾多いくたものダンジョンを攻略し、数多あまたの魔物を倒して来た。

 その結果が今の俺を作っているのだ。


「たかがスキルを消した程度で、俺を殺せると思うな」

「……お前達! やってしまいなさい!」

「はっ!」


 2人は不安な表情を浮かべながらも、律儀に俺に向かってくる。


 俺は、そんな2人の首をさっさと切り飛ばした。


「そんな……」

「さてミリアム。後は……お前だけだな?」


 俺は奴を真っすぐに見てそう話しかけた。

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