第46話 ミリアムの最期

***ミリアム視点***


 おかしい、ふざけるな、狂っている。

 私がここまで来るのにどれだけ苦労したと思っている。

 この国を落とすために、一体……一体どれだけ時間を使ったと思っている。


「さてミリアム。後はお前だけだな?」

「……」


 そう言いながら私に迫ってくる男。

 自らを最強と名乗りその強さをこれ以上も無いほど見せていた。


 Sランク冒険者をぶつけてみたが、あっさりと打ち破られ、私のスキルすらもこいつ相手には効かない。

 最強。

 その言葉が私の中で恐ろしく重くのしかかってくる。


「どうした? もう策はないのか? 【策謀】の2つ名が泣いているぞ?」

「く……」


 奴は私を煽る程には余裕があるらしい。

 確かに、この状況。

 私にとってはもう……ほぼ詰みだろう。


 だが、この私が死ぬなどありえない。

 魔族最高の頭脳を持つ私が、人間程度に殺されるなどありえない。


 私は部下に向かって命令を放つ。


「お前達! もう国王はいい! 私の前にいるこ奴を殺せ!」

「はっ!」


 国王の所まで後近衛兵は10人足らず。

 そんな状況ではあるが、今はこちらの方が優先だ。


「数が揃っていれば勝てる。そのような事はないと既に分かったと思っていたんだがな?」

「やってみるまで、何が起こるか分かるまい」

「なるほど確かに」


 奴と話している間に、私の前には魔族20人以上が揃う。

 先ほどの3人程では無いが、ここに連れてきている時点で既にエリートであるのだ。

 いくら何でも、数秒の時間くらいは稼いでくれるだろう。


「行け!」

「ははぁ!」


 部下達は私の指示通りに動き、奴に向かって行く。

 死にに行くようなものだが、これも私の為だ、仕方ない。


 私はその間、ほんの数秒の間に【魔陣】にもらった転移用の魔法陣が書かれた紙を取り出し、起動する。

 さらばだ最強の魔剣士シュタルよ。

 貴様の事は忘れない。


「どこに行く気だ?」

「!?」


 スパッ!


 そんな声が聞こえた次の瞬間には、私が持っていた紙は真っ二つに切り裂かれてしまった。


「は……な……え……」

「それは一度見たんだ。警戒しないと思うか? 貴様にはこれからまだまだ聞かせてもらうことがある」

「な……部下は……どうし……た……」

「? あの程度であれば即座に首を切り落としたよ。リュミエールの事はしっかりと守っている。何も心配する事はない」

「そうか……降参しよう。だから命は助けてくれ」

「まずは貴様がやろうとしていた事を話してもらおうか」


 奴に言われて私は今回の作戦を全て話す。

 といっても、もうほとんど終わりに近い。

 だから話すことはあまり無かった。


 それだけで命が助かるなら安い物だ。

 ここは生き残り、またこいつらを後から全員殺せばよい。


「他に作戦を練っていたのだろう? 話せ」

「? 私はこの作戦に全力を傾けていた。だから他にある訳がない」


 これは本当だ。

 ウリルのこと等、不安要素はかなり大きかった。

 確かに他の国にも手を出したいとは思っていたけれど、それが出来ない程にはこちらのことにかかりきりだったからだ。


「では他に四天王は何をしていた?」

「それは……」


 言えない。

 彼らから相談を受けて、確かに私は考えていた。

 だから、他の者達が何を狙っているのかを知っている。


「そうか。知っているか。話してもらおう」

「それは……」

「では……死ぬか?」

「……勇者だ」

「勇者?」

「そうだ。他の者……【魔陣】等は勇者を狙っていると言っていた」


 仕方ない。

 まずは生き残り、それから後の事を考える。


「そうか。では貴様にはもう用はない。ではな」

「な!? 話しただろう!?」

「あの程度でか? まだまだ話すべき事はあるのに、あの程度で話した内に入ると思うか? バカにするな」

「……」


 奴には見抜かれていたようだ。

 ただただ最強と言うだけの奴ではない。

 頭も回り、こちらの中まで見抜いてくる。

 こんな奴と……敵対した時点で私の負けだったのかもしれない。


 しかし、そう思った所で介入があった。


「貴様ら! 待てい!」

「なんだ」

「……」


 私は怒鳴り声に目を向けると、そこには殺す予定だった国王がいた。


 彼はさっきまでとは様子が打って変わって、近衛兵に囲まれながら私をにらみつけている。


「そこのお前! そ奴はこの国をめちゃくちゃにした! 罪を償わせる為にその身柄は余が預からせてもらう」


 これは思わぬ|光明(こうみょう)が見えた。

 私はこの国の貴族のほとんどに手を伸ばしている。

 その為、国王に一度捕まれば私にも逃げるチャンスが生まれるはずだ。


 そうと決まればやることは1つ。


「私はこの国に降参する! だから助けてくれ!」


 私がそう言うと、国王もニヤリと笑ってシュタルの方に向かって話す。


「分かったか貴様。そやつも余に降伏すると言っておる。分かればこちらにそ奴を渡せ。お前達! 奴を拘束しろ!」

「はは!」


 国王の命令で近衛兵が私の方に向かってくる。

 一度くらいの拘束は許そう。

 しかし、貴様らには次がない事は覚えておけ。


 私は奴らの方に向かおうとした時、視線が高くに上がった。

 私は一歩踏み出そうとしたはず。

 それなのに視線がこんなにもあがるはずがあるのか?

 肩も首も回していない。

 なのに視界が回る。

 そして、何が起きたのか知ることとなる。


 シュタルが私の首を切り飛ばしたのだ。

 なぜ?

 と思う事もなく、私の最期の意識はそこで途切れた。


******


「貴様! なぜ殺した! 余がそ奴の身柄を預かると言ったではないか! 余の命が聞けないのか!」

「貴様の命令に俺が従う道理がない。貴様の言葉など、俺にとっては羽虫の言葉と同義であるとしれ」


 俺がそう言うと、奴は……国王は驚愕して俺を見つめていた。

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