第40話 ステークスの向上心
***ステークス視点***
おれは今、1人でAランクの魔物を倒しに来ていた。
その魔物がいる場所までは後1日程、今夜はそいつと戦う為の最後の野営だ。
「……」
おれは目の前の火をぼんやりと見ながら周囲の警戒をしていた。
そこに、上空から降りてくる何かを感じる。
立ち上がり、体を回してそちらを見ると、白い肌の紳士然とした男が立っていた。
彼は口を開く。
「これはこれは、どなたかと思ったらSランク冒険者【千刃】のステークス様ではありませんか」
「魔族……か? 何で人に姿を変えている?」
魔族は基本的に誇り高い。
だからおれがこれまで殺して来た奴らも、人の姿になることはしていなかった。
しかし、こいつはなにか違う。
俺の直感が警鐘を鳴らしていた。
奴は俺の事を警戒していない。
それどころか、ゆっくりと会話を楽しむように口を開いた。
「人の姿をしている方が都合がいいのでね。それでこの姿をしています」
「魔族が人の姿をとるとはな」
「その方が効率的ですので」
「ほう……」
おれは目を細めて奴をじっくりと見る。
最近、ギルドマスターが王都に魔族いるかもしれない。
だから調査が終わり次第討伐の準備に入ってくれと言われていたが……。
「丁度いいな」
「何がでしょうか?」
「お前の存在が……だよ。おれは最近少し力の差を感じることがあってな。ちょっと他よりも強いやつと戦って勝ちたいと思っていた所なんだ。だから……お前はその
おれはそう言った瞬間に剣を抜き放ち、奴に向かって突き出す。
これを回避できる者は今までで片手でしかいない。
それも、回避できた所でその次の攻撃で全員が死んでいた。
おれは今回も同じようになると考えていたが、甘かった。
「ば、バカな」
「ふむ……。悪くはないでしょう。ですが、まだまだですね」
奴はおれの突き出した剣を片手で掴んでいた。
「離せ!」
おれは剣を振り払って奴から離れようとすると、奴はおれの剣になんの執着もないのか、危険だと考えていないのか、簡単に手を離した。
「本当は貴方等簡単に殺せるのですよ?」
「ふざけるなよ……。仮にもSランク冒険者をやっている訳ではないぞ」
「ええ、知っています。ですが、貴方では決して私には勝てない。その理由があります」
「……なんだ」
「簡単ですよ。貴方はその2つ名の通りスキルに頼りきりです。それではいけません。その強さを消してくる相手が出て来た時、貴方は敗北する。私と出会ってしまったようにね」
「ほざけ、おれのスキルを貴様程度が見極められる物かよ!」
おれは再び奴に向かって突撃する。
今度は剣だけで……などと言うことはしない。
本気で、スキルを使って奴を殺す。
おれのスキルは【千刃】というスキルだ。
俺が剣で攻撃する際、追撃の剣を出すというもの。
俺はこのスキルを磨きに磨き上げ、名前の通り千の刃を出せるようになった。
それも、このスキルで出した剣は最初に出した剣よりも少し遠くに出すことが出来る。
よって、俺の剣のリーチは1.5mだけれど、連続で出すことで1キロ先ですら切り裂くことが出来るのだ。
それがこんな近くにいる相手、文字通り千に切り刻んでやる。
「【千刃】」
おれはスキルを使い、奴の逃げ場を塞ぐようにして剣を展開させようとして……。
「【……】」
奴が何か唱えた途端、おれのスキルが発動することは無かった。
奴は、そのまま俺が突き出した剣を先ほどと同じように挟みこむ。
「は……」
おれは何が起きたのか理解できなかった。
スキルが発動しない? そんなこと……そんなことあるはずがない。
極限まで磨いたスキルが……おれが……絶対に負けることのないスキルが……。
たとえ、あのシュタルという奴ですらも、必ず傷を負わせることくらいは出来ると思っているこの自慢のスキルが……発動しない?
「理解できましたか? 貴方と私の差を」
「そ、そんな……そんなことある訳……」
「あるのですよ。貴方など脅威ではない。だから別に王都から引き離す様な事はしなかった。この国の騎士団の方が余程恐ろしいのです」
「貴様……何者……」
「ああ、これは失礼しました。私はミリアム。これから、貴方の主になる者です」
「主……?」
「ええ、予定外のことが起きましてね。少々……私だけでは厳しいかもしれない方が現れたのですよ。まさかこんなことになるとは思っていませんでしたが……。まぁ、という訳で、貴方は私の手駒です」
奴はそういうや否や、俺の腹に
「ぐぁ!」
おれが吹き飛び、そのまま奴は連撃を加えてくる。
そんな状態の中、おれは意識が薄れて行くのを感じていた。
(もっと……最強になるために……。強さを求めていれば……。弟子なんてとらずに……戦いに明け暮れていれば、違ったのだろうか)
おれはそのまま意識を手放した。
「ふむ。所詮はスキル頼りの冒険者ではこの程度ですね。後は私の役に立てるといいのですが……」
ミリアムはそう言ってから、ステークスの口に種を放り込む。
「さて、それでは行きますよ。もうそろそろ王都の陥落が始まります」
そう話すかれの後ろには何千人にも登る人の姿が見えた。
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