第41話 敵の狙い


「ギルドマスター! 起きてくれ! 早く!」

「すぐ行く!」


 アルマは跳び起きて部屋から出ていき、扉を開けて大声で話をしている。


 俺はのんびりとソファでくつろいでいた。

 2人の声を聞き、これからのことについて考える。


「それでどうした!」

「実は王都の外に1万以上の軍勢がいるんです! 姿は他の街の者達なのですが、話を聞きに行った伝令が殺されてしまったらしく……」

「それで、国は何をすると?」

「今は残っている少数の兵士を城壁に貼り付けて少しでも時間を稼ごうとしています。その間に国境に送った兵士を呼び戻している……と。それで、冒険者ギルドにも時間稼ぎの為に人を出して欲しいといっています」

「分かった。すぐに向かう。だが冒険者には城壁にすぐには行かせるな。止めておけ」

「え? でも国の命令で……」

「いいから! 止めておけ!」

「畏まりました!」


 そう言ってギルドの職員? は走っていき、アルマもすぐにこちらに戻ってくる。

 その時には、ラジェル公爵も俺の近くに座っていた。


「2人とも! 大変だ!」

「聞こえていたよ」

「そうだな。ここまでやるとは……本気で王都を潰す予定らしいな」

「なんでそんなに落ち着いて居られるんだ!」

「落ち着かないといけないからに決まっているだろう?」


 俺は彼女を落ち着かせる様に話す。


「それは……そうかもしれないけど……」

「いいから落ち着け。ほら」


 俺は収納から水を彼女に差し出す。


「昨日も思っていたけど、それ……何?」

「『収納』だ。覚えると便利だぞ」

「『収納』って……覚えたくて覚えられるものじゃないと思うんだけど……」

「気にするな。それよりも飲め」

「う、うん」


 彼女はごくごくと勢いよく飲み干した。


「どうだ? 落ち着いたか?」

「う、うん。でも……何か普通の水と違うような? のんだけで後味スッキリだし……。今までで飲んだ水で一番美味しいかも」

「ダンジョン産の水にダンジョン産のコップだからな。多少は効果があるだろう」

「それ……普通に飲んじゃったけど良かったの? 買おうとしたらかなり高いんじゃ」

「必要ならまた取ってくる。気にするな」

「……ありがとう」

「それじゃあ話をするか」

「うん」


 アルマが落ち着いたので、俺が最初に話し始める。


「まず、俺の予想を言おう。これは陽動ではないのかと考えている」

「陽動?」

「そうだ。外に陽動を展開し、王都に残っているほとんどの兵士を集める。そして、手薄になった城を急襲し、制圧する」

「ちょ、ちょっと待ってよ! じゃあ……ここまでして王都に密かに攻め込んだのに、それは全部囮だって言うの? それに、王城には近衛兵が残っている。しかも彼らは精鋭だよ? それをどうやって突破するっていうのさ」

「奴らにはまだ使っていない戦力があるだろう?」

「使っていない戦力?」


 アルマが首を傾げていると、それに答えたのはラジェル公爵だった。


「街に入り込んでいるという魔族か」

「そうだ」

「あ……」


 俺は肯定し、アルマもやっと思い至ったという顔をしている。


「こうしている間にも王都の兵士達は城壁に集まって行くだろう。その間に王城を狙うに違いない」

「じゃあ……どうするのさ。魔族は……強いよ。アタシだって勝てるか分からない。そんなのが何体もいたんじゃ……」

「そこは俺に任せろ。それよりも重要なのは王城の手助けだ。お前達の戦力を王城に向けろ」

「でも……それは本当なの?」

「もし違ったら俺が王城を離れて外の戦力を潰してくる。王城の者達を救うためにやってくれ」

「シュタルがそこまでいうのであれば……」

「ワシもその案には賛成だ。だが、屋敷に戻れるかわからん」

「『結界魔法シールド』」


 俺は2人を別々に魔法で包む。


「わ」

「これは」

「これに入っていれば安全だ」

「しかしこれでは移動出来ん」

「動きたい方向に押してみろ」

「何?」


 公爵は恐る恐る前の方を触ると、それはゆっくりと前に動いて行く。


「おお! これは凄い!」

「強く押せば速く進む。加減はやりながら見極めろ。方向転換は重心移動を強めにやればいい」

「よし。ではワシはすぐに屋敷に戻って王城に兵を連れて行こう」

「アタシも冒険者を連れて急いで行くよ!」

「よし。俺もすぐに王城に向かう」


 それから未だに寝ているリュミエールを抱っこして、他の2人と揃って外に出る。


「よし。気を付けていけ。それと、天井を5回叩けばそれは解ける。だが、一度解くと作り直すには俺の所に来る必要がある。気をつけろよ」

「分かってる」

「問題ない」

「よし。では行くぞ」


 そうして俺達が出て行った瞬間、様々な物が空に飛び上がった。


「あれは……」

「魔族……」


 そう。

 俺達が王城に向けて行こうとした時に、既に魔族が王城に向かっていたのだ。

 その数は……100以上は確実にいた。

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