第39話 就寝

「戻ったぞ」

「お帰りなさいシュタルさん! どうでしたか?」


 俺はアルマと一緒に彼女の家に戻る。


 残っていた2人は少し眠そうにしていたけれど、俺達が帰って来ると立ち上がった。


「公爵の言う通りレイリー子爵は裏切っていた。その時に丁度この魔族と話していてな。連れてきた」


 俺は手に持っていた魔族をぽいっとその場に投げる。


「彼女は……」

「魔族だ。この王都を襲撃する情報を持っているのだろう。絞り出すぞ」

「絞り……」

「当然だ。リュミエールとアルマ。お前達は別室にいけ。公爵、これくらいは出来るな?」

「あ、ああ。当然だ」


 俺は2人を追い出すと、そのまま魔族の女を起こした。


 ロープでぐるぐる巻きにされた彼女は目を覚ます。


「う……ここ……は?」

「どこか言う必要はない。それよりも貴様。ミリアムの部下だな?」

「そうだが……貴様は?」

「聞いているのはこちらだ。王都襲撃の計画。話してもらおうか」

「そんな事を話すわけ無いだろう?」

「そうか……では死んでもらうことになるぞ?」

「ひぃ」


 俺は先日冒険者に向けたもの以上の殺気を彼女にぶつける。

 それも深く……長くだ。


 彼女の顔は見る見る内に強張こわばって行き、簡単に口を開く。


「わかった! 言う! 言うから! だから辞めて!」

「いいだろう。さっさと言え」


 俺は殺気を収めて続きをうながす。


 彼女は観念したように話し出す。


「ミリアム様の計画では……ぐ……がっ! はっ!」

「おい! どうした! 計画はなんだ!」

「あご……けん……」


 魔族の女はそれ以降何も言うことなく動かなくなった。


 蘇生そせいも試して見たけれど、それも封じられている様だった。


「ミリアム……情報を吐こうとしたら、仲間と言えど死ぬ魔法でもかけていたのか?」

「そう……かもしれんな。魔族にはあの【魔陣】がいる。その様な物を作っていてもおかしくはないだろう」

「……仕方ないとりあえず2人を呼び戻す」

「ああ」


 リュミエールとアルマを呼び戻し、何があったのかを伝える。


「そんな……仲間を……」

「あいつにとって仲間でもなんでも無かった。っていうことか……」

「そうだな」


 リュミエールはショックを受け、アルマは割と淡々としている。

 これは多少人生経験の差だろうか。


 そんな事があったので、今日はとりあえず寝ることにした。

 皆それぞれに色んな事があり、顔には疲労がこれでもかと浮かんでいたからだ。


 公爵は襲撃されたし、アルマは裏切られた。

 リュミエールはおねむの時間だ。


 俺はまだ活動出来るが、急いでもいいことはない。

 それに、奴らが仕掛けてくるのであれば、それを完璧に打ち破る。

 それくらい出来ねばならない。


 公爵は客間に、リュミエールはもう一つの客間に案内された。


「アンタはこっち」


 そう言って俺は彼女の後をついて行くと、そこは彼女の私室と思われる様な部屋だった。


「なぁ、俺の分の部屋はないのか? そうだとしたら別に要らないぞ? 適当にソファでいい」

「いいじゃない。今夜くらい」

「お前な……これから王都が大変なことになるっていう時にそんな事をしている場合か?」

「別に……何もしなくていい。ただ……一緒にいて」

「……」


 アルマはじっと……様々な事を諦めたような目で俺を見ていた。

 その瞳は1人にして置くには不安になるもの。


 俺は……彼女といることを決めた。


「今夜だけだぞ」

「ええ、ありがとう」


 俺はそれから彼女のベッドに入り、彼女の側に居続けた。


 別に彼女と何かをしたかった訳じゃない。

 彼女も……きっとそういう事は望んで居なかったと思う。


 でも、ずっと1人では寂しい時もある。

 だから、少しだけ……こうやって人と寄り添って欲しい。

 そう思うのだろう。


 俺は……彼女が眠りに落ちるまで側に居続けた。


「すぅ……すぅ……」


 俺は彼女が寝入った事を確認して、部屋から出ていく。

 それからリビングのソファに寝転がり、眠りについた。


******


 翌朝。


 俺は騒がしい音に目を覚ます。


「ギルドマスター! 大変だ! 大変なんだ! 軍勢が! 軍勢がそこまで来ているんだ! 早く来てくれ!」


そう叫びつつ、アルマの家の扉を叩く声が耳に飛び込んできた。

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