第38話 レイリー子爵

「ここか?」

「……ええ。ここがレイリー子爵の屋敷だけど……本当に……するの?」

「ここまで何を今更怖気づく必要がある」

「でも……」


 王都の暗闇に紛れて、俺とアルマはレイリー子爵の屋敷へと来ていた。


 あの場でレイリー子爵の裏切りを話した所でらちはあかない。

 ならばいっその事来てしまおう。

 ということでアルマと2人で来ているのだ。


 因みに、リュミエールとラジェル公爵はアルマの家において来た。

 ちゃんと『結界魔法シールド』で囲ってきたので安全は保証出来る。


「行くぞ」

「え、あ」


 俺はまだ言いよどむ彼女をおいて屋敷の中に入っていく。


「い、行く」


 彼女もどうやら気にはなっていたようで、俺の後をついて来た。

 その動きは素早く、彼女もかなりの実力者であると感じさせる。


「こっちだな」


 俺は人の気配を頼りに見つからないルートを進んでいく。


 全く誰ともすれ違わないことに彼女も疑問を抱いたのか聞いてくる。


「なんでそんなに分かるの?」

「俺が最強だからだ」

「そんな……そんな理由でこんなこと出来るって……。ありえないでしょ」

「最強の俺に出来ない事はほぼない」

「……そう。頼りにさせてもらうわ」


 そう言って俺達はレイリー子爵の部屋と思われる場所に到着する。

 部屋は最も厳重で、両隣の部屋には人が詰めていた。


 俺達はレイリー子爵の部屋の上に登り、そこから細工をして話を聞けるようにする。


「『集音魔法サウンドコレクト』」

「何それ」

「静かに、音を集める魔法だ」

「……」


 俺は彼女を黙らせると、部屋の中の声がここまでしっかりと聞こえてくる。


 話している2人はどうやら女性のようだ。

 そもそも、レイリー子爵は女性なのだろうか。


『それで、ミリアム様からの報告はまだなの? こちらの準備も結構整っているのだけれど?』

『ミリアム様は緊急事態の対処の為に戦力を集めに行っておられる。お前は大人しく待っておけばよい』

『戦力を集めるって……。その必要があるの?』

『貴様には関係ない』

『あるわよ。あたしのこれからにも関わって来るんだから。それにこれだけ協力しているんだから、少しくらい情報をくれてもいいんじゃない?』

『知った所でお前が出来ることは何もない』

『貴方……あたしがどんな事をやっているのか、知らないの?』

『知る必要はない』

『はぁ……何でこう魔族って頭が足りないのかしら……。まぁいいわ。あたしは冒険者ギルドのギルドマスターの親友なのよ? 利用出来るに決まっているでしょう?』

「……」


 俺はついアルマの顔を見てしまう。


 彼女の表情は死んでいた。


 そうしている間にも下の会話は進む。


『信用出来ない』

『何よそれ、じゃあギルドマスターをここに呼び出してあげましょうか? あたしが呼べばすぐに来るわよあの小娘』

「……」

『いいだろう。では今すぐにやってみせろ』

『ええ、貴方は隠れて居なさい』


 チリリン


 それから中で鈴の音がすると、すぐに扉が開く音がする。


『お呼びですか、ご主人様』

『今すぐに冒険者ギルドのギルドマスターをここに呼びなさい』

『こんな……時間にでしょうか?』

『ええ、あたしが呼んでいると言えばすぐに来るわ。行きなさい』

『畏まりました』


 扉が再び開いた音がするが、きっとメイドが出て行った音だろう。


 俺はその音を聞いて、アルマに声をかけた。


「アルマ、聞いただろう。これが……奴の正体だ」

「……はは……。アタシ……アタシ……彼女の言うことを一杯聞いちゃってた……。もう……ギルド運営は想像以上に大変で……。でも……なったからには頑張らないとって思ってて……それで……それで……」


 彼女はそう言って何も言えなくなってしまう。


 俺はそんな彼女に提案をする。


「アルマ。この後はどうする」

「この……後?」

「ああ、奴が裏切っている事は分かった。奴は生かしてはおけない。お前が望むなら、俺が行って一瞬で首を取って来てやる」

「え……でも……」

「これは譲れない。奴はこの王国を裏切っていた。情報はもう一人から取ればいい。だから奴は……生かす必要はない。むしろ、王国に捕まれば拷問されて処刑だろう。それなら、俺がすぐに首を取ってやる」

「それは……」


 彼女はここまで来ても悩んでいるらしい。


「……」


 俺は彼女の決断を待つ。

 焦らせるような事もしない。


 そうしていると、彼女はとあることを聞いて来た。


「ねぇ、その剣……貸してくれない?」

「どういう事だ?」

「アタシは……あの人を許せない。だから……アタシの手で止めを刺す。アタシはハンマーが武器だけど……今はないから……」

「ほい」


 俺は収納から漆黒のハンマーを取り出す。


「え……これは?」

「どこかのダンジョンでゲットしたハンマーだ。音もなく振れる暗殺者用のハンマーだな」

「それ……色々と間違ってない?」

「拾い物だから知らん。それで、行くのか行かないのか?」

「……行く」


 彼女は覚悟を決めた顔をして、ハンマーを持ちそれを屋根に叩きつけた。


 しかし、それによる音は一切発生しない。

 本当に無音で振れるハンマーらしい。


「『消音魔法サイレント』」


 俺は敵が気付く前に魔法を使い、人を呼べなくする。


 それから、彼女がレイリー子爵であろう女性を叩き潰すのを見た。


 俺はもう一人、魔族の女の顎を打ち抜き、そのまま気絶させた。

 そのまま奴は逃げられないようにロープでぐるぐる巻きにしてそのまま放置する。


「……」


 それからハンマーを振り下ろした状態で止まっている彼女に近付く。


 彼女はゆっくりとハンマーから手を放し、俺の胸で声にならない声をあげた。


 俺は暫く彼女のなすがままにさせていた。

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