第33話 ステークス
俺の前に現れたのは、Sランク冒険者のステークスだった。
彼は降参するように両手を上げ、俺に近付いてくる。
無造作に近付いて来るように見えて、油断は一切してない。
俺がもし動こうとすれば、即座に剣を抜き放ってくるに違いない。
これがSランク冒険者か、中々に強そうじゃないか。
「Sランク冒険者ね。初めてだ。流石に冒険者の中の最高位」
冒険者ギルドにはランクがあるが、上からS、A、B、C、D、E、Fという順になる。
ちなみに俺は単独だとBランク、前のパーティにいた時だとAランクの扱いだった。
「そういうお前さんもSランクはありそうだが? どこに切り込んでもこっちがバラされる未来しか見えねぇ」
「やって見なければ分からないと思わんか? どうだ? 楽しくなりそうだ」
「確かに……最近歯ごたえが無くてうずうずしていたのはあるんだよな」
俺と奴の間でこれから戦闘になる。
その為のボルテージが上がっていくのが分かった。
俺も奴も普通の相手では敵にならない。
だからこそ、時折現れるこうした強敵と出会うと血が
次の瞬間には切り結んでいる。
そう思った時、
「ストーっプ!」
「……」
「……」
俺と奴はリュミエールを同時に見た。
それと同時に、戦うつもりだった気力も一気に落ちていく。
「シュタルさん! ここをどこだと思っているんですか!」
「どこって……ギルド」
「そんな場所で戦うのは良くないと思いませんか?」
「……まぁ、だが喧嘩も冒険者の
元パーティメンバーのバスラもそう言ってよく酒を飲んで喧嘩をしていた。
「それは……そうかもしれませんが、シュタルさんが戦ったらこの辺りが原型なくなってしまいそうです。やるなら外でやって下さい!」
「それもそうだな……。よし。外に行くか」
ここまで来たのだ、折角ならやっておくべきだろう。
俺はそう思っていたのだけれど、ステークスは首を振った。
「やめた。おれの目的はこのバカを止めることにあっただけだ。幾ら何でもお前さんと戦う気なんてないよ」
「なんだ。さっきまではあんなにやる気だったのに」
「正気に戻っただけだよ。おら、行くぞファティマ。おれがいない間に勝手なことしやがって」
「す、すいません師匠」
ステークスはそう言ってファティマを引っ張りどこかに連れ去っていく。
彼のパーティメンバーも、彼に付き従っていった。
「何だったんでしょうね……」
「さぁ。まぁいい。予定を元に戻そう。受付に行くぞ」
「はい!」
俺とリュミエールはギルドの列に並ぶ。
ちなみにさっきファティマが示していた女性受付とは別の場所だ。
彼女の列は他の列の倍は並んでいるので面倒だったからだ。
決して、リュミエールの視線が怖かったからではない。
そんな俺達の所に、日に焼けた少女が現れる。
全体的に薄い服装をしているのに、手には分厚いグローブを着けていた。
赤髪を短髪に切り、瞳は薄い茶色。
なんとなくドワーフっぽいな、と感じた所だ。
「アンタたち、セントロから来たのよね?」
「ああ、そうだ」
「ならちょっと話があるの。こっちに来てくれない?」
そう言って彼女は有無を言わさずに行こうとするが、俺はついて行かない。
それを不審に思った彼女は振り向いて聞いて来る。
「ちょっと、大事な話があるんだから来てよ」
「その前にお前は誰だ」
「ああ、そっか。ごめんね。アタシはアルマ。ここのギルドマスターだよ」
「ほう」
ニカリと笑う元気そうな少女はそう名乗った。
俺とリュミエールは、そんな彼女についていく。
******
***ステークス視点***
俺はファティマのバカを連れて急いで酒場から離れていた。
「し、師匠! なんであんな奴相手に逃げるんですか! 師匠なら楽勝でしょう!」
バカはそんな事を言って来る。
おれが折角鍛えてやったと言うのに、全く何も分かっていない。
目の前に立っただけで、全身鳥肌が立つようなあの感じ。
龍は下等な者が現れても一切気にしないと言うが、自分がそんな扱いをされるのは初めてだった。
【千刃】のスキルが発現し、そのスキルで多くの者を倒してきたおれに、そんな扱いをするなど……。
最初はイラついたが、次第にあほらしくなったのだ。
龍とアリが戦い、勝てる可能性を考える程には。
「お前……あいつには決して手を出すな」
「な、何でですか!」
「そうですよ! 大して強そうじゃありませんでした!」
ファティマのバカが連れているパーティメンバーも同じように言って来る。
なぜこんなバカに育ってしまったのか、おれの教育が悪かったのか? いや、今はいい。
「もし喧嘩を売りたいなら勝手に売れ。おれはその時はもうお前らの面倒は見ない。分かったか?」
「そ、そんなにも強いんですか?」
「あの時言っただろう。おれに勝てる未来なんて1つも存在しなかった。それを肝に命じておけ」
「わ、分かりました……」
そこで、おれは外に向かう。
「どこに行かれるんですか!?」
「外で魔物を狩ってくる。正直……少しでもあれに追いつきたい……とは言わないが、このままではいけないと感じるくらいには多少思う所があった。ではな」
「師匠!?」
おれは後ろで叫んでくるファティマを置き去りにして、王都の外に向かう。
確か、最近Aランクの魔物が現れたという話があったはず。
折角なので、おれが狩って来てやろう。
そう思って、おれは走る。
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