第34話 ギルドマスターの話

 俺とリュミエールは、ギルドマスターの部屋に通される。

 そこは普通の執務室と同じようで、仕事用の机には乱雑に書類が山と積まれていた。


 俺達はその机の前にある来客用のソファに腰を降ろす。


「それで、話と言うのは何だ?」

「決まっているわ。ベルセルやセントロの状況を聞きたいのよ」

「冒険者のギルドマスターなのに知らないのか?」

「何度も冒険者を送った。けれど、誰も帰って来なかったの」


 彼女は仕事机に座りながら、俺の言葉に答える。

 その表情はかなり真剣だ。


「なるほど、では、貴様が敵ではないと言う証拠は?」

「そんなものどうやって見せるの? アタシの裸でも見せればいい?」

「そうだな……」

「え? 本気?」

「シュタルさん? ちょっとお話が」

「ん? ああ、違う。少し技を使うぞ」

「……どうぞ」

「『看破かんぱ』」


 俺は彼女の状態を知ろうと使う。

 彼女は特に操られている様な状態ではなく、一応は安心できる。


「ふむ……。一応は大丈夫そうだな」

「そう。良かった。それならすぐに話してもらえる?」

「シュタルさんシュタルさん」

「なんだ?」


 俺が話そうとすると、リュミエールは俺の袖を引く。


「彼女は信頼してもいいんでしょうか?」

「それは分からん。だが、他に情報を知っていそうな奴がいない。それに、最低限操られている様子はない」

「……分かりました」


 リュミエールとのひそひそ話が終ると、ギルドマスターが続きをうながしてくる。


 俺は、セントロとベルセルで起きた事を話した。




「……信じられない」

「事実だ。信じられなければ行って来るといい」

「アタシにも立場ってものがあるのよ……。それにそんなポンポンと難事件を解決出来るとか信じられる? 普通、どれか1つ何とかしただけで英雄よ?」

「俺は最強だからな。当然だ」

「そんな……簡単なこと言って……。貴方達の言葉が本当……という言葉も証明出来ないんじゃない?」


 ギルドマスターはそう言って俺の目を真っすぐに見てくる。

 中々にいい瞳だ。

 是非とも戦ってみたい。


 そんな事を思っていると、代わりに答えてくれたのはリュミエールだ。


「それは私が保証します」

「どうやって?」

「【光の幕よライトベール】」

「そのスキルは……」

「ええ、光の巫女しか使えないスキルです。これでこちらが真実を話していると信じて頂けましたか?」

「……ええ、では、その方が勇者様?」

「違う。俺は勇者と戦いに行くだけだ」

「……どういうこと?」


 彼女は頭を抱えてリュミエールを見ている。

 なぜだ。


「あ、えっと……それは……ま、まぁ色々と事情があるんです。なので、気にしないで下さい。それよりも、この王都で何が起きているのかを教えてください。先ほど王城に行って魔王四天王のミリアムが策を仕掛けている。そう訴えたのですが、派閥に別れて何も決まらなくて……」

「あーそれはあの馬鹿どもが……。ああ、もう、今思い出しても腹立たしい!」


 ドン!


 彼女はそう言って机を叩く。

 その拍子に書類が何枚か落ちるが、彼女が気にした様子はない。


「何があったのだ?」

「そんなの決まっているでしょ! 優秀な冒険者を戦場に送り出すのに協力しろ! そう言って来たのよあの馬鹿どもは! そのせいででここの仕事も全然回んなくて大変な時にベルセルやセントロからも連絡がとれなくなるし……。もう……。本当に勘弁してよね……」

「それで情報を知りたがっていたのか」

「そうよ! それにミリアム? そいつがこの王城で目撃されていること自体既に情報として上がっているのよ!」

「なのに対処出来ていない?」

「ふざけているでしょ!? 奴はどこかの貴族の家に出入りしているらしい。という話も聞いている。他にも、魔族らしき者が他にもいる。そういう話しすらあるのに、貴族に協力を求めても何も進まない! きっと……貴族の派閥のどれかがミリアムに買収されている! そして、国王もそれくらい問題ないと考えているのよ! おかしいでしょ!」

「国王も……だと?」


 俺は信じられなかった。

 国王がそれを許容している? 一体なぜ?


「何を考えているのでしょうか?」


 リュミエールが冷静に聞く。


 ギルドマスターはため息をつきながら話す。


「この国は一度も魔族の侵攻を許した事がない。国境の戦いでは常に勝利を重ねてきた。それほどに、この国の軍隊は強い」

「はい」

「そして、その強さは未だに健在よ。だからこそ、国王や貴族も魔族に対して警戒心が薄い。屈強な軍隊がいつも追い返してきたから、魔族の手がこの国に入った事がないから。他国ではどんなに悲惨ひさんなことになっていても、貴族や王族からしたら関係無いのよ」

「そんな……」

「残念ながらこれが事実。現に貴方が王城に行って来た時の、そんな感じの事を言われなかった?」

「言われました……」

「でしょう? だから、この国の貴族は実際に火がつかないと理解しないのよ。一体何と手を組もうとしているのか……ってね」

「……」


 その場を沈黙が支配する。

 それほどに、今の王都の状況は悪い。


 他の街と連絡がとれない事ですら後回し。

 それよりも自分たちの権力争いにいそしんでいるとは……。

 愚かとしか言いようがない。


 そう思っていると、ギルドマスターはその空気を払拭ふっしょくするように俺達を真っすぐに見つめてくる。


「そんな状況で、貴方達にお願いがあるわ」

「お願い?」

「ええ、これだけ危機的な状況、ミリアムが何か仕掛けている。だけれど、それを黙って見ているままには出来ない。だから、怪しい貴族を調べる依頼を受けて欲しいの」


 そう話すギルドマスターは、真剣な顔をしていた。

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