第12話 冒険者ギルド

 俺とリュミエールは兵士について冒険者ギルドに向かう。

 たった1週間前に来たばかりだけれど、今はどうなっているか。


「あ、あの……」

「どうした、リュミエール」

「私……冒険者ギルドって初めてなんですけど、大丈夫でしょうか? 弱そうな相手を見つけると脅しをかける……と聞いた事があるのですが」


 心配する彼女に、兵士が笑いながら説明する。


「はっはっは。それは問題ありません。いくら荒くれ物の冒険者と言っても、初対面の相手にそんな事をする様な者は早々に排除されていますから」

「なるほど。良かったです」

「そもそも俺がついているのだ。心配するな」

「だからですよ。シュタルさん。襲ってきた相手の事を心配してしまうんです」

「お前は……甘いやつだな」

「そう……でしょうか」


 彼女は下をむき、少し考えている。


「まぁ、そんなお前もお前だ。着いたぞ」


 俺達の前には剣と杖の交錯こうさした看板がつけられた酒場。


 酒場の中では昼間から騒がしい声が聞こえる。


 俺達は揃って中に入った。


 ピタッ


 俺が中に入った途端とたん騒いでいた連中全員の目が俺にむく。

 そして、飲みかけのビールがこぼれるのも構わずに固まる連中や、依頼を受けていた受付嬢も微動びどうだにしない。

 皆がじっと俺の様子を気にしている。


 そんな中を、リュミエールが小さく口を開いた。


「結構静かなんですね。皆さんとても行儀がいい方達ばかりなんですか?」

「いやーいつもだったらもっとうるさいんですが、シュタルさん。何かされました?」

「いや? 俺が最強だと教えてやったくらいで、特に何もしてないぞ?」

「では分かりませんね。まぁ、たまにはこんな事があってもいいでしょう」

「受付嬢の方。ギルドマスターはいますか?」

「直ちに呼んでまいります!」


 そう言って3人いた受付嬢が全員奥に引っ込んでしまった。


「全員いかなくてもいいのでは……?」


 リュミエールも首をかしげていた。


 それから俺達はのんびりとしながら待っていると、どたどた大きな足音が聞こえた。


「こ、これはシュタル様! 一体どの様なご用件で?」


 そう言って出て来たのは老齢なギルドマスターだ。

 熟練の魔法使いで、多種多様な魔法で相手の動きを制限する素晴らしい腕の持ち主だ。


 俺は彼に答える。


「最近この街がかなり暗いと聞いてな、多少の事は解決して来たから、祭りを開くことになった。なので、その時に振舞う魔物の解体をした貰おうと思ったんだ」

「な、なるほど。最強を示そうとされているのでは……ないですよね?」


 ビクッ!!!


 俺達以外の全員の肩がはねた。

 一体どうしたのだろうか。


「もちろん違う」

「ほ……良かった。ではこちらへどうぞ」


 そう言ってギルドマスターに案内されて、倉庫に向かう。

 その途中、リュミエールが俺に聞いてくる。


「シュタルさん。以前……何をしたんですか?」

「本当にしていない。ちょっと力を見せただけだ。本当に」

「……そういうことにしておきます」


 そんな事を話している間に、解体場に到着する。

 解体場は20ⅿはあろうかという広さだ。

 今は4分の1位が使われているけれど、普段よりも少ないだろう。


「それで、一体何を解体されるのですか? 今は魔物が活性化して少し押され気味で人員は余っています。なので大抵の物でしたら行けるとは思いますが……」

突撃牛チャージバイソンを100体は……入らないな」

「え……突撃牛チャージバイソン……? 何体ですって10体ですか?」

「100だ」

「頭だけ100とかですか?」

「なんで部位指定なんだ。それに頭なんて食う所ほとんどないだろう」

「で、ですが突撃牛チャージバイソンは頭が一番高く売れますので……その角がもっとも高価なのですよ」

「そうだったのか。まぁ……何でもいい。とりあえず出せるだけ出してもいいか?」

「あ、はい」


 俺は『収納』から突撃牛チャージバイソンを1体ずつ並べていく。


 ズン ズン ズン ズン ズン


「これは……本当に……状態もいい……」

「とりあえずこんなもんでいいか」


 全ての突撃牛チャージバイソンは入らなかったので、とりあえず開いている所に並べていく。

 後半分くらいは後でいいか。


「あの……他にもまだいるんでしょうか?」

「ああ、後はファイアードラゴンも狩って来た。解体も面倒だから頼みたいんだが……出来るか?」

「ファイアードラゴン!? もしかして……山に陣取っていたあの……?」

「そうだ。ただこの広さだと場所が足りないよな……」

「お待ちください! すぐに訓練場を解体する場所として開放しましょう! すぐにやりますええやりますとも!」

「お、おう。やる気があるのは助かる」

「こうやって頭を悩ませていた種を狩ってくださったのです! 出来る限りの事はします! こちらへ!」


 そう言ってやる気になっている彼のあんなで訓練場に行き、そこにドラゴンと突撃牛チャージバイソンの残りを全て出した。


「こんなもんか」

「こ、こんなにも……。本当に最強だったのですね……」

「なんだ? もう一度体験するか?」

「ま、まままま、待ってください! 大丈夫。分かっています。分かっていますとも。シュタル様が最強であることを魂で知っています!」

「そうか」


 彼は顔中から汗を流して、叫ぶ。

 そこまでされたのならば仕方ない。


「では解体は任せたぞ」

「ははぁ! 必ずや総力をあげてやってみせまする!」


 彼は老体だというのに90度に腰を折り曲げて頭を下げる。

 何と礼儀正しいのだろうか。

 やはり彼の様な人物がまとめる冒険者ギルドも同じようになるらしい。


 俺達は揃って冒険者ギルドを出ると、丁度そこに騎士が近付いてきた。


「シュタル様。領主様がお呼びです。今晩是非……屋敷で食事をしないか……と」


 騎士は出会いがしらにそう告げてきた。

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