第10話 ハンバーグにしてやる

 次の日。

 俺達は準備を整え、洞窟どうくつを出る。

 奴隷だった人達は奴隷商の残していた服を着ているので、奴隷に間違われる心配はない。


「ああ……久しぶりの空だ……」

「なんて……なんて気持ちがいいんだろう」


 そんな事を言って外を満喫まんきつしている。

 すぐに出発しようと思っていたが、彼らのこれまでを思うと少しくらいはいい気がした。


「……」


 俺はのんびりとして、彼らが満足するのを待つ。


 そうしていると、しっかりと装備をつけたリュミエールが話しかけてきた。


「シュタルさん。すぐにいかないんですか?」

「少し位はいいだろう」

「やっぱり……優しいんですね」

「別にそうでもない。ただ最強に至る為の道筋を考えているだけだよ」

「そんなこと言って……昨日の夜だって……」

「何か言ったか?」

「いえ……何でもないですよ!」


 そう言って彼女は怒って離れて行ってしまう。

 一体どうしたんだろうか?


 あれ? そういえば彼女はさっきペンダントをつけていたような……。

 まぁいいか。


 それから少しして、皆は満足したのか集まってきた。


「よし。それじゃあ行くか」

「はい」


 俺達はセントロの街に向かって歩き始めた。


 そうして歩いていると、リュミエールが声を張り上げる。


「皆さん! 最近は魔王が復活した影響か、魔物の活動が盛んです! 気を付けてください!」

「魔王が復活した!?」

「それは本当か!?」

「はい! 魔族も確認されているらしいので、シュタルさんが助けてくれるとは思いますが、注意してください!」

「そんな……そんな状況で……」


 彼女がそう言っているのを聞いて、俺は不思議に思った。

 なぜ彼女がそんな事を知っているのかと。


「なぁリュミエール」

「なんでしょう?」


 俺は声を小さくして彼女に聞く。


「何で魔王が復活したって分かるんだ?」

「? 私が光の巫女に選ばれたからですが」

「……ということは、魔王が復活すると、光の巫女や勇者も生まれる。という訳なのか?」

「はい。そうなっていますね」

「なるほど」

「というか……結構有名だと思ったんですけど。本当に知らないんですね」


 結構知名度には自信あったんですけど。


 そう彼女はこぼす。


「まぁ、気にするな。知名度等、俺が最強である事より下だ」

「ふふふ、面白い事を仰るんですね」

「冗談ではないが……と、本当に出てくるとはな」

「え? 何がですか?」

「魔王が復活して魔物が活発化したんだろう? 魔物が出たぞ」

「え……」


 俺が周囲に視線をむけると、4方向から俺達目掛けて向ってくる魔物がいた。

 それらは突撃牛チャージバイソンと呼ばれる牛の姿に大きな角を持つCランクの魔物。

 集団で行動し、その突進力は城壁を砕くほどと言われている。

 ただ、その身は美味しいのでかなり高額で取引される程の食材でもあった。


「ぜ、全方向から!? 一体どうして!?」

「昨日ファイアードラゴンを倒したからなー。それで魔物の支配地域が変わって活発になっているのかもしれない」


 俺はそう私見を話す。


 リュミエールは大声で怒鳴ってきた。


「そんな悠長ゆうちょうに言っている場合じゃないですよ! こっちで戦えるのはシュタルさんだけです! もう1分もしない内に届きますよ! 今すぐやってください!」

「そ、そんな……」

「奴隷からやっと開放されると思ってたのに……」

「牛にひき肉にされるなんて……笑い話ね……」


 そうやってかなり落ちこんでいる者もいれば、


「シュタル殿! 俺達にも武器をくれ!」

「そうだ! これで騎士をやっていたんだ! 少しは戦える!」


 そう言って戦おうとしてくれる人もいる。

 だが……。


「ダメだ。お前達が戦ったら怪我をするかもしれない。俺が守ると言っただろう? 俺に全て任せろ」

「そ、そんな……四方から来るんですよ?」

「そうですよ! このままじゃ俺達はミンチになっちまう! ハンバーグは嫌だ!」

「安心しろ。ハンバーグになるのは奴らだよ」

「どうやって……」

「こうやって……だ」


 俺は魔力を集め、周囲を範囲に指定して魔法を発動する。

 ちなみに、別に詠唱はしなくてもいいけれど、その方が何が起こったか分かりやすいだろうという判断だ。


つどいてかさなりぶつかり形を為せ『風魔法サイクロン』!」


 俺達を囲むように突撃してきた突撃牛チャージバイソンを竜巻で上空に放り投げる。


「ヴモモモオオオオオオオオ!!??」


 突撃牛チャージバイソン達は暴れて動こうとするけれど、風にもまれて、他の突撃牛チャージバイソン同士でぶつかりダメージを負っていく。


 俺達はと言うと、台風の目という言葉があるように中心にいる為無事だ。

 多少そよ風が吹くけれど、ちゃんと飛ばないように範囲外なので心配ない。


 そして、これを続けること1分。

 突撃牛チャージバイソン達は力尽き、上空でぐったりとして風に巻き上げられている。


「そろそろいいか」


 俺は魔法を俺の上空に来るように放った。


 どれくらいだろうか。

 100体は優に越える突撃牛チャージバイソンが俺達の上空に降ってくる。


「うわあああああああああ!!!」

「きゃあああああああああ!!!」

「シュタルさん! 何やっているんですか!? なんで私たちの上に飛ばすんですか!? やっぱりまとめてミンチにするつもりですかああああ!!!???」


 リュミエールが俺の胸元をガクガクさせながら迫ってくる。

 全く、心配性の奴だ。


「問題ない。『収納』」


 俺は降ってくる全ての突撃牛チャージバイソンをしまっていく。

 こうやって肉同士を軽くぶつけ合わせ、肉を柔らかくする。


 そして、後から皆で食べればいいのだ。

 これが一番効率がいいはずだ。


「す、すごい……」

「あれだけの魔物を一瞬で……」


 俺が全ての突撃牛チャージバイソンをしまうと、リュミエールはそっと俺から手を離す。


「シュタルさん! やるならやるって先に言ってくださいよ!」

「後1分もなくて今すぐやってくださいって言っただろう」

「言ったけどもおおおお!!!!!」


 そう言って駄々だだをこねるのは少女らしい。

 俺は思わず頭を撫でる。


「そうカリカリするな。今夜中には街には到着しないだろう。なら、それまでの食事は必要だ。な?」

「もう……今回だけですからね!」


 そう言ってリュミエールはちょっと顔を真っ赤にして下を見ている。

 しかし、決して俺の手を払い退けようとはしない。


「こんなんじゃ騙されませんからね……あ、でもそこいいです」


 そんな事がありつつも3日後にはセントロの街に到着した。

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