第8話 食事をしよう

 俺は『収納』から食事を取り出そうとして気付く。


「しまった……」

「どうしたんですか?」


 リュミエールが首を傾けて聞いてきたので答えた。


「そこまでの食量がない。素材はあるが……料理はできないからな」

「あ、それだったら私が出来ますよ?」

「何? 本当か?」

「はい。調理場等はないので簡単な物しか出来ませんが、それでも出来ると思います」

「なるほど、では調理場位は俺が作ろう」

「作る?」

「ああ」


 俺は中に誰も居ない牢屋の跡地に入り、土魔法を使う。


「『土創造魔法クリエイトアース』」


 牢屋の中の土を盛り上げ、簡易的な調理場を作る。


「後は……『水維持魔法クリエイトウォーター』」


 調理場の少し上にかなり大き目の水を作る。

 水が必要になったらここから簡単に取れるからだ。


「リュミエール。これだけあればいいか?」

「へ……あ……いや……あ、調理器具とかないですかね?」

「調理器具……これとかどうだ?」


 俺は『収納』に入れておいた、どこかのダンジョンで拾った道具を出す。


 それらは金色に輝いていて、調理するにはちょっとまぶしい。

 一応フライパンや包丁等、全てが揃っているので問題ないか。


「こんな物しかないがいいか?」

「こんな物って……これ……なんですか?」

「確か……〈料理王の遺産〉……とかだったかな。これで作った飯はかなり美味くなるっていう効果がついていたはず。あ、後は手入れ不要もあったか?」

「気軽に聞きましたけど、こんな物が普通に出てくるとは思わないですよ……」

「そうか? まぁ、好きに使ってくれ」


 俺がそう言うと、さっきの老人が尋ねてくる。


「あの、シュタル様はどこかの名のある賢者様でしょうか?」

「俺は賢者ではない。最強の魔剣士だ」

「しかし、『収納』まで使われていましたし……そんな物まで……」

「俺は最強だからな。それとリュミエール」

「は、はい!」


 彼女は目をまた金に変えていた。

 確かに金ぴかだからそうしてもおかしくはないか。


「この肉を使ってくれ。野菜は……普通に売っているものを少し入れているだけだ」


 俺はそう言って調理場の上に以前狩った適当な肉と、普通に売っている野菜をドンとおいた。


「こ、この肉は!?」

「なんだ? 知っているのか?」

「もしかして……Aランクの魔物、ベヒーモスの肉ではありませんか?」

「おお、よく知っているな」

「この毛皮……過去に一度だけ見たことがあります。まさかそれだったとは……」

「ああ、パーティーを組んで居た時に狩った物だ。思う存分食べてくれ。1人で食っても仕方ないからな」

「こんな貴重な食材まで……本当になんと感謝を言ってよいのか……」


 老人はそう言って頭を下げる。

 ただの肉を出しただけだからそんなかしこまる必要なんてないのに。


「必要だったら言えばまた狩ってきてやる。出来れば2つ名持ちの強い魔物がいいがな」

「そんな近くに2つ名持ちの魔物はいませんよー」


 リュミエールの方を見ると、瞳には金と肉という文字が浮かんでいた。

 彼女の体は思いのほか正直なのかもしれない。



 それから皆で楽しく食事をして、今日は時間も遅いと言うことで就寝することになった。


 皆は奴隷商達が使っていたベッドを使って寝ている。


 俺は一応見張りの意味も込めて、入り口に近い位置で見張った。


 そこに、1人が近付いて来る。


「どうした? 外には行かせられないぞ」

「いえ……貴方に……何か出来ないかと思いまして」

「何か?」


 俺はそちらを見ると、確かリュミエールが回復魔法を使っていた女性が立っている。


「あたしはセレスタ。何が出来るという訳ではありません。しかし、出来るお礼はこれくらいしか」


 そう言って彼女は着ていた服を脱ごうとする。


 俺はそれを察して止めた。


「やめろ」

「しかし……」

「セレスタと言ったな?」

「はい」

「俺はそんな事をされなくても見捨てたりはしない。ちゃんと街に帰って問題ないようになるまで面倒は見てやる。だからそんな真似はしなくてもいい」

「でも……あたしに出来る事は……」


 そう言って涙を浮かべる彼女に、俺は言う。


「お前達に出来ることはあるぞ」

「それは……何でしょうか?」

「この俺、最強の魔剣士シュタルが最強であることを世界に知らしめる。それをしてくれるだけで何も必要ない」

「そんな……その程度のことで……命のお返しには……」

「なる。だから心配するな。お前の考えは分かっている」

「……」

「そうやって、体を重ねて少しでも守ってもらおうと言うのだろう? 大丈夫、最強の俺が守ると言った。その言葉に二言はない。だから安心して……眠るといい」

「うぅ……ぐす……」

「疲れただろう。ゆっくりと休め『睡眠魔法スリープ』」

「あう……」


 俺は崩れ落ちる彼女を受け止め、彼女の頭を膝の上に乗せる。


 そして、仲間の事をふと思いだした。


「皆……どうしているかな……」

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