第7話 解放

***セレスタ視点***


 絶望とはこう言うことか。


 あたしは手かせをされたまま、床に転がっていた。


 王都で必死に勉強し、学院を首席で卒業した。

 あたしの未来は明るい、そう思っていた。


 主席で卒業したということにより、城で働ける事にもなった。

 仕事もうまく行き、出世もそれなりに出来た。

 女で平民という事で限界はあったのかもしれないけれど、それでも、あたしは全力で頑張っていた。


 でも、ある時命令された視察で訪れた場所で、奴隷商達に捕まった。


 あたしには護衛もいたけれど、全員殺されてしまった。


 城での生活と、ここは天と地ほども差がある。


 にごった水を少量だけ飲み、食事もカビだらけのパン。

 透き通ったレモンの香りがする水と、豪華なフルコースからこの生活だ。


 そして時折連れて行かれるあたしと同じ境遇の奴隷たち。


 いつ自分が外に出されるのか。

 もう……いっそ連れていかれた方が楽なんじゃないのか。


 そんな時に、光は訪れた。


「無事か?」

「助けに来ました! 周囲で体調が優れない人がいたら言ってください!」

「とどめを刺して蘇生してやる」

「ちょっとシュタルさん!?」

「冗談だ」

たちが悪いですよ!?」

「わかったわかった。早く助けるぞ」

「お願いします」


 スパッ


 あたしは力なく聞いていたけれど、閉じ込められたろうが切られる音がした。


「大丈夫ですか!?」


 王城でも聞いたことのないような美しい声。

 それにかれるようにゆっくりと視線をあげる。


 光と闇があった。


 いや、違う。

 そう錯覚してしまっただけだ。

 この2人は……。


「光の巫女と魔王……?」

「半分はあってます! でももう半分は違いますよ!」

「リュミエール。回復魔法は使えないのか?」

「あ、そうですね! 『回復魔法ヒール』!」


 あたしの体が優しい光に包まれて、温かい何かが体を満たす。

 ああ……生きていて良かった……。

 助けてくれた目の前の2人に……あたしは何が出来るのだろうか。


******


「これでどうでしょうか?」


 リュミエールが回復魔法をかけて、地面にぐったりとする女性を助け起こす。


「あ……あぁ。ありがとう……ござい……ます……」

「しゃべらないでください! 今は休んで、体力もかなり消耗しょうもうしているはずです」

「リュミエール。これを食わせたらどうだ?」


 俺は『収納』からパンを取り出した。

 一応水につけなくても食べられるそこそこのパンだ。


「ありがとうございます! この方には私が差し上げておきますので、他の方の牢を壊すのと、食事をお願いします」

「任された」


 俺は彼女に言われるままに牢を剣で切断し、食事と飲み水を与える。


「神様……」

「神じゃない最強だ」

「さ、最強神さま……?」

「それでいい」


 よくわからないことを言って来るやつもいるが、それよりも他の奴も助けて行かねば。


「ありがとう……ございます……。この御恩ごおんは……一生忘れません」

「気にするな。俺がやりたくてやっているだけだ」


「助かり……ました。貴方の様な人が……来てくれる事は……諦めていました」

「ここまで落ちたんだ。後は登るだけだ」

「はい……感謝を……」

「ゆっくり食え」


 俺はそうやって牢を斬り、奴隷にされた人々を開放していく。


「ああ……いつぶりでしょうか……こんなに美味しい食事は……」

「ただのパンだ。ノドに詰めるなよ」


 そうやって多くの人を開放して行くと、総勢30人は捕らえられていた。


「これで全部か?」

「恐らくは……他の場所は分かりません」

「奥には何がある?」

「私たちの食事……です」

「そうか」


 一応軽く確認すると、人の食事とは思えないような物があった。

 敵などはいないようなのでそのままにしておく。


 一度リュミエールの所に戻る。


「どうだ? 大丈夫か?」

「はい。体調が悪化していて危険でしたが、死ぬほど酷い状態ではありませんでした」

「なるほど、奴隷だと言うが、病死した死体も無かったな」

「ええ、多少弱らせてはいるのかもしれませんけど、きちんと管理はしていた様ですね」

「他国にと言っていたが……詳しい事は分からん。とりあえず、助けられた事を喜ぼう」

「ええ」


 俺とリュミエールが話していると、後ろから奴隷の人達が近づいてくる。


 そして、先頭にいた老人が話しかけてきた。


「あ、あの……我々はどうなるんでしょうか……貴方は……この国の騎士様ですか?」

「いや? 違う。俺は最強の魔剣士。シュタル」

「シュタル……様。この度は本当に救って頂きありがとうございます。このままであればどうなっていたか……」

「無事で良かった。今日はもう遅い。ここで1泊して、明日セントロの街に行こう思うがいいか?」

「ここはセントロの近くなのですね」

「そうだ」

「しかし、敵の増援は来ないのでしょうか? 我々は……不安で不安で……」


 助けられた後だというのに不安げな表情を隠そうともしない。

 いや、それだけここでの生活が辛かったのだろう。


 安心させてやらねば。


「心配はするな。ここにいる奴隷商達は全て倒した。入り口も封鎖してあるから入って来られることもない」

「倒した……ですか?」

「ああ、中にいたのは全員倒したぞ」

「では……外にいたのでしょうか?」

「誰がだ?」

「〈瞬斬〉の2つ名を持つストレッロです。奴がいるせいで、ここにいる何人もの優秀な剣士たちも敗北してしまった」

「ストレッロ……確か倒したぞ? だよな? リュミエール」

「はい。一撃だったかと」

「一撃!?」


 集まっていた人達が皆驚く。

 そんなに驚くような相手だっただろうか?


「それは……素晴らしい腕をお持ちのようだ。本当に……本当に助けて頂いてありがとうございます」

「ああ、それよりもまずは、食事にしよう。ある程度は持ってきているからな」

「持ってきている?」


 俺は『収納』から多くの食事を出す。

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