第6話 金銀財宝

 ストレッロと名乗る奴隷商のボスは剣を俺につままれたまま放心している。


「よし。これでお前の全ては見たな?」

「へ?」

「じゃあな」


 スパッ


 俺は剣を抜き放ったままの奴の首を切り飛ばした。


「よし。これで終わりか」

「あ、今回はよみがえらせないんですね」

「んーまぁな。あいつは多少強いが……あれ以上の一撃はなさそうだ」

「そういうことも分かるんですか?」

「当然。俺は最強だからな」

「ですよねー」

「それで、お前の装備はどこにあるんだ?」


 俺はリュミエールを地面に降ろす。


「それは……探してみないと分かりません」

「あそこはどうだ?」

「あそこ?」


 俺は部屋の中のタンスを指し示す。


「こいつがその中を気にしていたからな。もしかしたら何かあるかもしれん」

「分かりました」


 彼女はトタトタと歩いて行き、タンスを開ける。


 しかし、ここがこちらの道の最後の部屋か。

 扉も1つしかなかったし、敵も強いのは居なかった。


「きゃ!」

「う、動くな!」

「貴様……どこにいた?」


 タンスの中には、高級そうな服を着た太った男がいた。

 彼はリュミエールの首にナイフをつきつけている。


 俺でも気配を見抜けないだと? 何か理由があるのか?


 そう思って奴を見ると、首から見たこともないペンダントを下げていた。


「う、うるさい! こいつの命が惜しかったら今すぐ自刃しろ!」

「す、すみません……シュタルさん……私の事はいいのでまとめて……」

「な、何をいうんだ! 儂は生き延びなければならんのだ! 生き延びて立派に任務を……」


 俺はそれ以上何か言おうとしている男の首を、即座に切り飛ばした。


「はたさ……ぇ」

「はぇ?」


 俺はそのまま奴の体が万が一にもリュミエールに危害を食わないように、ナイフを持った腕も切り飛ばす。

 そのまま流れるように彼女を俺の肩に乗せた。

 ついでにやつのペンダントも奪っておく、いいものの様だし。


「あれ……わ、私さっきまで人質に……」

「無事か?」

「え? ええ、でも一体何が……?」

「奴に気付かれる前に首を切り飛ばして取り返しただけだ。すまなかったな。もう敵はいないと思っていたのに」

「そ、そんな。私こそ……油断して人質に取られてしまって……あ。でも! 見てください!」

「どうした?」


 彼女がタンスの奥を示すと、そこには更に奥があった。


「ここから更に何かあるんです! もしかしたら……」

「なるほど、よほど……大事な物もあるのかもしれないな。行くぞ」

「はい!」


 俺達はそこを通り抜け、奥に入っていく。

 すると、そこにはかなり長い間溜め込んだのだろう。

 金銀財宝が山の様におかれていた。


「すごーい! 奴隷商って……すごく……すごく儲かるんですね……」


 リュミエールは喜んだかと思ったらすぐに凹んでいる。

 この金は人が売られた金であることに気付いたからだろう。


「リュミエール。装備を探せ。俺は全て『収納』しておく」

「シュタルさんは……変わらないですね」

「これはただの金だ。金に罪はない。そして罪を犯した奴らは既にこの世にいない。そうだろう?」

「確かに……その通りです」

「なら気にするな」

「はい! ありがとうございます」


 それから俺は金貨等を『収納』で詰め込んでいく。


「あ! ありました!」

「おう。着替えておけ。俺は『収納』しておく」

「……覗かないでくださいね?」

「後5年後に来い」

「……もう」


 彼女はそう言って柱の陰に入って着替え始める。


 俺はその間に全てをしまう。

 とりあえず色々な物がある。

 杖だったり指輪だったり鍵だったり。


 それぞれ魔力が宿っていて、特別な効果がありそうだ。

 まぁ、今はとりあえずしまっておこう。


 全て仕舞い終わったタイミングで、彼女が柱の影から出てくる。


「き、着替え終わりました」

「おお……似合っているじゃないか」


 彼女の服装は純白のローブだ。

 所々に金色と緑の装飾が施してあり、揺れるたびに光を放って美しい。

 手にはゴテゴテと装飾の施された金色の杖を持っていて、それも勇者関連の物だろうか。


「あ、ありがとう……ございます」


 彼女はちょっと顔を赤らめている。

 きっとあそこまでゴテゴテとした装飾が恥ずかしいのだろう。


 俺は気分を変えるように次の目的を話す。


「よし。それじゃあもう一つの方に行くか」

「もう一つの方?」

「ああ、ここに来る途中に、もう一つ道があったんだ」

「では……敵も残っているのでは?」

「そちらの方の敵は居ないはずだ。それに何かあっても逃げられないようにふたもしてきた」

「いつのまに……」

「俺は最強だぞ? 気付かれずにやったに決まっている」

「……なんでわざわざ黙っているんですか」

「先に敵の強い方を倒したかったからだ。その方が楽しいからな」

「……はぁ。でも、今日だけで貴方がどんな人か分かりましたよ」

「そうか?」

「ええ、それで、もう一つの方には何があるんですか?」

「奴隷たちが残っているだろうな」

「え……その方達を放っておいてこっちに来たんですか?」

「最初に引き釣り出したお陰でそちらに敵は残っていなかったしな。問題ない」

「体調の悪い人がいたり……」

「気配も死にそうではなかったし、もし死んでもこれくらいの時間なら俺が蘇生させてやる」


 俺はそう言って剣を持ち上げる。


 彼女はちょっと怒った顔をしていたが、苦笑して言う。


「もう……口ではそんなこと言って……ちゃんと皆助けてくださるんですね」

「助けると言っただろう? 最強の俺に二言はない」

「ええ、本当に……ありがとうございます」


 俺達は、他の奴隷たちがいる場所に向って歩き出す。

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