第5話 ストレッロ
***ストレッロ視点***
俺はストレッロ。
奴隷商の元で隊長をやっている。
先ほど敵襲があったと聞いて情報を部下にさせているのだが、まともな答えが返ってこない。
「おい! 一体何が起きているんだ!」
「わ、分かりません! 外に送った奴らは誰も帰ってきません!」
「っち! 何でもいい! 全員叩き起こせ! それと姿だけでもいい! なんとしても情報を持ち帰れ!」
「はい!」
部下が返事をして走り去っていく。
「お、おい……ストレッロ。大丈夫なんだろうな……」
そう声を聞いてくるのは俺が仕えている太った男。
仕えていると言っても俺の目的の為だからというのではあるが。
「問題ない。俺は剣術大会で優勝した経験があると言っただろう? Aランク冒険者パーティーとて殺し切ってみせる」
「おお! 流石ストレッロ! 騎士団長だったというお前を雇って良かったとこれほど思ったことはない!」
「だから大人しく魔道具を使って奥にいろ。巻き添えで死にたくはないだろう?」
「あ、ああ。分かった」
彼はそう言ってそのでっぷりと出た腹を揺らしながら奥に引っ込む。
「しかし……本当に誰が来たんだ……? あいつらは盗賊あがりと言っても俺が直々に
何が起きているのか不気味だ。
だが、俺がここを動くのもな……。
後ろにある大事な物にチラリと視線を移した所で、前の方から土を踏む音が聞こえた。
「誰だ!?」
俺は立ち上がって入り口をにらみつける。
そこから入って来たのは……。
「す、すいません……ボス……」
ドサっ
先ほど俺が姿だけでも見て来いと言った部下だ。
彼は倒れ込み、背中に深い傷を負っている。
もう助からない。
そう分かるほどに鋭い一撃だ。
「おーここか?」
「どうでしょう……私はここまで来たことありませんでしたから……」
肩にエルフを担いだ、化け物が入って来た。
******
道中に仕掛けられていた罠は全て踏みつぶし、敵の首は切り飛ばしてきた。
ただ、何か情報を持って居そうなやつは軽く少し動いた後死ぬように調整した。
そうすればボスのいる所に案内してくれると思ったからだ。
結果はビンゴ。
中々に強そうな奴がいた。
体は大きく、背も高い。
彼の持っている長剣が短剣に見えてしまいそうな程だ。
「お前がここのボスか?」
「そうだ。隊長のストレッロという」
「なんでそれだけ強いのに奴隷商をやっている?」
俺が興味本位で聞くと、奴は何か気に
「これは復讐だ! この国が俺を裏切ったんだ! だからこの国の優秀な奴ら! そいつらを奴隷にして他国に売り払っているんだ!」
「復讐?」
「そうだ! たった一回敗北しただけで……それだけで騎士団を首になった! ふざけている!」
「そんな理由で多くの人達を奴隷にしたのか?」
「そんな……そんな理由だと! ふざけるな! 俺が……俺がどれだけ騎士団長になるためにやってきたか! 暗殺、
「なぁ……リュミエール」
「……はい」
「暗殺とか賄賂って誇れることか?」
「誇れないと思います……」
「だよな」
「はい」
俺がリュミエールに聞くと、思っていた答えが返ってくる。
良かった。
聞いたことのない価値観だから少し驚いてしまったのだ。
「それを貴様らが邪魔をして! 許さんぞ!」
「別に許しをもらうつもりなどない」
「ならばさっさと死ね!」
奴は剣を抜き、かなりの速さで俺に向って剣を振ってくる。
俺はどうしようか考えた後、剣を収めた。
「貴様!」
奴の目に怒りが宿り、剣速がわずかに上がる。
おお、ここまでの速さは中々いない。
俺はそんな彼の剣を、右の人差し指と親指で挟む。
「よし。行けるもんだな」
「な……貴様……今……何を? スキル……か?」
「いや? 純粋に見切っただけだが?」
「ふ、ふざけるな! 【
彼は剣を離して欲しそうだったので、俺は素直に離す。
「な! 離した!?」
「ではもう一度。ほら。待っててやるから」
「貴様……! 後悔しても知らんぞ!」
彼は俺から少し離れて、力を
全力で攻撃をして来るつもりのようだ。
なんとワクワクするのだろうか。
「あの……」
「ん? どうした? リュミエール」
「私には……当たらないようにして下さいね?」
「安心しろ。目をつむっても問題ない」
多分。
「めっちゃ怖いので早くしてください」
「行くぞ! 死ね!」
奴は力を溜め終えたのか、さっきよりも早い速度だ。
俺は目を閉じて、奴の気配を待つ。
「貴様! 目を閉じた!?」
「ええ! 本当にやったんですか!? 私怖いんですけど!?」
「それくらい我慢しろ。抱っこしてやっているだろう」
「抱っこっていう感じじゃないんですけど!?」
「あの世で後悔しろ!」
リュミエールの言葉を聞き流し、奴の剣を感覚で捕らえる。
そして、俺はその剣が来るであろう場所にそっと指をおき、つまむ。
「ば、バカな……」
「よし。やってみるのもだな。うまく行った」
俺の指の中には、確かに奴の剣が挟まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます