第4話 洞窟にいこう

 俺はリュミエールと一緒に街へ向かっていた。

 ドラゴンを引いているけれど、下りの山道なのでかなり楽だ。


 これでは最強になるために鍛えているのに負荷にならないのが少し残念だ。


「そう言えばリュミエール」

「何ですか?」

「その服は何とかならないのか? 流石にそのまま連れていくと俺がロリコンだと疑われそうなんだが」

「ちょっとどういう事ですか! 私はこれでも成人しています!」

「しかしその背丈せたけはな……。服装で何とかごまかせないか?」

「服や……装備は奴隷商の所にあるので取りには……」


 彼女はそう言って視線をチラリとドラゴンに向ける。


「ドラゴンが欲しいのか?」

「違います! ドラゴンを引っ張ったまま奴隷商の所に行くことは出来ないでしょう? かと言って放置して置いたら、他の魔物に食べられてしまうかもしれませんし……」

「なるほど、そんなことを心配していたのか」

「心配します! ドラゴンをそんな丸々売ったらいくらになるか……」


 彼女の瞳は金になっている。

 思ったよりも世俗的なエルフなのかもしれない。


 ただ、彼女の心配は無用だ。


「『収納』」


 俺は収納魔法を発動し、ドラゴンを丸々全て魔法の中に取り込む。


「え……ドラゴンは……どこに?」


 彼女の瞳の金が? マークになった。


「片付けた」

「片付けた……? どうやってですか?」

「もちろん『収納』魔法でだ。俺は魔剣士だと言っただろう」

「いやいや! 言いましたけど! 言いましたけど! 『収納』魔法って賢者とかが長年の修行の果てに覚えられる魔法じゃないんですか!? それも、自身の体位しかサイズはないと聞きましたけど!?」

「俺は最強だからな。その程度は問題ない」

「そんな……便利グッズみたいな……」

「それよりも奴隷商の所に行くのだろう? リュミエールの装備も全て取り返そう」

「! でもいいんですか?」

「何がだ?」

「その……最強への寄り道になってしまうんじゃないのかな……と」


 彼女は不安そうに俺の顔を見つめている。

 幼い少女にこんな顔をさせるのは最強のすることではない。


「奴隷商の所にも強い奴がいるかもしれん。それと戦えるのであれば寄り道ではない」

「そう……ですか。そんな風に言ってくださるんですね。ふふ、ありがとうございます。シュタルさん」


 彼女は何か分かった様な顔で笑っているが、どうしたのだろうか。

 でも、彼女が笑顔になるのは、悪い気はしない。


「それで、どっちの方だ?」

「あ、こっちです!」



 リュミエールについて歩くこと2時間。

 俺達は山の中腹にある洞窟どうくつの前にいた。


「ここが……」

「はい。そうです。見張りもいると思いますし、不意をついて……」

「おい奴隷商共! 最強の魔剣士であるシュタル様が来たぞ! さっさと出て来い!」

「あ? なんだてめぇ!」

「出て来い! 敵襲だ!」

「あいつは逃がしたエルフじゃねぇか! 自分から捕まりに来るとはな!」


 見張りの奴隷商達は中に声をかける。

 すると、洞窟の中からは20人を越える人が出て来た。


「リュミエール。後どれくらいいる?」


 彼女の方を振り返ると、彼女はよよよと落ちこんでいた。


「どうした。リュミエール」

「なんで……なんでわざわざ声をかけるんですか……普通は夜まで待って奇襲するのが正しいんじゃないですか」

「そんなことしたら俺が最強だと示せないだろう」

「奴隷商にまでやらなくてもいいんですよ……」

「まぁいい。俺から離れるなよ」

「え?」

「俺が守ってやるから、むしろ離れたら危ない」

「え? きゃっ!」


 俺は彼女にそう言いつつ、彼女を左腕で肩に抱える。


「え……これは……荷物?」

「それが安全だ。おっと、舌をむから口を開くなよ」


 俺は開いている右手で剣を引き抜き、奴らに向っていく。


 奴らは数で押すつもりだからか、もしくは陽動ようどうの可能性を警戒してかじっと待っている。


「てめぇ! どこのもんだ!」

「別に言う必要はないだろう」

「あ? なんで……ごっ」


 俺は口を開いた奴と、その周囲の奴らの首を切り飛ばす。


「もう知る必要はないからな。俺の最強の名も、あの世までは持っていけまい?」

「ひ、ひぃ!」


 5人ほど一瞬で切り飛ばしたからか、奴隷商の奴らがおびえて後ずさる。


 俺はそいつらが2歩目を踏み出す前に、全員の首を切り飛ばした。


「へ……」

「悪は切られる為にある。そうは思わないか?」

「す……すごいですね……」


 肩の上に乗っているリュミエールがそう言って来る。


「そうか? これくらいは出来て当然だ。最強だからな」

「でも……わざわざここに呼び出さなくても……」

「何、中にはお前以外の奴隷もいるのだろう? なら、こうやって外に引きずり出してからやった方が人質にはされにくい。何があって気付かれるか分からないからな」

「シュタルさん……」

「ま、普通に隠密おんみつで殺す方が安全なんだけど」

「ですよね!? ちょっと納得仕掛けましたけど、普通に考えたらそうですよね!?」

「安心しろ。俺は最強。つまり、敵に気付かれたとしても、人質に取られたとしても、全員を助け出せる。それが最強である俺だ」

「ほ、本当に……?」

「ああ、見ていろ。すぐにお前の装備も取り返してやる」


 俺は彼女を肩に担いだまま、洞窟の中に足を踏み込んだ。

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