第2話 リュミエール

***リュミエール視点***


 私はリュミエール。

 エルフ族の光の巫女として生まれてきた。


 光の巫女は勇者と共に魔王を倒す存在。

 里では厳しい訓練を受けて、勇者様と出会い魔王を倒す為に旅立った。


 けれど、人間に騙されて売られそうになった。


 すきを見て逃げ出したはいいけれど、すぐにバレて捕まりそうになる。

 でも、何でこんな危険な山にいるのか分からないけれど、通りすがりの魔剣士が助けてくれた。


 しかも盗賊達を瞬殺だ。

 

 これは頼りになる。

 そう思っていたんだけれど……。


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

「なんでわざわざAランクの魔物に自分から行くんですか!?」

「言っただろう? ちょっとした狩りだって」

「Aランクって国だと騎士団が出たりするんですよ!? 冒険者だってAランク冒険者パーティーでも勝てるかどうか怪しいんですよ!? 何でそんなヤバい相手にちょっとした狩りなんですか!?」

「なに、ちょっとデカいトカゲさ」


 私はそう言われてファイアードラゴンを見る。


 体長は10ⅿはあるだろうか。

 真っ赤なウロコは頑丈そうで、どんな攻撃すら跳ね返しそうだ。

 その下の筋肉は長年戦い続けたのか力強く、四肢に少し力を入れるたびに地面が凹む。

 怒りからか口からは炎が漏れ出ていて、翼も大きく開いて威嚇いかくしている。


 やばい。


 決してちょっとデカいトカゲなんてレベルではない。

 

「何でこんな堂々と行くんですか! せめて不意打ちするべきじゃないんですか!?」

「そんな事をしたら俺が最強だと証明出来ないだろう?」

「勝てばいいんですよ勝てば! 寝込み襲っても勝てば最強って言っていいですから! 今日は一度逃げましょう!?」


 こんな所で命を捨てたくはない。

 奴隷にされそうになるのから助かったと思っていたら、今度はドラゴンのエサだ。


 なんて2択なんだろうか。

 世界を救う為に旅に出たはずなのに……。


「もうダメです……」

「安心しろ。俺が倒すと言っただろうが」

「そうですね……好きにしてください……」


 ファイアードラゴンなんて普通に考えたら人が太刀打ち出来るような相手ではない。

 私のスキルを使っても今の力ではウロコに傷一つつけられそうにない。


 シュタルさんは真っ白い美しい剣を抜き放つとドラゴンに向って進んでいく。

 服装は黒を基本として、所々に赤と銀色の装飾をした服を着ている。

 髪は黒で瞳は赤、体型は細身な筋肉質だろうか。


 あれではドラゴンのエサにもならない。

 そう思っているとドラゴンがブレスを吹こうとしている。


「ブレスが来ます! 避けて!」


 思わず叫んでしまった。


「何、この程度問題ない」


 シュタルはそう言って、一瞬で目の前から消える。


 ボアアアアアアアアアアアアア!!!


「え?」


 彼がいた後を炎が焼き尽くす。


 私は慌てて周囲を見回すと、彼は空高くに跳んでいた。


「あんな所に……」


 そして次の瞬間には、ブレスをしているドラゴンの頭を蹴りつけた。


 ドゴオ!!!


「ギャオオオオ!!??」


 ドラゴンはブレスの最中だったにも関わらず、強制的に地面に叩きつけられる。


 シュタルはそのまま剣を頭に突き立てた。


「ギャオ……」

「え……」


 私は信じられずに見ているけれど、ドラゴンはぐったりとしてピクリともしない。

 その瞳も力を失い、にごり始めていく。


 まさか……本当に……勝ったの?

 あんな一瞬で勝負を決めてしまうなんて……そんな……信じられない。


 私はそう思ってなんて声をかけようか迷っていると、彼はふと剣をかかげた。


「え? 何? 剣の……能力?」


 彼の真っ白な剣は、まぶしいくらいに光り輝いてドラゴンの体を包む。


「え? 嘘でしょ? あの光って蘇生そせいの……え? でも今倒したんだよね? 狩るって言ってたし倒す予定なんだよね?」


 私は彼に問いかけるけれど、距離が離れているからか声は届かない。


 そして、その光がドラゴンの体を全て包み込み、瞳に力が戻った。


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

「何で蘇生してるんですか~~~~~!!!??? 狩るって言ったじゃん! 狩ってないじゃん! どうなってんのよ!」


 私は思わず心からの叫びが出てしまう。


 私の声に気付いたのか、彼はこちらを振り向き戻ってきた。


「なんだ?」

「なんだ? じゃないですよ! 何で倒したのに蘇生させてるんですか! さっさと街に行きましょうよ!」

「ダメだ。まだ俺の最強を証明出来ていない」

「何なのよ最強の証明って! っていうかドラゴン来てる! ドラゴン来てるって!」


 彼と話している間に、さっきよりも3割増しで怒ったドラゴンが近付いてくる。

 この距離だとブレスの範囲に私も入ってしまう。

 急いで倒してもらわないと。


「大丈夫。俺は最強だ」

「貴方が最強でも私は最強じゃないのよ!」

「当然だ。最強は世界で1人しかいらない」

「そんな話は後でいいから! ほら! ブレス! ブレス来るから!」


 ドラゴンが首をあげている。

 もうブレスまで数秒もない。

 このままでは……。


「何を言う」

「何って何が!?」

「俺が最強。そう言っただろう」

「あ……」


 終わった……。

 最強とか言うだけの彼が……どうするのだろうか。


 ボアアアアアアアアアアアアア


 ドラゴンのブレスが放たれ、それが私と彼を包み込もうとしたその時、


 シュパッ!


 ブレスが切りかれた。


「へ……」


 それからも、ブレスが私の方に来ようとするたびに、シュパっと音がすると、ブレスが割れた。


「何……?」

「決まっている。俺が奴のブレスを切っているのだ」

「そんなこと……」

「出来る。それは俺が最強だから。最強であるのなら、どんな相手のどんな攻撃もかわし、受け、越えていく。それが出来るから最強なのだ」

「そんなバカな……」

「安心しろ。お前は何があっても俺が守ってやる」


 ドクン


 私は……何故か心臓が高鳴った気がした。

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