旅の終わり

みずほ

旅の終わり

 軽快な電子音のチャイムが鳴り、続けてもうすぐ終着駅に着くという放送が流れる。あと十分もすれば、この長い旅が終わる。窓の外には夕陽が輝き、並ぶ建物はその光に煌々と照らされている。体の奥から疲れが湧き出てくるのは、もう少しで暖かい我が家に帰れるという安心感からだろうか。しかし、それは広がる雄大な自然、普段は食べないような美味しい食事、そして暗闇の中に輝く街並み。それらの感じてきた非日常が遠ざかり、また普通の日常が近づいてきているということだ。もう少しだけ、この気分を味わっていられないだろうか。旅の中にあるこの感動と興奮を。そんなことを頭の中で考えている間にも、日は沈み、空はより鮮やかな赤に染まる。


 荷物をまとめ、デッキへと向かう。列車は駅に滑り込み、やがて扉が開いた。外に出ると、途端に音が増えた。人々の話し声、駅の案内放送、響く車輪の音。ああ、ようやく帰ってきたのだ。この騒がしい街に。明日からはまた普段通りの日々がはじまる。それでもきっと、この旅を忘れることはないだろう。空は暗くなり、一日が終わろうとしていた。

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旅の終わり みずほ @Ao15G

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