キスしてあげよっか?
恐る恐る振り返ると、やはりと言うかなんと言うか、そこには博之がいた。
しかも傍らにはなぜか愛美まで連れて。
「こんなところでなにをしているんだ。デートか?」
「ち、違えよ。そっちこそ二人きりでなにやってるんだよ。お前らがデートじゃないのか?」
「バーカ。よりによってなんでこんな奴とデートしなきゃいけないのよ」
愛美が本当に不快そうに眉をひそめる。
「たまたまそこのコンビニで会ったのよ。で、これまた偶然、二人共向かう方向が一緒だったから並んで歩いてたワケ。そうじゃなきゃコイツと一緒にいないわよ」
「ふん、それはこちらの台詞だ」
「そうだ、良かったらこれから皆で駅前のゲームセンターに行かない?」
「お、おいサヤ……」
サヤがまさかの提案をして、俺は思わず戸惑ってしまう。
「へー、いいねえ。行こう行こう!」
「悪くないかもしれんな」
割と乗り気な愛美と博之。
そんなことをしたらそのままなし崩し的に家までついて来るかもしれない。
ただサヤが楽しそうにしているのに、強引に追い返そうとするのも角が立つ。
こうして俺達は余計な二人を仲間に加えて、カラオケ店近くのゲームセンターに足を運ぶことになった。
まあむしろ四人でワイワイ遊んでいるほうが、サヤに怪しまれずに済むかもしれない。
ゲームセンターに到着すると、まずはレーシングゲームやシューティングゲームを皆でプレイした。サヤも大いに楽しんでいる。
「ねえねえみーくん、次はアレやろっ」
そう言ってサヤに手を引かれてやって来たのはクレーンゲームだった。
「みーくん昔から得意だったよね? また腕前見せて欲しいな」
「んーいいぜー。なにか取って欲しい物はあるか?」
サヤが「んっとね……これ!」と言ってクマのぬいぐるみを指差す。
「よし任せろ」
真剣な表情で、俺は小銭を入れてアームを操作する。
「そう言えば水輝ってクレーンゲームだけは上手かったわよね」
「彼女に良い所を見せるチャンスだぞ。失敗するなよ」
「オイそこ、集中出来ないから静かにしろ」
奇妙な緊張感が漂う中、慎重に狙いを定めてアームでぬいぐるみを掴む。
途端に「おー」という歓声が湧く。
「ほらサヤ。これが欲しかったんだろ」
「わあ、ありがとうみーくん!」
サヤは心底嬉しそうに、受け取ったクマのぬいぐるみを抱き締める。
子供の頃にもこうやって手に入れた景品をプレゼントしていたことがある。
サヤの笑顔を見ると当時を思い出して、なんだか照れくさくなった。
「えへへ。お礼に何かしてあげたいなー。そうだ、キスしてあげよっか?」
「い、いいって、こんな人前で!」
やんわりと拒否しながら、俺は愛美達のほうを見た。
「私達に構わずにして貰えばいいじゃない」
「むしろこっちは大歓迎だぞ」
「お前ら人の気も知らないで!」
誰のせいで出来ないと思っているんだ。
もし今後することがあったとしても、コイツらの前では絶対にしないと心に誓った。
「じゃあ今度は私がみーくんにプレゼントしてあげるー」
サヤはそう意気込んで、クレーンゲームの隣にあるプライズゲームに俺達を連れて行く。
いわゆるスイートハンドと呼ばれるゲームだ。
恐らく誰もが一度は遊んだ経験があるのではないだろうか。
ショベルを操作してお菓子をすくい上げ、景品獲得口に落とすゲームである。
サヤはこのゲームが大の得意で、早速、一回目の操作で三つもお菓子を取って見せる。
「おお凄いな」
珍しく博之が素直に賛辞の言葉を送る。
「はいみーくん。これがクマさんのお礼だよっ」
「お、いいのか。サンキュー」
嬉々とした表情でサヤが差し出したお菓子を、俺は有り難く受け取る。
「でも三個だけじゃあちょっと釣り合わないよね……。あと百個くらい取ってあげるー」
「いやさすがにそこまでしてもらう必要はないと思うんだが……」
いくらサヤでもそんなに取っていては日が暮れてしまう。
「それに今日はサヤの誕生日なんだから」
「え、サヤちゃん今日誕生日だったの?」
その時、突然それまで黙っていた愛美が驚いた声をあげた。
しまった。つい口が滑ってしまった。
「うん、実はそうなんだ」
「ちょっとー、なんで言ってくれなかったのよ。そうだ、これから皆で水輝ん家行ってパーティーしない?」
「いやいやいや、それは駄目だ!」
そんなことをしたら計画がなにもかも台無しになってしまう。
「なんで? なにか困ることでもあるの?」
「う、それは………」
どうする。どうすればこの場を打開出来る?
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