俺がなんとかしてやるから
そして迎えた二日後。
「なあサヤ。せっかくだから今日はどこか出かけないか?」
自宅のリビングで、サヤと二人でのんびりテレビを見ていた時、俺は事前の打ち合わせした通り、サヤに外出するよう提案する。
だがここへ来て予期せぬアクシデントが発生した。
「え、でも外は雨だよ」
そう、今朝はあいにくの雨に見舞われてしまったのだ。
しかも外出を躊躇させるくらいの土砂降りで。
天気予報では曇りと言っていたのに。
「で、でも雨の日の散歩も良いもんだぞ。そうだ、その辺のカラオケにでも行かないか?」
「うーん、でも予報じゃ昼頃から晴れるって言ってるから、もう少し待ったほうが良くない?」
「そ、それは駄目だ……」
昼からだとパーティーに間に合わない。
つい先ほど秋山里美や他のマジセプメンバーがこちらに向かっているとLINEで連絡があった。
一刻も早く家を出ないと鉢合わせしてしまう。
「今すぐサヤとカラオケに行きたいんだ。二人でデュエットしたいから!」
「う、うん。わかった……そこまで言うなら」
サヤが若干、引き気味に頷く。
もうちょっと自然な言い方をするつもりだったのだが、焦るあまり失敗してしまった。
ともかくこれでサヤを自宅から連れ出すことに成功したわけだ。
その隙に俺は里美さんにLINEでメッセージを送る。
『アンゴラウサギはもうすぐ
これは里美さんと二人で決めた暗号である。
アンゴラウサギというのはサヤ、ケージは自宅のことを意味する。
つまりこのメッセージは、サヤがもうすぐ家を出ることを伝えているのだ。
里美さんは、もしLINEでのやり取りをサヤに見られても大丈夫ないように、二人だけに通用する秘密の単語を作ろうと提案した。
単語のセンスは別として、これならバレる心配はない。
一分も経たずに返信が来た。
『了解。こちらももうすぐ到着する。アンゴラウサギがいなくなり次第、洗濯物を洗濯機に入れる』
洗濯物とはパーティーグッズのことだ。
秘密にする為とはいえ、非常にシュールなやり取りだと自分でも思う。
支度を済ませると、激しい雨が降りしきる外に飛び出した。傘を差していても雨風で水滴が肩にかかる。
こんな天気に好き好んで外出する奴はそういないだろう。俺だってパーティーがなければ家でゴロゴロしたい。
だがサヤの誕生日の為には我慢するしかない。
パーティーの準備はカラオケが終わる頃には完了しているだろう。
マジカル・セプテットが俺の家に来るのだと思うと今から楽しみだ。
「あ、いっけない。お財布忘れてきちゃった」
「え」
家を出て最初の交差点に差し掛かったところで、サヤが立ち止まった。
「すぐ家に取りに戻らないと」
「い、いいんだよ。今日は俺の奢りなんだから」
今戻られたら計画が台無しになる。
「でもなにかあった時にないと困るんじゃあ……」
「心配ないさ。どんなことが起こっても俺がなんとかしてやるから。サヤは大船に乗ったつもりでいてくれ」
「本当に?」
「ああ。チンピラにカツアゲされたり財布を落としたりしたら話は別だけど……」
我ながら柄にもないことを言っていると思う。
後で取り返しのつかないことを口走らなきゃいいけど。
「えへへ、なんだか嬉しいな……みーくんがそう言ってくれて」
「そうか?」
サヤは照れくさそうに小首を傾げる。
「だって昔に戻ったみたいで。あの頃も良く私を守ってくれたよね? いつも私の王子様でいてくれてありがとねっ!」
「あ、ああ。どういたしまして」
屈託のない笑顔でお礼を言われると、なんだか騙しているようで気が引ける。
当然ながらサヤには朝に誕生日のお祝いを言っただけで、サプライズパーティーを用意していることは言っていない。
プレゼントはパーティーで渡すことにしている。
カラオケに行って家に帰るまでは隠し通さないと。
ところが店に着いた途端、またも難題に直面する。
「大変申し訳ありませんがただいま満室です」
受付の店員は事務的な口調でそう告げる。
「そうですか、いつごろ空きますかね?」
「さあ、少なくとも一時間は……」
なぜこう立て続けに予想外の出来事が起こるのか。
「どうするみーくん?」
「うーん……」
店を出たところで、サヤが所在なさげに訊ねる。
カラオケで時間を潰す作戦が、これで水の泡となった。
どうしたものか。
「そうだ、カラオケの代わりに駅前のゲーセンに行くのはどうだ?」
「うん、いいねっ」
先ほどよりも雨の勢いが衰えてきているし、移動には困らない。
「どうせなら愛美ちゃん達も誘えば良かったね」
「えぇ、そうかぁ? アイツらを呼んだらかえって楽しめない気がするけどな……特に博之が」
俺はサヤの意見に異論を唱えることは滅多にないのだが、今のは同意出来ない。
実はにあの二人には今日、サヤの誕生日パーティーが開かれるのを知らせていないのだ。
里美さんから何人か友達を呼んでいいと言われたものの、もしパーティーに招待したら愛美は必ず俺の恥ずかしい話をするだろうし、博之に至ってはなにをするか完全に予測不可能である。
結果、呼ばないほうが無難だという結論に至った。
「サヤは知らないかもしれないけど博之と愛美はな――」
「俺達がどうしたって?」
背後から声がした。
それも今一番、聞きたくない声だった。
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