第5話 優しい添い寝。寝物語つき。
ご飯を食べ終え、お風呂にも入り終わったあなたは、ベッドにうつ伏せで寝転んでいました。ただ添い寝するだけではもったいないと言ったメイドさんが、マッサージをしてくれると申し出てくれたからです。
「本当はオイルマッサージをして差し上げたかったのですが、もうお風呂に入ってしまいましたので、今日は普通にやっていきますね」
うん、お願いします。そう言ったあなたの腰付近にメイドさんが乗ってきました。
「重くないですか?」
全然だよ。そう返すと、メイドさんは「よかった」と言って優しく身体に触れてきました。
「なかなか、凝っていますね。一生懸命頑張っている証拠です」
グ……グ……。メイドさんは背骨の左右に走っている筋を揉みほぐしてくれます。
「痛くないですか?」
痛いどころか、気持ちよくて眠くなってきました。しかし、ここで眠ってしまう訳にはいきません。せっかくメイドさんが添い寝をしてくれると言っているのですから、それまではなんとしても起きていなければなりません。
グリグリ……グリグリ。メイドさんは肩甲骨の間に指を滑り込ませていきます。
「この辺のコリを解すと、肩の回りがよくなるんですよ」
きっとマッサージが終わる頃にはあなたの身体は驚くほど軽くなっていることでしょう。そう思わせるほどにはメイドさんのマッサージは上手でした。
「さ、仕上げの柔軟をしていきますね」
メイドさんはあなたの腕を持ってゆっくりと筋を伸ばしていきます。
グイ……グイ……。痛気持ちいい、そうとしか表現出来ない感覚です。じっくりと身体の筋が伸ばされていくのは、なんとも快感です。
「はい、おしまいです……どうでしたか? 身体の疲れはとれましたか?」
少し身体を動かしてみると、あれだけ重たく感じていたのが嘘のように軽いことにあなたは驚きます。
「それだけ身体が凝っていた証拠です。今夜はきっと、よく眠れますよ」
メイドさんはそう言ってあなたの隣に横になりました。
もともと一人用のベッドなので、メイドさんの体温が直に感じられるほど密着しています。彼女の甘い匂いも漂ってきて、とても落ち着きます。
「寝物語をなにか語りましょうか。なにがいいですか?」
寝物語といっても、森のくまさん程度しか知らないあなたはメイドさんにお任せする事にしました。
「おまかせ、ですか……そうですね。じゃあこんな話はいかがでしょうか」
そう言って始まったメイドさんの寝物語にあなたは耳を傾けます。
「あるところに、一匹の子猫がいました。その子は親とはぐれてしまって困っていました。その場から逃げ出そうにも、鉄の箱がすごい速さで動いていて怖くて動けませんでした。どうしよう、どうしよう。その猫は一生懸命考えますが、いい考えが思いつきません」
メイドさんはあなたの肩を優しくぽんぽんと叩きながら語ります。そのおっとりとした口調と、優しいリズムにどんどん瞼が重くなっていきます。
「そんな時、一人の人間さんが現れます。『親とはぐれちゃったのか?』そう言った人間さんは猫を優しく抱くと、安全な場所まで避難させてくれました。人間さんは温かい毛布と美味しいご飯をくれました。子猫は人間さんの飼い猫となってすくすくと育ちました」
あなたは大きなあくびをしました。もう、眠りにつくまで秒読みです。
「子猫は優しい人間さんの元で天寿を全うしました。しかし、子猫には一つだけ心残りがありました。人間さんに恩返しがしたかったのです。子猫は神様にお願いしました。どうか、私を人間にしてください。そうしたら人間さんのところに行って癒やしてあげられる」
メイドさんはあなたが眠ってしまったことに気づきました。しかし、寝物語を終わらせるつもりはないようです。
「神様は子猫の願いを叶える代わりに、試練を与えました。神様は『人間を幸せにさせるまで、決して正体がバレてはいけない。それから、お前が人間に会えるのは夜だけだ』と言ったのです。わかりました、絶対に人間さんを幸せにします。子猫はそう言って人間さんの元までいきました」
メイドさんはぐっすりと眠るあなたの顔をたっぷり見つめた後、自身も眠りにつきました。
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